公募Q&A「著作権」 偶然似た作品を作ってしまったら?
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全く同じ作品を同時に創作した場合は、どちらに権利がありますか。
類似作品で問題になるかは、3段階を経て決まります。
類似作品で問題になるかどうかは、「そもそも著作物なのか」「著作権侵害にあたるのか」「実害はあるのか」の3段階を経て決まります。
そもそも著作物なのか
著作物の定義は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法第二条第一項第一号)」です。 「AとBが類似、または同一」と言っても、そもそも著作物でなければ、著作権侵害にはなりません。 では、著作物でないものとは、どんなものでしょうか。 以下の4つがあります。
【短すぎるもの】
タイトルは著作物ではないとされています。同じでもかまいません。
モーパッサン、山本有三、遠藤周作の3人には『女の一生』というタイトルの小説があります。また、表記は違いますが、武者小路実篤には『或る男』、平野啓一郎には『ある男』という小説があります。
ただし、AKB48の曲名「鈴懸の木の道で『君の微笑みを夢に見る』と言ってしまったら僕たちの関係はどう変わってしまうのか、僕なりに何日か考えた上でのやや気恥ずかしい結論のようなもの」のように極端に長いタイトルの場合は著作物となるかもしれません。
長い曲名が著作物になり得るなら、川柳、俳句、短歌はどうでしょうか。
これらは文芸作品ですから、ありふれた標語のような作品でない限りは著作物になると考えていいでしょう。
では、標語やキャッチフレーズなどのコピー作品はどうでしょうか。
文芸とは言いにくいですが、創作性があるものもあります。
実際、交通安全スローガン「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」という作品の著作物性が認められたという判例もあります。
標語やキャッチフレーズだから著作物ではないとジャンルで考えるのではなく、個々の作品の創作性を見て判断すべきです。
【具体的な表現ではない】
小説のストーリーやプロットがこれに該当します。
著作物は、具体的な表現(文章)である必要があります。
筋とか展開とか設定とかは著作物として保護するべきものではなく、むしろ、みんなで共有し、再生産すべきものです。そのほうが文化の発展に寄与するからです。
同様に、テーマや題材、時代設定、舞台設定、登場人物の性格、視点の持たせ方や回想シーンの入れ方など手法も著作物ではなく、雰囲気、印象、イメージ、世界観も似ていてかまいません。
ただ、そうとはいえ、具体的な設定や展開が何カ所も酷似しているとなると、程度によっては問題になり得ます。
【ありふれた表現】
「おはようございます」「ジャンケンポン」……著作権法の下で保護するような表現ではありません。
【事実やデータ】
「富士山は日本一高い」「賞金総額2億8000万円」……これも「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではありません。
幼稚園児の落書きでも著作権が認められますので、「思想又は感情を創作的に表現した」のハードルは低いのですが、誰が書いてもそうなるというものは著作物とは言えません。
ちなみに、川端康成の『雪国』の冒頭、〈国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。〉は、この事実だけを書こうとしたら誰が書いてもこれと似た文章になるという意味で、同じ内容を書いても著作権侵害にはならないとされています。
【公有(パブリックドメイン)】
著作権の保護期間は、著作者の死後70年(映画は公表後70年)で、これを過ぎると公有となります。著作者人格権を侵害しない使い方であれば誰でも自由に使えます。
類似または同一でも問題ありません。
著作権侵害にあたるのか
類似または同一だった作品が著作物だったとして、次に問題となるのは、それが著作権侵害にあたるかです。
著作権侵害にならないケースは、以下の2つです。
【類似していない】
類似のように見えて、実はそうではないケースです。
東京オリンピックのエンブレムの騒動では佐野研二郎氏が作品を取り下げましたが、著作権の専門家の間では「あれは著作権侵害にならないのでは」が一般的な見解だそうです。
テレビを観ていて、お年寄りが若いタレントの顔の区別ができないということを見聞きすることがあると思いますが、あれは見た回数によります。お年寄りでも毎日見ていれば区別できるようになります。
これと同じで、初見だと「似ている」と思うことがあります。
【依拠していない】
それでも誰もが「似ている」と思うなら、次にどれだけ先行作品に依拠しているかが問われます。
依拠とは、先行作品の影響をどれだけ受けているかということです。
指摘されて、初めて先行作品があることを知り、確かにそっくりだとは思うが、先行作品の存在など全く知らなかったのなら、そしてそれが認められたら、著作権侵害にはなりません。
川柳や俳句はわずか17音ですので、すっかり同じ作品、または類句ができてしまうこともありますが、偶然の一致の場合は両者に著作権が認められます。
しかし、そうは言っても、以下の場合は、「知らなかった」では通らない可能性があります。
「先行があることは明らかで、しかも、それが有名であるとき」=無意識のうちにインスパイアされたのではないかと判断される。
「文章が何カ所も酷似していたり、メロディーが長く似ていたりし、偶然の一致ではないと思われるケース」=部分的になら偶然似ることはあるが、偶然、引き写したようにそっくりになる可能性は、確率から言ってもまずあり得ない。
実害はあるのか
最後に、著作権侵害にあたるとして、実害があるかどうかです。
実害がないなら著作権侵害をしていいということでは決してないのですが、実害のないことで権利を主張してもあまり意味がないということもあります。
たとえば、「コロナ禍の春」というお題で俳句を作り、ほぼ同じ類句ができてしまったとしましょう。
これを一方がWEBで公開したところ、別のAさんが「私も似た句を作ったことがある。それを見たのだろう。盗作だ、ずるいぞ」と言ったところで、Aさんにどれだけの財産権的な損失があったかです。
もちろん、「気分が悪い」「こっちがパクったと思われかねない」という精神的な損害もありますので、盗用したことが事実と認められるような明確な証拠でもあるなら、著作権侵害された側は差止請求をすることもできます。
しかし、経済的損失もない、精神的損失もないのであれば、証拠もないことですし、あまり目くじらを立てないことです。
なお、このQ&Aは「悪意なく偶然似てしまった」というケースを前提にお答えしています。決して、「バレないようにパクりたい」という人のためにあるのではありません。盗作、盗用は厳に慎んでください。
協力:公益社団法人著作権情報センター https://www.cric.or.jp/