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新人賞において読後感の心地よさは重視されるのか

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

 

設定やストーリーよりもキャラクター重視

出版界が空前の絶不景気の状態に陥ってから、どうも新人賞の選考基準も大きく変わってきたように思う。

私の主催する小説講座には約三百人の生徒がいて、その内の約五十名はプロ作家を目指して熱心に新人賞に応募しているので、誰が予選突破し、誰が予選落ちしたかを見ると、おおよそ、どんな基準で選ばれているのかが透けて見えてくる。その結果、五年前なら確実に予選突破できた作品が今では予選落ちという事例が、かなり頻繁に見られる。

小説現代長編新人賞に例を取ると、今回からインターネット応募が可能になったこともあって、応募作品数が一千三十六編と大台に乗った。私の教室の生徒は、一次選考通過が七名、二次選考通過も同じく七名、三次選考通過(最終候補)が二名で私の生徒がグランプリを射止めた。

私の教室から小説現代長編新人賞を射止めるのは、これで五人目なので「相性が良い」という理由から、応募する生徒も多いのだが、今回は「これは通るだろう」と思った作品が落ち、「これは、どうかな?」と思った作品が上位まで残る、という事例が、多々あった。

予選突破と予選落ちにボーダーラインを引くと、どうも設定やストーリー展開の面白さよりは「登場人物の性格設定の面白さ」のほうが重要視されているように見受けられる

最終選考に残った生徒の作品『ヴィーナスの林檎』の設定の奇想天外さに私は惹かれたのだが、石田衣良氏の講評は、「ヴィーナス像の修復を日本で行うというアイディアはいい。細部も読ませる。けれども主役が彫像で、肝心の人間のドラマが手薄だった」と、登場人物のキャラの弱さが指摘され、受賞作の『お師匠さま、整いました!』は「三人の女性ヒロインが和算を学びながら成長していく三者三様の書き分けが秀逸。洪水で親を亡くし和算を志す春、年の離れた算学者の夫に先立たれた桃、数学の才能がある良家の子女・鈴。それぞれ胸に抱える葛藤があり、長所と欠点と魅力を持っている。この作品で初めて立体的なキャラクターが描かれるようになった印象がある」で、明らかにキャラのほうに、ウェートがある。

伊集院静氏の講評が「作中登場する三人の女性のキャラクターもそれぞれ活きていた。桃、春、鈴の出自もきちんと分けてあり、桃の夫であった算学者もそれなりの風情が感じられた」で、角田光代氏の講評が「働き者で無骨な春をはじめ、算学家の夫を亡くし、師匠となり寺子屋を受け継いだ桃や、桃を慕う大工の平助など、登場人物が生き生きと魅力的である。算術に取り憑かれた、生意気で承認欲求の人いちばい強い鈴という娘も、みごとに描き出されている」で、やはりキャラクター重視。

角田氏は「『ヴィーナスの林檎』を私は面白く読んだ。資料を読み込み、うまく纏められていると思うのだが、その〈うまさ〉が、作品をこぢんまりとさせてしまったように思う。登場人物たちの感情や関係性に、もう一歩踏みこんで、もっと彼らを自在に動かせばドラマが生まれたのではないか」とも述べ、この辺りは私と見方が似ていると思うのだが、とにかくウェートの置き方が違うことが、今回は歴然と分かった。

最新の松本清張賞は蜂須賀敬明さんの『待ってよ』に授賞されたのだが、途中経過の一次選考突破者を見て驚いたことには、過去に新人賞を射止めている作家が六名もいた。その作家の著作数をネット検索してみると、ほとんど作品が出ていない(年間に最低四冊は出さないことにはプロ作家としての生計が維持できない)。つまり版元から依頼が入らず、やむを得ず「新人賞を射止めて再デビュー」を目論んだ状況が見て取れるのだが、六人には共通項がある。

それは①登場人物のキャラ設定が下手か、凡庸で魅力に欠ける

あるいは②登場人物のキャラ設定はまずまずだが、読後感が暗くて、「この人の作品を続けて読もう」という気になれない

の、いずれかだった。アベノミクスが目立った成果を挙げていなくて大多数の一般庶民は不景気感が強い。こういう経済情勢においては、読者は「読後感が明るくて、ほのぼのした気持ちになれるもの」を求める傾向が強い。それは如実に売り上げ部数に直結するので、新人賞を授賞する版元もその路線を追求し、選考委員にも多かれ少なかれ求めることになる。

