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小学館文庫小説賞

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

小学館文庫小説賞

今回は、九月三十日締切(当日消印有効)の、第十六回小学館文庫小説賞(アマ・プロ問わず。ジャンル不問、自作未発表の小説をA4サイズの用紙に四十字×四十行縦組みで印字し、七十五枚から百五十枚まで。表紙に題名、筆名と本名、年齢性別、住所、電話番号、メールアドレス、職業、略歴を明記。二枚目に八百字程度の梗概を付けて右肩をWクリップ綴じ)を取り上げることにする。


この賞の受賞者は生存確率が低い。第一回受賞者の仙川環は映像化作品もあり、売れっ子になったし、第二回の河治和香も時代劇ブームに乗って、まずまず売れたが、第三回の大石直紀は売れずに三作で打ち切られ(横溝正史ミステリ大賞テレビ東京賞を受賞して再デビュー、以降は売れっ子になっている)第八回の石野晶は日本ファンタジーノベル大賞で再デビュー、同じ第八回の中嶋隆は時代劇ブームにも乗れずに角川春樹小説賞にチャレンジするも二次選考落ち。『神様のカルテ』の夏川草介まで延々と売れない受賞者が続く。


要するに映画化された作品以外はほとんど売れなかったわけで、そこから明らかに選考委員(小学館「文芸」編集部)の意識が変化した。要するに「映像化されそうな作品」を選ぼうとしている傾向が顕著に見られる


そこで、受賞作で最近の作品の『薔薇とビスケット』(桐衣朝子)を今回のテーマに取り上げると、これは、応募者が絶対に書いては駄目な作品である。他のビッグ・タイトルの新人賞に応募したら、百%確実に一次選考で落とされるタイプの作品。


まず、物語の根幹がタイムトラベルにある。主人公が過去にタイムトラベルして、その時代の登場人物に干渉することで未来(主人公にとっての現在)が変化してハッピーエンドになり、泣かせるストーリー。


一時、タイムトラベルものがテレビで流行し、それなりにヒットしたことで、大量に同工異曲のSFが応募作に殺到して、一次選考の下読み選者を「また来た」と呆れさせた。


当然、ろくに読まずに落とされる。『薔薇』が幸運にも予選突破できて大賞受賞にまで漕ぎ着けた理由は、編集部選考なので山のようなタイムトラベル応募作を目にしていなかったか、テレビや映画でタイムトラベルもののヒット作があるから良しと判断したのか、どちらかで、予備選考が外部の下読み選者に回される他の新人賞には、全く当て嵌まらない。


その次に『薔薇』の良くない点は(人によっては、こちらのほうが悪いと指摘する可能性も大いにある)主人公がころころ、次から次へと交代することである


この場合の主人公とは、タイムトラベルする真の主人公ではなく、視点を置いて心理描写(モノローグ)する人物のことである。


これが節替えも章替えもなく次々に変転すると、圧倒的大多数の読者は、感情移入できず、物語の流れについていくことができなくなる。


以前、江戸川乱歩賞受賞作の『カラマーゾフの妹』(高野史緒)で同様の欠点を指摘したが、『薔薇』は『カラマーゾフ』よりも遙かに劣る。


かなりベテラン作家の高野でさえ、この欠点を克服できずに売れなくなり、意を決して江戸川乱歩賞に再挑戦せざるを得なくなったのだから、『薔薇』の桐衣は早急にこの欠点に気づいて克服しない限り、早晩、文壇から跡形もなく消えることになる。


タイムトラベルしようが、ころころ視点人物が交代しようが何の問題もなくストーリー展開についていけるのは、読んでいる場面場面が瞬時に脳裏に情景として思い描ける想像力に富んだ右脳型の人間だけである。


残念ながら、そういう読者は圧倒的少数派で、一%にも満たない。しかも、そういう読者でさえ「読んでいてイメージするのに疲れるから、ころころ視点が切り替わる小説は嫌だ」と拒否するのが一般的である。


『薔薇』は、仮に映像化されれば、取り上げている題材が泣かせるエピソードなので多少は売れるかも知れないが、果たして企画書にされる段階まで辿り着けるかどうか。


第三の欠点は特別養護老人ホームで始まっていること。主人公がそこの職員だから致し方ないが、老人介護をテーマとした応募作はあまりに多く、一顧だにされずに冒頭だけで捨てられる事例が大半を占める

日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作の『ロスト・ケア』(葉真中顕)のところでも論じたが、老人介護ものは、よほど捻りを利かせなければ他の数多ある応募作と被って、容赦なく予備選考で撥ねられる。


この旨をよくよく肝に銘じて「他山の石」のつもりで『薔薇とビスケット』を読んでもらいたい。

 あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP!

 若桜木先生が、小学館文庫小説賞を受賞するためのテクニックを教えます!

