野性時代フロンティア文学賞
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文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。
多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。
野性時代フロンティア文学賞
今回は八月二十九日締切(必着)の、第六回野性時代フロンティア文学賞(ジャンル不問、A4サイズの用紙に四十字×四十行で縦書き印字し、四百字詰め用紙換算で、二百枚から四百枚まで。手書き原稿および感熱紙への印字は不可)を取り上げることにする。
第四回受賞作の篠原悠希『天涯の楽土』について論ずると「よくぞ、こんな作品に授賞してくれた」が読んでの第一印象。この回の最終選考委員は池上永一と山本文緒で、今回は全員が交代して冲方丁、辻村深月、森見登美彦という陣容になっているが、他の新人賞とは一線を画した、毛色が変わった応募作に授賞されるのではないか、という期待感が持てる。
森見は池上と同じく日本ファンタジーノベル大賞の出身、冲方は日本SF大賞、辻村はメフィスト賞の出身だが、いずれも主人公が若くてライトノベルのカラーが強い。
したがって、選考委員が交代したとはいえ『天涯』と同系統の応募作に授賞される可能性は高いと見た。
『天涯』は端的に言ってライトノベル・ファンタジーの王道を行く物語である。
フロンティア文学賞は一応は大人物の新人賞であるから、文体はライトノベル的な軽薄さはないが、主人公は全員がティーン・エイジャーの少年少女なので、紛れもないライトノベル冒険ファンタジーに属する。
舞台は、先史時代の九州。九州は筑前・筑後・肥前・肥後・豊前・豊後・日向・大隅・薩摩の九国で成り立っていることから九州の呼称があるわけだが、『天涯』では、それぞれ別の文字が当てられている。
例えば筑紫は津櫛、阿蘇は阿曾、唐津は加羅津の表記だが、霧島とか日向とか、対岸の四国の伊予とか、そのままの文字が使われている事例もあるので、容易に九州が舞台だと認識することができる。
これは実は、ライトノベル・ファンタジーを書く上では極めて大事なキーポイントとなる。どこがモデルになっているのか、舞台が選考委員にイメージできる書き方をしたほうが良い、ということである。
アマチュアに極めて多く見られる誤解が「自分の頭の中だけで構築した世界観にはオリジナリティがある」というもので、これは大間違いの錯覚である。
当人は、自分の脳裏だけで想像したつもりでいても、必ず元になった情報が存在する。
ところが「自分の頭の中だけで構築した」という思い込みがあるから深く突っ込んだ検証を行わない。
その結果、他の応募作と酷似した大同小異の作品になり、選考委員から「オリジナリティなし」と一顧だにせずに落とされる。
人間は、似たような環境に置かれる(ライトノベル・ファンタジーで新人賞に応募しようと思い立つ)と誰しもが似たような発想に向かうのであって、ここで他人とは全く違う方向に想像が向かうのは、ごく一部の天才に限られる。
そういう天才は、この講座を読んでいる全国数万の読者の中に果たして一人いるかいないか、程度のレベルでしか存在しないから、間違っても「自分がその天才だ」などと思い上がったことを考えてはいけない。
さて、物語の舞台を、ある特定の地域と時代に持っていくと、必然的にその時代と場所の風俗習慣などを克明に調べ上げる考証作業に取り組まなければならなくなる。
そういう観点で『天涯』を読むと、実に良く先史時代の日本の風俗習慣が調べられている。
私は一応、時代考証を専門としているが、詳しいのは戦国時代から江戸時代にかけてで、平安時代以前は全く詳しくない。だから『天涯』に描かれた風俗習慣が正しいのか、はたまた作者の篠原がデッチ上げたのかが全く分からない。
そのことは選考委員も私と同様に感想を選評で触れているが、詳しさに感心したことは紛れもない。
この「選者を感心させる」ということは、新人賞を射止めるためには大きな加点材料である。
何かしらの点で選考委員を感心させ、唸らせることができなくては、ビッグ・タイトルの新人賞には手が届かない。
才能はなくても、ひたすら資料に当たって知識を増やし、それを創作する応募作に注ぎ込む作業は、一定以上の知能さえ持っていれば誰でもできる。
私の生徒でビッグ・タイトルの新人賞を射止めた者は何人もいるが、その大半は、こつこつと知識を蓄えて、それを応募作に注ぎ込んだ人間である。
そういう観点で『天涯』を読んでみてほしい。
あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP! 若桜木先生が、野性時代フロンティア文学賞を受賞するためのテクニックを教えます!
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受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた! あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!
