【文学賞の裏側】予選委員が語る新人賞のリアルと評価される作品の条件


予選委員に聞く編
応募者には見えない予選という舞台裏を予選委員に語ってもらった。
【回答者】
予選委員Nさん
文学賞の予選委員歴は30年以上という大ベテラン。純文学もエンターテインメント小説もこなす博識の文芸人。
予選委員Aさん
文学賞を受賞後、文学賞の予選委員を歴任。本業は純文学系の書評、およびコピーライティング。作家の取材経験も豊富。
一度に何編届き、その中の何編を残す?
Nさん:100枚程度の作品だと50編くらい、300枚~500枚程度の長編だと30編くらいです。かつてはもっと多かったが、バブル期までの話です。最近は経費節減のために編集部で下読みに出す本数を調整しているようです。通過作品は全体の5%程度です。
Aさん:長編は5~10編、中編は10~20編、短編は20~50編、掌編は50~100編くらい。「残す」という言葉はほぼ使いませんが、もっとも高いAランク評価に相当する作品はそのうち20%くらいであることが多いかも。迷ったときは甘め評価にシフトさせます。
1編を何時間で読み、何日間で返す?
Nさん:100枚程度の作品だと1時間弱くらいかけて読むことになるのですが、冒頭2、3ページを読んでダメだこりゃと判断したら5分で終わることも。一度に50編送られてきて「1カ月後までに」というメモが入っていることもあれば、10編を2週間ごとに送ってくることもあります。
Aさん:単行本1ページ1分というのが平均的な時間だろうと思います。単行本1ページは原稿用紙1.5枚ぐらいなので、100枚なら1時間で、長編になると3時間ぐらいかかる場合も。返送にかかる時間は、通常は1~3週間後に返送する感じ? もちろん締切が厳しい場合もあります。
評価シートはある?全作品に寸評を書く?
Nさん:評価表のようなものがある場合もあれば、ない場合もあります。評価項目はさまざまです。エンターテインメント系の新人賞の場合は、「文章力、構成力、オリジナリティー、ストーリー性、会話力、将来性」のような項目があることもあります。
Aさん:どんな賞でも、たいていは「この賞にふさわしい作品か」「募集テーマに合致しているか」などの項目があるような気がしますね。長編・中編は、全作品に寸評を書くことが多く、高く評価した場合は、寸評も多めに求められます。
作品以外の情報も予選委員にわかる?
Nさん:かつては個人情報がついたままで送られてきましたが、最近は作者名しかわからない場合も。しかし、それはまれで、学歴、職歴、現在の職業も書かれたものが送られてきます。
Aさん:年齢、職業、名前(ペンネーム)は、ついた状態で送られてくる場合が多い気がします。性別については、ついているときといないときがあるような。もちろん、何もない場合も。
題材について要望はありますか。
Nさん:題材ではなく、人称の話になりますが、どの新人賞でも約7割、場合によったら9割近くが一人称小説というのが現状です。正直、「僕が、僕が」「私が、私が」という語り口にうんざりしているところがあります。
Aさん:人気のテーマや時事ネタを題材にする人が多いですが、読む側としては「またか」と思い、新鮮味が感じられないので不利になることも。特に前回の受賞作に似たテーマを選ぶのはやめたほうがいいと思います。
文章について要望はありますか。
Nさん:とにかく小説を読んでください。できるかぎり丁寧に読んでください。読んだ小説の中で自分が好きだと思った小説の文章をまねすればいいだけのことなのです。読まなければ絶対に書くことはできません。
Aさん:推敲はしましょう。冒頭に明らかな誤字や文法的な間違いがあると、読むのをやめたくなります。そういうものが優れた作品であることは、経験上皆無なので。自分で考えた登場人物の名前を間違える人もいます。
書式について要望はありますか。
Nさん:パソコンで小説を書いた場合、原稿用紙に小さい字で印字することはやめてください。金網越しにサッカーを観戦しているようなうっとうしいところがあるのです。指定がなければ20字×20行で印字することも意味がありません。
Aさん:改行が多い原稿、意味のない行アケが多い原稿は、頭が悪く見えるのでやめたほうがいい。また、特殊な書体や太い文字を使うのは、コワイのでやめたほうがいいと思います。いい作品は、字配りも美しいものです。
本選考委員や編集部の嗜好は考慮しますか。
Nさん:以前、下読みの仲間が、フレデリック・フォーサイスをもじり、「オレたちは“選考の犬たち”なんだよ」と言っていました。編集部は当然忖度し、下読みをやっている人間も編集部の忖度に従うことになります。
Aさん:賞の傾向や選考委員の嗜好は評価基準を考えるときの重要なポイントなので当然考慮します。ただし、傾向や嗜好から大きく外れた作品でも、面白い作品、才能あふれる作品と感じれば1次審査では必ず残します。
どんな作品を評価しますか。
Nさん:❶題材の新しさ、❷文体の斬新さ、❸小説の可能性への意欲、といったところでしょうか。とはいえ小説になっていなければ話になりません。自己顕示ばかりが目立つ小説もどきがたくさん送られてきます。
Aさん:これまでにない新鮮なテーマであった場合、そこに文章力が加われば高評価になります。また、文体やアプローチの方法が新しい場合にも同様のことが言えます。勢いや熱意が感じられることも重要です。
予選委員のここだけの話
Nさんの場合
下読みの報酬ですか。文学賞によりますが、100枚程度の作品は1500円~2000円くらい、300枚~500枚くらいの長編が3000円くらいです。コンビニのパートタイマーより少しよいくらいのギャランティーです。
下読みの仕事をなぜやっているのかと言うと……。
読んでいて知らないうちに涙がボロボロ出てくる作品があります。別に悲しい話が書いてあるからではなくて、世の中にはこんなことを考えている人がいるのだという驚きと発見があるからです。その体験がたまにあるからやっているところがあります。
Aさんの場合
タイトルのつけ方が苦手な人が多いと感じます。作品の内容が面白ければタイトルで落とされることはないのであまり気にする必要はありませんが、「タイトルでネタバレ!」だけは評価を落とす危険性があり、気をつけたほうがいいですね。実際、オチのキーワードや結論を入れてしまう人が、けっこういるので。ミステリー系の小説で、タイトルに犯人の名前が隠されていたこともありました。誰にでもすぐにわかる形で(笑)。タイトルに凝りすぎる人は、そういう失敗をしがち。それなら凝りすぎず、無難なタイトルにしておいたほうがマシかも。
※本記事は2020年3月号に掲載した記事を再掲載したものです。