【文章力が伸びない本当の原因】足りないのは「突っ込み力」| 5W1Hをチェックするだけで文章は磨かれる


突っ込み力が文章を変える
文章力は、自分が書いた文章に対して、どれだけ突っ込んで掘り下げられるかにかかっている。今回はこの突っ込みポイントを5つ挙げて解説する。併せて、文章を書くときに必要な10のポイントも紹介する。
参考文献:前田安正『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)、前田安正『3行しか書けない人のための文章教室』(朝日新聞出版)、石黒圭『文章は接続詞で決まる』(光文社新書)、野内良三『日本語作文術』(中公新書)
不足した情報に「何が」「なぜ」と突っ込め!
いつ、どこで、誰が……。5W1Hが抜けていないかチェック! 重要なのは「なぜ?」と
「どうなった?」。
すべての文章には不足がある
すべての情報が満ち足りた文章はない。必ず不足がある。
〈今日は暖かいね。〉
「今日っていつ?」「暖かいってどの程度?」「季節は?」「誰が、誰に言ったの?」と疑問は数限りなく出てくる。これに答えても、また新たな疑問が出る。それが文章を書くことの宿命だ。
不足があれば、すぐに埋めよう
疑問があれば、なるべく早く答えることが肝要だ。答えなければ、読者はずっと疑問を抱えたまま読み進めないといけない。これは大きなストレスになる。
答え方は、「いつ?」に対して「昨日」と答えてもいいし、「今日」を書くことでそれ以前が「昨日」であったことを示す手もある。
不足がある文章の添削例
「いつ?」のように突っ込みたくなる例文を挙げよう。
✕:ミチ子が女子会にイケメンを連れてきた。有名大学を卒業し、今は一流企業に勤めているという。とても残念だった。
POINT:「いつ」「どこで」「ミチ子とは誰か」もわからないが、それはまだいい。最大の謎は「なぜ残念だったのか」。これは今書かれた文脈だけでは推測できない。
〇:先週、会社近くのカラオケ店で定期的にやってる女子会に、同僚のミチ子がイケメンを連れてきた。一流企業に勤めているというが、男性がまじったことでみんなかしこまってしまい、あまり盛り上がらず残念だった。
✕:深夜まで残業になった。異例の事態だ。コンビニに寄って、おにぎりを買った。風呂にも入らずに寝て、起きると昼だった。
POINT:「いつ残業したのか」「どんな事情で残業になったのか」「寄った店はなぜコンビニだったのか」などが不明。書く必要がある文脈では省略しないほうがいい。
〇:昨日は深夜残業だった。同僚が風邪で休み、そこに納期が重なったのだ。業務は無事終えたが、夜食を作る気力はなく、コンビニでおにぎりを二個買い、食べながら帰宅した。風呂にも入らずに寝て、起きると昼だった。
5W1Hをチェックしよう
文章を書いたあと、不足した情報がないかどうか確認するときに便利なチェック項目がある。報道文などでは必須の項目としておなじみの「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、いかにして」だ。
この中で、漏れると致命的な不足になるのが「なぜ」だ。「なぜそうしたのか」などは抜けないように注意したい。
もう1つ、「いかにして」も重要だが、これは報道文のようにHOW(いかにして)と解釈せず、RESULT(結果、それでどうなった)と考える。これも抜けないように注意しよう。
重要な疑問を残さない
「不足がある」と言っても、気にするような疑問でない場合もある。
前述したように、〈ミチ子が女子会にイケメンを連れてきた。〉という文章には不足があるが、全部埋めなくていい。
たとえば、この文章でもっとも言いたいことが、「ミチ子がイケメンを連れてきたことに驚いている」であれば、女子会が「いつ、どこで」行われたかはさして重要でない。この手の疑問は読者の推測に任せておけばいい。
しかし、重要な疑問の場合ははっきり書くか、文脈から推測できるように処理しておこう。
文豪の例文で確認 不足にどう答えているか
「こんな夢を見た」と書いて、それがどんな夢か答えている。「女」が出てきて、どんな女か書いている。女は「死ぬ」と言い、その後、「死んだ」と答えている。
こんな夢を見た。
腕組をして枕元に坐っていると、仰あおむき向に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪廓の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている。真白な頰の底に温かい血の色が程よく差して、唇の色は無論赤い。到底死にそうには見えない。然しかし女は静かな声で、もう死にますと判はっきり然云った。自分も確たしかにこれは死ぬなと思った。そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗き込む様にして聞いてみた。死にますとも、と云いながら、女はぱっちりと眼を開けた。
(中略)長い睫まつげの間から涙が頰へ垂れた。——もう死んでいた。 (夏目漱石『夢十夜』)

助詞のガとハ
ガは主語を示す格助詞で、いくつか用法がある。
●現象文
〈寂しそうに君が嘆く。〉
ガのあとに述語が来てすぐ終わる。現象を表す。
●名詞と名詞の接着剤
〈僕が書いたものは創作だ。〉
「僕」と「書いたもの」をガがくっつけている。
ハは係助詞。
〈寂しそうに君は嘆く。〉とした場合、「君だけは」という意味が加わる。
ガとハは似ているが、ガは近くの語句に係り、ハは遠くの語句に係るという違いも。
〈君が美人を目で追うたび、嫉妬にかられる。〉
「君が」は比較的近くにある「目で追う」を修飾する。
〈君は美人を目で追うたび、嫉妬にかられる。〉
「君は」は遠く文末の「嫉妬にかられる」を修飾する。
同様に、〈僕が作文を書き始めたとき、締切はすでに過ぎていた。〉の「僕が」は「書き始
めた」に係り、これを「僕は」にはできない。
「僕は」にするなら、〈僕は作文を書き始めた。このとき、締切はすでに過ぎていた。〉のようにする。
助詞のガとハ2
〈これが公募ガイドです。〉
〈これは公募ガイドです。〉
この2つにはどんな違いがあるだろうか。
これを明らかにするには、この文章が出てくる前にあった疑問文を想像するとわかりやすい。
「どれが公募ガイドですか」
公募ガイドという雑誌があると話題になっているが、それが目の前のどの雑誌かはわからない。このときに発せられるのが、〈これが公募ガイドです。〉だ。
つまり、〈未知の情報+ガ+既知の情報〉という構造。「ガは、ガの前に知りたい情報がある」と覚えておこう。
ハの場合はどうだろう。
「これはなんですか」
“これ〞があることはわかっていて、しかし、どんなものかわからないというときに発せられるのが、〈これは公募ガイドです。〉だ。
つまり、〈既知の情報+ハ+未知の情報〉という構造。
ハは、「これは(どういうものかというと)」という題目を作り、ハのあとでそれに答えるという働きがある。「ハは、ハのあとに知りたい情報がある」と覚えておこう。
※本記事は2019年4月号に掲載した記事を再掲載したものです。