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「情熱で書いて冷静で直す」1万人を指導した山口拓朗さん流・自問自答で深みを出す文章術&推敲の極意

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自問自答を続け、自分だけの表現へ

今まで1万名以上に文章の書き方を教えてきた山口拓朗先生に、選ばれる作品を書くために役立つトレーニング法を聞いた。

読者に一個プレゼントが必要!

——公募に出す場合、書く前に準備すべきことはありますか。

まずは、何を、なぜ書きたいのかを考える。創作は自己表現ですが、公募の第一の目標は賞を獲ること。エベレストを登るのに富士山登山と同じ準備では無理です。目的を明確にしてすべきことを見つける。また自分の中で読者設定をして、彼らが求めているものを掴むことも大事です。

——ニーズをつかむにはどうすればいいのでしょう。

頭で考えず、幅広い年齢の人とコミュニケーションをとる。ネットのコミュニティーに参加し、掲示板を読んでもいい。その人に届く言葉でないと響きません。

——独りよがりで伝わりにくい文章をわかりやすくする方法は?

とくに気になるのは、皆さん、表現にむだが多いこと。「誓います」をわざわざ「誓いたいというふうに思います」と書く。これだと3倍くどく、中身は薄い。これをなくすにはたくさん本を読み、言葉のセレクト力を磨くこと。

——読んだあと、「それで?」という気持ちになる文章も多いです。

人気作家や有名人ならありきたりなことを書いてもいいけど、素人が書くときは読者に一個プレゼントが必要。それは新たな発見、学び、楽しさ、癒やしでもいい。読者にどういう感情になってほしいかを考えておくことです。

——さらに、その人ならではの表現を目指すにはどうすれば?

言葉には抽象的な言葉と具体的な言葉がある。「私は野菜が好き」ではなく「私はニンジンが好き」「私は○○産のニンジンが好き」と書けるか。「格好いい男」ではなく、自分が思う格好よさを見つけて表現する。かみ砕いて書くことが個性につながります。

推敲のコツは、情熱で書いて冷静で直す

——語彙の多さや切り口も大事ですね。

硬く考えず、思いつくキーワードをたくさん並べる。次にその中から気になったワードを選び、深く掘り下げる。好きな女の子がいたら、なぜ好きなのか、どこが好きなのか。目が好きなら黒目が大きいとか二重がよいとか。でも、実は自分の目をまっすぐ見てくれるから好きとか、意外な発見が出てくる。まずは横に広げてから絞り、核心を深く掘り下げるんです。

——自問自答が大事なんですね。

何で?と考え続けると脳が答えを見つけに行く。たとえば、今日は朝から胃が痛いと思ったら「何で?」と自問する。すると、「そうか、昨日仕事中に上司に怒られたからだ」と気づく。「何で?」と考え続ける人だけが、書くに値する気づきを得られるのです。

——よい推敲の方法はありますか。

僕はよく「情熱で書いて冷静で直す」と言います。書くときは細かいことは気にせず、書きたい!という大きなエネルギーで書いていく。でも、書き終えたらその気持ちを忘れてとことん削る。書くことには削ることも含まれているんです。

——伝わらないのではと不安になり、なかなか削れないんですよね。

自己啓発書で有名な本田健さんは600ページ書いて200ページまで削ることもあるそうです。文章を断捨離しても大切なところは削らない。大切なところだけが残るからわかりやすい。

——最後に読者にメッセージを。

文章を書くことはコミュニケーション。読者の気持ちを知るためにも、作品は人に見せて反応を得るといい。人から指摘されないと文章力は伸びていきません。情報や経験をインプットし作品としてアウトプットしたら読者の意見を聞いてフィードバックする。双方向の意識をもってください。

文章の基礎トレーニング10選

山口拓朗著『書かずに文章がうまくなるトレーニング』の中から10のトレーニング方法を紹介。

自問自答トレーニング

「何が書きたいの?」「なぜ書きたいの?」「なぜ流行っているの?」「そのニュースは本当なの?」と気になったことはすべて自問自答する。正解かどうかは問題ではない。これを続けると、自分なりの視点や考えが磨かれ、切り口が増える。

類語ひねり出しトレーニング

1つの言葉から出せる限り、別の表現を考え並べてみる。「おとなしい人」なら「物静かな人」「寡黙な人」「口数の少ない人」「暗い人」など。語彙力を広げ、自分のニュアンスを的確に表し、なおかつ読者に届く言葉を選ぶ訓練となる。

細部描写トレーニング

目についたものすべて、全体描写と細部描写をしていく。目の前の女性の全体描写:美人。細部描写:目が大きい、髪が長い、細い、声がきれいなど。細部を見る目が磨かれ、描写力がつく。視点や切り口も増えていく。興味を引く文章を書く訓練。

かみ砕きトレーニング

抽象的な言葉や名詞、専門用語をかみ砕いて誰にでもわかるように書いてみる。「川」なら「山から海へと大地を削りながら進む水の流れ」のように説明する。目につくものすべてやってみよう。誰にでもわかる「説明力」を磨くのに最適。

「だから」で答えるトレーニング

事実に対して、その答えを書いていく方法。「天気予報では夕方から雨だと言っていた。だから傘を持っていこう」「彼女は野菜が嫌いだ。だからデートでは肉料理を選ぼう」など、「事実→答え」の流れで書く。論理的な文章にしていく訓練。

人の話をまとめるトレーニング

人の話を「要するに」でまとめる。「彼女はアイデアが素晴らしいが、プレゼンではうまく話せない。要するに、能力があってもメンタルが弱ければ無意味ということだ」のように、出来事を自分なりに解釈し、結論づける。話の本質をつかむ訓練。

体験抜き出しトレーニング

「事柄」「人」「物事」などから、自分の中にどんな体験があるかを考える。お題が「駅」なら、定期をなくした思い出、乗り遅れた思い出、隣の女性に一目惚れした思い出など。自分の中に眠るネタを引き出す訓練。読者の気持ちは「体験」で動く。

たとえばトレーニング

出した結論に具体例をつける方法。「私は昔の映画が好きだ」に対し、「たとえば『ローマの休日』は何十回と観ている」のように具体例を盛り込む。自分や他者、身のまわりの物事で練習しよう。説得力が増し、伝わる文章が書けるようになる。

たとえトレーニング

比喩のトレーニング。「明るい人」では伝わらないと思えば、「太陽のような人」と言う。たとえたものが平凡だと陳腐さが目立ってしまうが、言い得て妙というような絶妙な比喩を探せれば最高。いきなりは無理でも、続けているうちにうまくなる。

文章半分削りトレーニング

一度文章を半分にすると決めてしまい、とにかく削っていく。実際半分にできないかもしれないが、何から削るかを考えることで、むだな文章を削る判断力が身につく。重複表現や冗長な文章がなくなり、簡潔でわかりやすい内容になる。


山口拓朗
1972年生まれ。出版社で雑誌編集者、記者を務めたのち独立。「伝わる文章」や「人の心を動かす文章」をテーマに執筆・講演活動を行う。

※本記事は2019年4月号に掲載した記事を再掲載したものです。