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若桜木虔先生による文学賞指南。「多読が苦手ならスポーツ小説に絞って読め」

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作文・エッセイ
作家デビュー

ミステリーを書くなら最低でも500冊読破が必要

  この講座でしつこく書いているのだが、新人賞は「他の人には思いつかないような物語を書ける新人を発掘する」ことに主眼を置いて選考が行われる。したがって、似たような設定の物語は、束にして落とされる。

「公募ガイド」誌を通じて私にミステリーの作品もしくはプロットを送ってくる人が相当数いるのだが、「新しいミステリー」は絶無である。

  私の生徒でミステリー系新人賞の受賞者は日本ミステリー文学大賞新人賞が3人、『このミステリーがすごい!』大賞が1人(2人はインターネット通信添削講座の生徒で、2人がカルチャー・センターの小説講座の生徒)だが、最初から「うん、これで新人賞を狙える」とGOサインを出した生徒は1人もいない。

  GOサインを出すまでに多かれ少なかれ、あそこを直せ、これではダメだ等々のアドバイスや指示を出す。

  新しいミステリーの要素がない理由は、ミステリー系の作品の読書量の絶対数が不足しているとしか私には考えられない。

  既存作を読んでいない結果、既にプロ作家が書いている作品のアイディアを丸々パクったような作品を「自分オリジナルの作品」と思い違いして送ってくることになる。

  私の読書量は年間で1000冊ぐらいである。執筆の合間に読んでいるので、読むのが仕事の新人賞選考委員の評論家なら、3000冊は読んでいる。

  『このミステリーがすごい!』大賞の選考委員の大森望などは、欧米で刊行されて本邦では未訳のミステリーまで読んでいるから、5000冊ぐらい読んでいるかも知れない。

  とにかくミステリー系新人賞で受賞を狙うのなら、書こうとしているタイプ(本格ミステリーかハードボイルドか等々)のミステリーを最低でも500冊は読まないと、新人賞受賞どころか予選突破さえも覚束ない。これは明言しておく。

選考委員には体育会系が少ないため、一発逆転が狙える

「そんなには読んでいられない」という人に勧めたいのがスポーツ小説だ。

  選考委員には体育会系が圧倒的に少ない。体育会系の選考委員は今野敏くらいのものである。今野敏は自分の道場を持っているほどの格闘家である(『ウィキペディア』を参照)。

  だから、スポーツ小説を上手に書ければ、選考委員に感動を与えて一発受賞も有り得る。

  私のところにスポーツ小説を送ってくる人は多いのだが、例外なく「弱小運動部」である。

  これでは、まず新人賞は取れない。弱小運動部なら、いくらでも身近にモデルがあるから、誰でも思い付く。

  高校を舞台(これが最も多い)ならインターハイなど全国優勝、オリンピックや世界選手権、ワールドカップ出場、できれば金メダルを狙うレベルの物語を書かなければならない。

  どういうトレーニングを積み、どういう人間関係が築かれるかを書けば、自ずと「他の誰にも書けない物語」になる。

  高校を舞台の青春スポーツ小説では、直木賞受賞作家の朝井リョウのデビュー作『桐島、部活やめるってよ』(小説すばる新人賞受賞)がすぐに思い浮かぶが、私が選考委員なら予選で落選にしていただろう。

  ずっと体育会系で過ごした私の眼から見ると、舞台となったバレー部が弱すぎて、シラけた。しかし、非体育会系の読者(選考委員)になら、部内の人間関係が新鮮に映った可能性は、否定できない。九分九厘それが授賞理由だろう。

  ハイレベルのスポーツ小説を書こうとする人は、まずは堂場瞬一の全スポーツ小説を読むことを課題にしたい。

  堂場瞬一のスポーツ小説は20数冊が出ているが、ミステリー系の作品の必読冊数の5%以下で済む。↓に一例を示す。

プロフィール

若桜木虔(わかさき・けん) 昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センターで小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

 

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