 小学館文庫小説賞講座

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若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

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仁志耕一郎(第4回)

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祝迫力(第20回佳作)

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風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

小学館文庫小説賞(2014年8月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

小学館文庫小説賞

今回は、九月三十日締切(当日消印有効)の、第十六回小学館文庫小説賞(アマ・プロ問わず。ジャンル不問、自作未発表の小説をA4サイズの用紙に四十字×四十行縦組みで印字し、七十五枚から百五十枚まで。表紙に題名、筆名と本名、年齢性別、住所、電話番号、メールアドレス、職業、略歴を明記。二枚目に八百字程度の梗概を付けて右肩をWクリップ綴じ)を取り上げることにする。


この賞の受賞者は生存確率が低い。第一回受賞者の仙川環は映像化作品もあり、売れっ子になったし、第二回の河治和香も時代劇ブームに乗って、まずまず売れたが、第三回の大石直紀は売れずに三作で打ち切られ(横溝正史ミステリ大賞テレビ東京賞を受賞して再デビュー、以降は売れっ子になっている)第八回の石野晶は日本ファンタジーノベル大賞で再デビュー、同じ第八回の中嶋隆は時代劇ブームにも乗れずに角川春樹小説賞にチャレンジするも二次選考落ち。『神様のカルテ』の夏川草介まで延々と売れない受賞者が続く。


要するに映画化された作品以外はほとんど売れなかったわけで、そこから明らかに選考委員(小学館「文芸」編集部)の意識が変化した。要するに「映像化されそうな作品」を選ぼうとしている傾向が顕著に見られる


そこで、受賞作で最近の作品の『薔薇とビスケット』(桐衣朝子)を今回のテーマに取り上げると、これは、応募者が絶対に書いては駄目な作品である。他のビッグ・タイトルの新人賞に応募したら、百%確実に一次選考で落とされるタイプの作品。


まず、物語の根幹がタイムトラベルにある。主人公が過去にタイムトラベルして、その時代の登場人物に干渉することで未来(主人公にとっての現在)が変化してハッピーエンドになり、泣かせるストーリー。


一時、タイムトラベルものがテレビで流行し、それなりにヒットしたことで、大量に同工異曲のSFが応募作に殺到して、一次選考の下読み選者を「また来た」と呆れさせた。


当然、ろくに読まずに落とされる。『薔薇』が幸運にも予選突破できて大賞受賞にまで漕ぎ着けた理由は、編集部選考なので山のようなタイムトラベル応募作を目にしていなかったか、テレビや映画でタイムトラベルもののヒット作があるから良しと判断したのか、どちらかで、予備選考が外部の下読み選者に回される他の新人賞には、全く当て嵌まらない。


その次に『薔薇』の良くない点は(人によっては、こちらのほうが悪いと指摘する可能性も大いにある)主人公がころころ、次から次へと交代することである


この場合の主人公とは、タイムトラベルする真の主人公ではなく、視点を置いて心理描写(モノローグ)する人物のことである。


これが節替えも章替えもなく次々に変転すると、圧倒的大多数の読者は、感情移入できず、物語の流れについていくことができなくなる。


以前、江戸川乱歩賞受賞作の『カラマーゾフの妹』(高野史緒)で同様の欠点を指摘したが、『薔薇』は『カラマーゾフ』よりも遙かに劣る。


かなりベテラン作家の高野でさえ、この欠点を克服できずに売れなくなり、意を決して江戸川乱歩賞に再挑戦せざるを得なくなったのだから、『薔薇』の桐衣は早急にこの欠点に気づいて克服しない限り、早晩、文壇から跡形もなく消えることになる。


タイムトラベルしようが、ころころ視点人物が交代しようが何の問題もなくストーリー展開についていけるのは、読んでいる場面場面が瞬時に脳裏に情景として思い描ける想像力に富んだ右脳型の人間だけである。


残念ながら、そういう読者は圧倒的少数派で、一%にも満たない。しかも、そういう読者でさえ「読んでいてイメージするのに疲れるから、ころころ視点が切り替わる小説は嫌だ」と拒否するのが一般的である。


『薔薇』は、仮に映像化されれば、取り上げている題材が泣かせるエピソードなので多少は売れるかも知れないが、果たして企画書にされる段階まで辿り着けるかどうか。


第三の欠点は特別養護老人ホームで始まっていること。主人公がそこの職員だから致し方ないが、老人介護をテーマとした応募作はあまりに多く、一顧だにされずに冒頭だけで捨てられる事例が大半を占める

日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作の『ロスト・ケア』(葉真中顕)のところでも論じたが、老人介護ものは、よほど捻りを利かせなければ他の数多ある応募作と被って、容赦なく予備選考で撥ねられる。


この旨をよくよく肝に銘じて「他山の石」のつもりで『薔薇とビスケット』を読んでもらいたい。

 あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP!

 若桜木先生が、小学館文庫小説賞を受賞するためのテクニックを教えます!

 小学館文庫小説賞講座

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。