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若桜木先生が送り出した作家たち
小説現代長編新人賞 |
小島環(第9回) 仁志耕一郎(第7回) 田牧大和(第2回) 中路啓太(第1回奨励賞) |
---|---|
朝日時代小説大賞 |
仁志耕一郎(第4回) 平茂寛(第3回) |
歴史群像大賞 |
山田剛(第17回佳作) 祝迫力(第20回佳作) |
富士見新時代小説大賞 |
近藤五郎(第1回優秀賞) |
電撃小説大賞 |
有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞) |
『幽』怪談文学賞長編賞 |
風花千里(第9回佳作) 近藤五郎(第9回佳作) 藤原葉子(第4回佳作) |
日本ミステリー文学大賞新人賞 | 石川渓月(第14回) |
角川春樹小説賞 |
鳴神響一(第6回) |
C★NOVELS大賞 |
松葉屋なつみ(第10回) |
ゴールデン・エレファント賞 |
時武ぼたん(第4回) わかたけまさこ(第3回特別賞) |
日本文学館 自分史大賞 | 扇子忠(第4回) |
その他の主な作家 | 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司 |
新人賞の最終候補に残った生徒 | 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞) |
若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール
昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。
文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。
多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。
野性時代フロンティア文学賞
今回は八月二十九日締切(必着)の、第六回野性時代フロンティア文学賞(ジャンル不問、A4サイズの用紙に四十字×四十行で縦書き印字し、四百字詰め用紙換算で、二百枚から四百枚まで。手書き原稿および感熱紙への印字は不可)を取り上げることにする。
第四回受賞作の篠原悠希『天涯の楽土』について論ずると「よくぞ、こんな作品に授賞してくれた」が読んでの第一印象。この回の最終選考委員は池上永一と山本文緒で、今回は全員が交代して冲方丁、辻村深月、森見登美彦という陣容になっているが、他の新人賞とは一線を画した、毛色が変わった応募作に授賞されるのではないか、という期待感が持てる。
森見は池上と同じく日本ファンタジーノベル大賞の出身、冲方は日本SF大賞、辻村はメフィスト賞の出身だが、いずれも主人公が若くてライトノベルのカラーが強い。
したがって、選考委員が交代したとはいえ『天涯』と同系統の応募作に授賞される可能性は高いと見た。
『天涯』は端的に言ってライトノベル・ファンタジーの王道を行く物語である。
フロンティア文学賞は一応は大人物の新人賞であるから、文体はライトノベル的な軽薄さはないが、主人公は全員がティーン・エイジャーの少年少女なので、紛れもないライトノベル冒険ファンタジーに属する。
舞台は、先史時代の九州。九州は筑前・筑後・肥前・肥後・豊前・豊後・日向・大隅・薩摩の九国で成り立っていることから九州の呼称があるわけだが、『天涯』では、それぞれ別の文字が当てられている。
例えば筑紫は津櫛、阿蘇は阿曾、唐津は加羅津の表記だが、霧島とか日向とか、対岸の四国の伊予とか、そのままの文字が使われている事例もあるので、容易に九州が舞台だと認識することができる。
これは実は、ライトノベル・ファンタジーを書く上では極めて大事なキーポイントとなる。どこがモデルになっているのか、舞台が選考委員にイメージできる書き方をしたほうが良い、ということである。
アマチュアに極めて多く見られる誤解が「自分の頭の中だけで構築した世界観にはオリジナリティがある」というもので、これは大間違いの錯覚である。
当人は、自分の脳裏だけで想像したつもりでいても、必ず元になった情報が存在する。
ところが「自分の頭の中だけで構築した」という思い込みがあるから深く突っ込んだ検証を行わない。
その結果、他の応募作と酷似した大同小異の作品になり、選考委員から「オリジナリティなし」と一顧だにせずに落とされる。
人間は、似たような環境に置かれる(ライトノベル・ファンタジーで新人賞に応募しようと思い立つ)と誰しもが似たような発想に向かうのであって、ここで他人とは全く違う方向に想像が向かうのは、ごく一部の天才に限られる。
そういう天才は、この講座を読んでいる全国数万の読者の中に果たして一人いるかいないか、程度のレベルでしか存在しないから、間違っても「自分がその天才だ」などと思い上がったことを考えてはいけない。
さて、物語の舞台を、ある特定の地域と時代に持っていくと、必然的にその時代と場所の風俗習慣などを克明に調べ上げる考証作業に取り組まなければならなくなる。
そういう観点で『天涯』を読むと、実に良く先史時代の日本の風俗習慣が調べられている。
私は一応、時代考証を専門としているが、詳しいのは戦国時代から江戸時代にかけてで、平安時代以前は全く詳しくない。だから『天涯』に描かれた風俗習慣が正しいのか、はたまた作者の篠原がデッチ上げたのかが全く分からない。
そのことは選考委員も私と同様に感想を選評で触れているが、詳しさに感心したことは紛れもない。
この「選者を感心させる」ということは、新人賞を射止めるためには大きな加点材料である。
何かしらの点で選考委員を感心させ、唸らせることができなくては、ビッグ・タイトルの新人賞には手が届かない。
才能はなくても、ひたすら資料に当たって知識を増やし、それを創作する応募作に注ぎ込む作業は、一定以上の知能さえ持っていれば誰でもできる。
私の生徒でビッグ・タイトルの新人賞を射止めた者は何人もいるが、その大半は、こつこつと知識を蓄えて、それを応募作に注ぎ込んだ人間である。
そういう観点で『天涯』を読んでみてほしい。
あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP! 若桜木先生が、野性時代フロンティア文学賞を受賞するためのテクニックを教えます!
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受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた! あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!
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若桜木先生が送り出した作家たち
小説現代長編新人賞 |
小島環(第9回) 仁志耕一郎(第7回) 田牧大和(第2回) 中路啓太(第1回奨励賞) |
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朝日時代小説大賞 |
仁志耕一郎(第4回) 平茂寛(第3回) |
歴史群像大賞 |
山田剛(第17回佳作) 祝迫力(第20回佳作) |
富士見新時代小説大賞 |
近藤五郎(第1回優秀賞) |
電撃小説大賞 |
有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞) |
『幽』怪談文学賞長編賞 |
風花千里(第9回佳作) 近藤五郎(第9回佳作) 藤原葉子(第4回佳作) |
日本ミステリー文学大賞新人賞 | 石川渓月(第14回) |
角川春樹小説賞 |
鳴神響一(第6回) |
C★NOVELS大賞 |
松葉屋なつみ(第10回) |
ゴールデン・エレファント賞 |
時武ぼたん(第4回) わかたけまさこ(第3回特別賞) |
日本文学館 自分史大賞 | 扇子忠(第4回) |
その他の主な作家 | 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司 |
新人賞の最終候補に残った生徒 | 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞) |
若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール
昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。