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新人賞選考の裏事情

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作文・エッセイ
作家デビュー

「ヤバい」描写

  私はカルチャー・センターで対面講座を持っていたこともあるし(現在はコロナ禍で中止となり、再開の見通しが立っていない)メールの添付ファイルに赤字を入れる方式の通信添削は30年以上も続けている。

  そうすると、様々な質問が飛び出てくる。

「こんなことを書いて、下読み選者さんに、どう評価されるでしょう? ヤバくありませんか?」

  ここで言う「ヤバい」には色々あって、箇条書きしてみると、以下のようになる。

①性描写が際どい。これも様々あって、

  ア――ノーマルな男女の性行為。

  イ――一方の意に添わない強姦。

  ウ――輪姦。これには、刑務所などで受刑者が受刑者仲間に肛門を犯されるものも含まれる。輪姦されるのは女性とは限らない。アメリカの刑務所などでは頻繁に起きている。被害者は何十人にも犯されるので肛門が引き裂けて惨憺たる有様になる。

  エ――男同士の同性愛性交。

  オ――女性同士の同性愛性交。

  カ――大勢の見物客から観覧料金を取って舞台上で男女が実際に性交して見せるショー。

②違法行為の克明な描写。例えば、

  キ――爆弾など危険物の製造。

  ク――覚醒剤、麻薬、大麻などの製造。

  このキとクは、その文章を読んだら真似して実際に製造ができてしまうレベルの詳しさである。

  

端的に言って、こんなところは、下読み選者は見ない。下読み選者が見るのは、あくまでも「既存作に前例があるか否か」「他の応募作とアイディアのバッティングがないかどうか」である。

  何度も繰り返し書いていることだが、新人賞は「他の人には思いつかないような物語を書ける新人を発掘する」ことに主眼を置いて選考が行われる。

  したがって、似たような設定の物語は、束にして落とされる。

  ただ、一次選考は基本的に独りの下読み選者によって行なわれる。そのため「下読み選者の好みに合わない」という理由で落とされる事例が存在する。

  このせいで、A賞の一次選考落ちが、そのまま加筆改稿もせずに転応募してB賞を受賞、などということが、現実に起きる。

  A賞の一次選考落ちが、B賞の最終候補にノミネートされた事例なら、もっと多い。

  しかし、たいていの新人賞では、応募要項で「他賞の応募落選作の応募」を禁じている。もちろん、これには理由がある。

  一次選考落ちの応募作は、大多数が「箸にも棒にもかからない駄作」である。

  そういう作品を転応募されたのでは、選考を行う側としては、堪ったものではない。だから、応募要項で禁止するわけである。

  前述のような、A賞の一次選考落ちがB賞を受賞とか、最終候補にノミネートされる事例は、一定以上の文章力はあるが、「下読み選者の好みに合わない」「たまたま下読み選者が読んだ既存作の中に似たものがあった」といった場合である。

  後者だと、評論家として名高く、様々な新人賞で選考委員の中に名前を連ねている大森望さんのように「それはアメリカで**年に出た、日本では未刊行の作品に酷似している」「こういう作品を書くのなら、NASAのサイトぐらい端から端まで読んでおけ」などと言われても、原書や欧米のサイトを読むほどの語学力のないアマチュアとしては手の打ちようがない。

  前者だと、「描写が汚い」系統の作品を嫌う下読み選者が実在する。比喩に糞尿のような汚物を使った場合などである。

  肛門性交を比喩に使うのを嫌う(「オカマを掘られたような」とか)下読み選者も、実在する。

  同性愛を嫌う下読み選者は、それほどいるとは思えないが、皆無だと断定するほどではない。

  新人賞選考には、こういった「裏事情」が存在することを念頭に置いて、アマチュアは応募対策を立てなければならない。

プロフィール

若桜木虔(わかさき・けん) 昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センターで小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

 

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