つくり続ける人たちの理由 VOL.3 胸を張って「作家です」と言えるようになりたい。
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言えるようになりたい。
ある日、私と同じくらいの年齢の子が物語を書いたというニュースを見た母が、「あなたも書いてみたら?」と本を読むことが好きだった私に勧めてくれたんです。それが小説を書き始めたきっかけになりました。文房具屋さんへ行くたびにお小遣いで原稿用紙を買い、どこへ行くにもそれを持ち歩いて、小学校4年生の時には原稿用紙300枚ほどの軽いラブコメ小説を書いていました。大学受験で忙しい時期も、通学中に携帯のメールの下書きに小説を書いていましたし、今まで一度も書くのが途切れた時期はありません。
設定資料やプロットの山。高校生の頃から書き溜めたものだそう。
配属されたのが時間に余裕のある部署で、「こうして暇にしている時間があれば小説が書けるのに!」と思っていました。京都が好きなのに東京勤務になり、周囲も「お金がもらえるなら土曜出勤してもいいわ」みたいなやりたいことが特にない人ばかりで。小説家を目指していた小学生の頃の自分に、今の姿を見せるのは恥ずかしいと感じ始め、先のことは考えずに仕事を辞めて関西に戻りました。
退職する直前に、引っ越し費用を稼げればいいや、くらいの気持ちでキャスティング事務所に登録したのが始まりです。あるイベントに参加した時に、今の事務所に声をかけていただきました。マネージャーさんが、私の小説を書きたい気持ちをとてもよく理解していて、文筆につながりそうな仕事を探してくれるんです。最近では「ワンピク」という1枚のイラストから物語を作る企画で小説を発表することができました。これは一人で家にこもって小説を書いているだけでは実現できなかったことで、偶然始めたモデル業が、今はいい方向につながっているなと感じています。
夢を形にする行動力
小説家は、お医者さんや弁護士のように、試験に受かったらなれるものではありません。また公募は、千人以上が応募した中から受賞するのはたった1作品なので、そこから小説家になるのは気が遠くなるようなことだと感じています。チャンスの場として、他には小説投稿サイトもありますが、ライトノベルが主流なので、私が書きたいジャンルの小説とは違っていて。そんな時、Kazuさんというカメラマンと知り合い、ものすごい勢いで京都を舞台にした小説のサイトを立ち上げることになったんです。執筆の仕事をする上で、自身の文章をまとめるポートフォリオ的なサイトも欲しいと思っていたので、自分が望む形で小説を発表できるサイトが持てて嬉しかったです。
「夢と知りせば」の販促チラシやノベルティ。
私は紙の本が好きなので、小説サイトを一緒に作っている、イラストが得意な友人に、装丁を和風なデザインにしてもらうなど、私の理想の本を制作しました。完成した本を手に取った瞬間は感動しましたね。販売してもあまり利益は出ませんが、ある時、78歳の女性から「楽しく読んでいます」と感想が届いたときは、涙が溢れました。
今まで制作した本の数々。装丁のこだわりが光る。
とならないために
書くことは毎日の習慣の1つなので、書かない日は罪悪感が生まれるくらいです。それに、かなり長い年数を執筆活動に費やしてきたので、ここであきらめて私の人生なんだったんだろうって無駄にしたくないんです。頑固でコツコツ続けられるのが強みなのかもしれません(笑)。
あとは、私が生み出した作品世界や登場人物について誰かが共有してくれて、感想をもらえることも励みになります。先日、「ワンピク」の仕事で初めて、出版社の編集者と打ち合わせをしました。私が書いたキャラクターについて「この人はなぜここで〇〇したのか?」などと話し合えたことが本当に楽しくて。私はこれを味わいたくて書いているんだなって実感しました。
常に「夢と知りせば」の執筆と並行して応募作品を書いています。正直、公募では落ちまくっているので、もう落選して落ち込むことはありません。落ち込むだけ時間の無駄というか(笑)。でも長い作品を応募し終えた後は、次の作品を書き始められないことや、アイデアが気に入っているのにうまく書けないこともあります。そういう時は3か月くらい寝かせて、気分転換に映画を見たり、ちょっと高いエステに行ったりしますね。そうしているうちに、スランプから抜け出して、また書き始められるようになるんです。
これまでは自分自身の体験は書かないようにしていましたが、現在は「私にしか書けないものはなんだろう」と考えるようになり、世間には知られていないようなモデル業界のことやSNSを発信している人を題材に物語を書いています。「公募ガイド」の記事を参考にプロットを立て直したりもしていて、今までとは一味違う作品になるような気がしています。
所属しているモデル事務所のホームページでは“作家”と書いていただいていますが、まだ出版社から正式に本を出せていないのが現状です。いつかそれを達成して、小学生の頃の自分に対しても、胸を張って「作家です」と言えるようになりたいです。
フリーライター。著名人インタビューやTVコラム、街歩きの記事などを執筆。著書に『風景印ミュージアム』ほか。
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