【小説とエッセイ、どっちが向いている? と悩んだら】「両方書き続けたら良い。何が本人の適性か、時間が経たないとわからない」山口恵以子先生から学ぶ創作への姿勢


人生の達人が小説とエッセイの疑問、お悩み解消
デビュー当時、「食堂のおばちゃんが小説家に」と話題になった山口恵以子先生に、小説とエッセイに関する疑問、お悩みに回答してもらった。
小説の書き方編
構成、キャラなど、小説のノウハウにもいろいろあるが、ここでは主に文章に関する疑問に回答してもらった。
Q.地の文とセリフの比率はどれくらいが適正ですか。
オモテ:一般的にセリフの多い文章の方が軽い、読みやすいと言われています。小説講座などでは「最初の1行はセリフで始めなさい」とアドバイスする講師もいます。小説の内容にもよるので一概には言えませんが、確かにセリフで始めると読者をつかみやすいかもしれません。池波正太郎の作品はセリフの割合が多いような気がします。
ウラ:セリフのない小説もありますし、チェホフの作品は「戯曲」、つまりほとんどセリフです。つまり、どういう文章スタイルがふさわしいかは、どういう作品を書くか、つまり内容によるものです。地の文とセリフの割合を考える暇があったら、内容に頭を絞りましょう。面白いストーリーと面白いセリフを考えましょう。
Q.比喩などの表現に、どこまで凝っていい?
オモテ:比喩を多用するので一番有名な作家は村上春樹さんでしょうか? 確かに奇抜な比喩がピタリとハマったときは、快感です。とはいえ、無理に比喩を多用して文章が滞ったら逆効果です。まずは自然な文章の流れを大切に。
ウラ:まずは比喩云々の前に、その文章で伝えたいことを考えましょう。その上で、絶妙な比喩を思いついたら使ってみましょう。それがその文章にピタリとハマったらけっこうなことです。文章は形式よりも内容が大切です。
Q.自分の文体は、どうしたら作れますか。
オモテ:自分の文体を持つのはプロでも難しいことです。特効薬はありませんが、お勧めしたいのは好きな作家の小説(なるべく短いもの)を書き写すことです。その作家の文章のリズムがわかってきて、ご自身の文章にも役立つはずです。
ウラ:ぶっちゃけ、自分の文体を持っている作家なんてほとんどいません。東野圭吾の『悪意』では、盗作の疑いを掛けられた作家が、自分の文章であることを証明しようとしても成功しません。だからあなたも気にしないで。
Q.文章が上達するトレーニング法はありますか。
オモテ:これはもう、書くしかありません。日記とか手紙とかメールとか、とにかく練習あるのみです。「文体」の質問の回答と重なりますが、文章が上手いと言われている作家の短編を写経のように書き写すのも、良い練習になります。
ウラ:生まれつき足が速い人と遅い人がいるように、文章も生まれつき上手い人と下手な人がいます。これは努力ではいかんともしがたい差です。だから上手い文章を書くのは諦めて、下手でも通用する作品を目指しましょう。
エッセイの書き方編
エッセイの著作も多い山口恵以子先生に、エッセイに関する疑問、エッセイを書くコツについて回答してもらった。
Q.「文は人なり」と言いますが、文章に人柄が表れるには?
オモテ:文章というのはその人の考え方や生き方が反映されています。本人のすることを見れば、口でいくら上手いことを言っても、信ずるに足るかいなか、自ずとわかるものです。だから素直な気持ちになって、人に言われたことや社会で人気のあることではなく、心のままを書けば大丈夫です。そこにはいやでもあなたの人柄が表れるはずです。
ウラ:作者が意地悪かいなかわかります。文章って怖いのですよ。本人が出るんです。あなたの文章にあなたが出ていないのは、あなたの考えではなく他人の考えを書いているからです。
Q.締めで、メッセージを書いていいですか。
オモテ:あるエッセイコンクールで審査員をなさっていた内館牧子さんが「最後に余計なひと言を書くのは絶対に良くない。それまでの文章がぶちこわしになる」とおっしゃっていました。私も最後のメッセージはお勧めできません。
ウラ:表現と主張は違います。でも、人は表現の初期段階では自己主張をしたくなるものです。だから主張するエッセイを山のように書いて、欲求不満を解消してから、自分ではなく他人に読ませるエッセイを書いてみましょう。
Q.役に立つ情報を盛り込んだほうがいいですか。
オモテ:「面白くてためになる」は誰にとってもありがたいことなので、お役立ち情報を入れることは良いと思います。ただ、エッセイは情報提供が目的ではないので、あなた自身の内面を表す文章との兼ね合いに注意してください。
ウラ:エッセイの名手と言えば向田邦子でしょう。彼女のエッセイには自身が見聞きした情報が入っていますが、役に立たないものがほとんどです。それでも抜群に面白く、時に大いに泣ける。情報を生かすも殺すも書き手次第です。
Q.ウソっぽくならないようにするには?
オモテ:それはあなたの体験が信じられないほど珍しいからか、それともあなたの書き方に実感がこもっていないか、どちらかです。前者ならいかんともしがたいですが、後者なら気持ちを込めた文章を書くように練習あるのみです。
ウラ:脚本教室に通っていた頃、ダメな作品を書く人に限って「これは現実にあったことです」と言いました。その人は現実のリアルと文章上のリアルの違いがわからなかったのでしょう。リアルな文章を書けるようになってください。
山口恵以子先生の創作お悩み相談室
文学賞に応募しようにも完結しません。
結末までのストーリーができていないのなら、ラストから書いてみたらいかがでしょう。また、裏技として、完成途中の小説を塩漬けにし、別の小説に取り組むという手もあります。小説を書く作業というのは頭の中で複雑怪奇に結びついているので、別の小説を書いているうちに、塩漬けの方が発酵して良い味加減になっていたりします。
書いている途中で、どうせ駄作だと思う。
もしかしたらキャラクターが立っていないからじゃありませんか?つまらない作品はすべて登場人物が筋書きの操り人形になって、背景に消えています。面白い作品は登場人物同士が前面に出て、芝居をしてドラマを生み、筋書きを引っ張っていきます。魅力的な悪役を登場させましょう。それだけでドラマが生まれます。
小説とエッセイ、どっちが向いているかわからない。
エッセイも小説も文章による表現です。両方書き続けたら良いと思います。何が本人の適性か、時間が経たないとわかりません。私は松本清張賞受賞者ですが、今の収入源は食堂小説です。受賞当時は夢にも思わないことでした。あなたの場合もあわてて決めず、小説を書きながらエッセイも書く。それで良いのではありませんか?
書きたいが、何を書いていいかわからない。
書きたいものが見つからないのは、あなたの中の「小説情報量」が不足しているからだと思います。世の中には面白い小説がいっぱいあります。名作と言われる作品を片っ端から読んでみましょう。「これが書きたい!」という作品に出会えるはずです。小説はどんどん売れなくなるのに作家志望は増える一方で、ホント困ってるんですよ、私。
※本記事は2020年3月号に掲載した記事を再掲載したものです。