芥川賞・直木賞 作家志望者必読!(3/3)
芥川賞・直木賞を受賞するには?
芥川賞は雑誌に公表された作品、直木賞は出版された作品が対象となる。
受賞するには、芥川賞は「文學界」「新潮」「群像」「すばる」「季刊文藝」を持つ「文學界新人賞」「新潮新人賞」「群像新人文学賞」「すばる文学賞」「文藝賞」を受賞するのが近道。
又吉直樹のように読書芸人として有名になり、そこから声がかかり、文學界に掲載された小説が芥川賞を受賞するというルートもあるが、著名人ではない私たちは公募文学賞を受賞するのが最短ルートとなる。
直木賞のほうは、公募文学賞を受賞するか、別のルートで作家デビューするかして、文学的に優れた長編小説を書けば選考の対象になるだろう。
ただ、直木賞の場合、芦原すなお『青春デンデケデケデケ』や金城一紀『GO』のようにデビュー作で受賞することもなくはないが、通常はデビューして10年ぐらいの人が多く、黒川博行のようにデビューして27年も経ち、選考委員までやっているようなキャリアを積んでからの受賞もある。
今回、直木賞を受賞した垣根涼介さんは、2000年にサントリーミステリー大賞を受賞してデビュー、その後、2013年に『光秀の定理』で歴史小説に転向。まさに苦節10年だった。
永井紗耶子さんは2010年に小学館文庫大賞を受賞してデビュー。今年、デビュー十数年ということで、やはり直木賞を獲る時期だったとも言える。
作家歴10年を経ないと、文学として大人の鑑賞に耐える作品は書けないし、それだけのキャリアを経て初めて「作家として認められる」ということ。直木賞は中堅作家が受賞することが多いが、それは「君はもう押しも押されもせぬ作家だよ」というお墨付き。
それは今後も安泰という意味ではないが、死ぬまで直木賞作家という看板を背負えることは確かだ。
初とつく受賞者は大物が多い?
最後に、芥川賞・直木賞の記録を振り返りたい。
第1回受賞者は?
芥川賞は、石川達三「蒼氓」。同氏には『青春の蹉跌』などの名作がある。
直木賞は、川口松太郎が『鶴八鶴次郎』ほかで受賞している。
昭和生まれ初の受賞者は?
芥川賞は、1956年(第34回)に『太陽の季節』で受賞した石原慎太郎。同氏はその後、衆議院議員、東京都知事を歴任し、晩年には石原裕次郎のことを書いた『弟』、田中角栄のことを書いた『天才』など話題作を上梓した。
直木賞は、1958年(第40回)に『総会屋錦城』で受賞した城山三郎。同氏はその後、経済小説のパイオニアになった。
戦後生まれ初の受賞者は?
芥川賞は、1976年(第74回)に『岬』で受賞した中上健次。同氏には、ガルシア・マルケスの『百年の孤独』より10倍優れているという『千年の愉楽』がある。
直木賞は、1981年(第86回)に『蒲田行進曲』で受賞したつかこうへい。小説もさることながら映画や舞台も人気で、39段の階段落ちのシーンはあまりにも有名だ。
平成生まれ初の受賞者は?
芥川賞は、2020年(第163回)に『破局』で受賞した遠野遥。
直木賞は、2012年(第148回)に『何者』で受賞した朝井リョウ。
史上最年少は?
芥川賞は、2004年(第130回)に『蹴りたい背中』で受賞した綿矢りさの19歳。同時に『蛇にピアス』で受賞した金原ひとみも20歳で、この年の公募文学賞は十代の応募者が殺到するという綿矢現象が起きたと言われる。
直木賞は、昭和15年、1940年(第11回)に「小指」およびその他の作品で受賞した堤千代の22歳という記録もあるが、生年月日がはっきりしないところがあり、これを除くと前出の朝井リョウの23歳が最年少。早稲田大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』でデビューし、社会人1年目に直木賞を受賞した。
史上最高齢は?
芥川賞は、2013年(第148回)に『abサンゴ』で受賞した黒田夏子の75歳。
直木賞は、1989年(第102回)に『小伝抄』で受賞した星川清司の68歳。
芥川賞と直木賞を両方受賞した人は?
漫画『響』の主人公は15歳で両方受賞したが、それはフィクションの中での話。実際はどちらかを受賞すると選考の対象外となるため、両方受賞した人はいない。
ただし、松本清張の『或る「小倉日記」伝』は当初、直木賞の候補作となったが、落選。しかし、その3日後に行われた芥川賞の選考会に回され、芥川賞を受賞した。
「これは芥川賞向きだよ」と芥川賞の選考会に回されるなんて、昔は自由だったようだ。
親子、夫婦、兄弟姉妹で受賞者という例は?
1987年(第97回)に『海狼伝』で直木賞を受賞した白石一郎と、2009年(第142回)に『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞した白石一文は親子。ちなみに双子の弟の白石文郎も小説家だ。
2006年(第135回)に『八月の路上に捨てる』で芥川賞を受賞した伊藤たかみは、2004年(第132回)に『対岸の彼女』で直木賞を受賞した角田光代と夫婦(2006年に結婚、2008年に離婚)。
1954年(第31回)に『驟雨』で芥川賞を受賞した吉行淳之介と、1981年(第85回)に『小さな貴婦人』で芥川賞を受賞した吉行理恵は兄妹。姉は女優の吉行和子。三人の母親は吉行あぐりで、これはNHK朝の連続小説『あぐり』としてドラマ化された。
芥川賞受賞者の平均年齢は約37歳、直木賞は約44歳。
常に新しくなろうとする純文学は若い受賞者が多いが、それでも55歳で小説を書き始め、63歳で『おらおらでひとりいぐも』で芥川賞を受賞した若竹千佐子さんの例もある。
人生100年時代の今はなおのことで、70代の受賞も珍しくなくなるかもしれない。
今、50代の人は言うに及ばず、20代、30代であれば、芥川賞・直木賞作家として名を残すことも夢ではない。
でも、そこはゴールではない。本当のゴールは「作家として死ぬこと」。単に作家になることをゴールとしていてはその先がない。もっと将来を見据えよう。ご精進!