ヨルモの「小説の取扱説明書」~その23 セリフの自然さ~


公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。
第23回のテーマは、「セリフの自然さ」です。
作者の都合でセリフを言わせない
セリフは、話し言葉をそのまま書きます。ですから、
「この前の彼、仕事はなんだっけ?」と問われて、
「彼はサラリーマンである」
と答えたら変ですよね。
「彼はサラリーマンですよ」とか、「確か、サラリーマンって言ってましたね」とか、そんな感じが一般かと思います。
アマチュアの方が書かれた小説では、このように、なんだか自然ではないなと思うセリフがよくあります。
たとえば、こんな言い方するかなあという場合。
これはキャラクター設定の甘さも原因なのですが、それまでは気が弱く、人に対して全く自己主張できなかった人物がいきなり急変して、
「社長、ぼくは反対です。全く承服しかねます」
なんて言いだすとか。
おそらく、そうしないと話がうまく転がらないという都合があったのかもしれません。
でも、それは作者の都合であって、うまく書かないと、なんだか都合がいいなあと思われます。
いわゆる、ご都合主義ですね。
あり得ないセリフを強引に書かない
その際たるが、出会いの場面です。
若い女性が、通りすがりに高齢の男性に声をかけてくるような場面。
「ねえ、お茶でもしない?」
こんなセリフが出てきたら、あなたはどう思いますか。
いやいや、そんな可能性、万に一つもないよ、と思ってしまいますよね。
あったとしたら、間違いなく裏があるよと。
アマチュアの方は、人物にしゃべらせすぎる傾向があります。
セリフを書くとなると、どう書くかばかりに関心がいってしまいますが、いかにセリフにしないかも考えたいです。
以下は、黒川博行著『疫病神』の中で、二宮が母親に借金をしたときのシーンです。
これで足りるんか――おふくろはタンスの中から五十万を出してきたが、事情はいっさい訊かなかった。
(黒川博行『疫病神』)
母親としてはいろいろ聞きたいところだと思いますが、事情は聞いていません。その行間に母親の気持ちがあります。
それから、「やあ、元気?」「うん、元気だよ」みたいな普通のセリフも、なるべく書かないほうがいいです。
間を飛ばしたセリフ
会話ですから、かみ合っていないといけません。
「ここは新橋ですか」
「私はアメリカ人です」
なんだか話が飛んでいます。
間をしっかり書いてほしいですね。
しかし、たまに意図的に飛ばすと面白くなります。
「やめとけ、パチンコなんか。依存症になるぞ」
「どの口がそんなこというの」
(黒川博行『疫病神』)
「依存症になんかなりません」のようにストレートに返すのではなく、少し飛躍させています。
「橋本がスポンサーということかな」
「あの子、やり手なのよ」
(黒川博行『疫病神』)
ここも少し飛躍させています。二つのセリフの間を敢えて埋めてみると……。
「橋本がスポンサーということかな」
「そうよ」
「スポンサーって、そんなに簡単にできるものか」
「それは人によるでしょ」
「それじゃあ、あの子は……?」
「やり手なのよ」
というような中間をスパッと抜いているため、話がサクッと進んだような爽快感があるわけです。
「どこへ行くんです」
「舟越の大阪本社や」
「交渉しに……?」
「わしがかけあうんなら、あんたを呼んだりせえへんがな」
(黒川博行『疫病神』)
ここも「わしは交渉せん。あんたがやるんや」というセリフが省略されていますね。
敢えてずらしたセリフ
「けど、湿布くらいせんと」
「そこに薬がある」
「私が手当てを?」
(黒川博行『疫病神』)
これは飛ばしというより、ズラしですね。
ズレた答えを言わせています。
この手のズラしは洋画によくあります。
たとえば、火災現場に突入しなければならないようなトラブルになり、「早く行って」と女性に急かされた男性が、「俺が消防士に見えるとでも?」と返すようなセリフですね。
ただ、この手の飛ばしやズラしは読んでいて容易に推測できることが絶対条件です。懲りすぎると意味不明のセリフになってしまいますので注意してください。
(ヨルモ)
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ヨルモって何者?
公募ガイドのキャラクターの黒ヤギくん。公募に応募していることを内緒にしている隠れ公募ファン。幼馴染に白ヤギのヒルモくんがいます。「小説の取扱書」を執筆しているのは、ヨルモのお父さんの先代ヨルモ。