私の手元には生徒の予選突破者の一覧が来ているが、日本ミステリー文学大賞新人賞、『このミステリーがすごい!』大賞、福山ミステリー文学賞など、いずれも「ストーリーと同等以上にキャラにウェートを置いた作品」が通過している。いくらストーリーが秀逸でも、キャラに難点がある作品は全滅した。

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

 あなたの欠点を添削しつつ、応募すべき文学賞を教えます。

 文学賞指南 添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

新人賞の選考基準(2016年10月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

 

設定やストーリーよりもキャラクター重視

出版界が空前の絶不景気の状態に陥ってから、どうも新人賞の選考基準も大きく変わってきたように思う。

私の主催する小説講座には約三百人の生徒がいて、その内の約五十名はプロ作家を目指して熱心に新人賞に応募しているので、誰が予選突破し、誰が予選落ちしたかを見ると、おおよそ、どんな基準で選ばれているのかが透けて見えてくる。その結果、五年前なら確実に予選突破できた作品が今では予選落ちという事例が、かなり頻繁に見られる。

小説現代長編新人賞に例を取ると、今回からインターネット応募が可能になったこともあって、応募作品数が一千三十六編と大台に乗った。私の教室の生徒は、一次選考通過が七名、二次選考通過も同じく七名、三次選考通過(最終候補)が二名で私の生徒がグランプリを射止めた。

私の教室から小説現代長編新人賞を射止めるのは、これで五人目なので「相性が良い」という理由から、応募する生徒も多いのだが、今回は「これは通るだろう」と思った作品が落ち、「これは、どうかな?」と思った作品が上位まで残る、という事例が、多々あった。

予選突破と予選落ちにボーダーラインを引くと、どうも設定やストーリー展開の面白さよりは「登場人物の性格設定の面白さ」のほうが重要視されているように見受けられる

最終選考に残った生徒の作品『ヴィーナスの林檎』の設定の奇想天外さに私は惹かれたのだが、石田衣良氏の講評は、「ヴィーナス像の修復を日本で行うというアイディアはいい。細部も読ませる。けれども主役が彫像で、肝心の人間のドラマが手薄だった」と、登場人物のキャラの弱さが指摘され、受賞作の『お師匠さま、整いました!』は「三人の女性ヒロインが和算を学びながら成長していく三者三様の書き分けが秀逸。洪水で親を亡くし和算を志す春、年の離れた算学者の夫に先立たれた桃、数学の才能がある良家の子女・鈴。それぞれ胸に抱える葛藤があり、長所と欠点と魅力を持っている。この作品で初めて立体的なキャラクターが描かれるようになった印象がある」で、明らかにキャラのほうに、ウェートがある。

伊集院静氏の講評が「作中登場する三人の女性のキャラクターもそれぞれ活きていた。桃、春、鈴の出自もきちんと分けてあり、桃の夫であった算学者もそれなりの風情が感じられた」で、角田光代氏の講評が「働き者で無骨な春をはじめ、算学家の夫を亡くし、師匠となり寺子屋を受け継いだ桃や、桃を慕う大工の平助など、登場人物が生き生きと魅力的である。算術に取り憑かれた、生意気で承認欲求の人いちばい強い鈴という娘も、みごとに描き出されている」で、やはりキャラクター重視。

角田氏は「『ヴィーナスの林檎』を私は面白く読んだ。資料を読み込み、うまく纏められていると思うのだが、その〈うまさ〉が、作品をこぢんまりとさせてしまったように思う。登場人物たちの感情や関係性に、もう一歩踏みこんで、もっと彼らを自在に動かせばドラマが生まれたのではないか」とも述べ、この辺りは私と見方が似ていると思うのだが、とにかくウェートの置き方が違うことが、今回は歴然と分かった。

最新の松本清張賞は蜂須賀敬明さんの『待ってよ』に授賞されたのだが、途中経過の一次選考突破者を見て驚いたことには、過去に新人賞を射止めている作家が六名もいた。その作家の著作数をネット検索してみると、ほとんど作品が出ていない(年間に最低四冊は出さないことにはプロ作家としての生計が維持できない)。つまり版元から依頼が入らず、やむを得ず「新人賞を射止めて再デビュー」を目論んだ状況が見て取れるのだが、六人には共通項がある。

それは①登場人物のキャラ設定が下手か、凡庸で魅力に欠ける

あるいは②登場人物のキャラ設定はまずまずだが、読後感が暗くて、「この人の作品を続けて読もう」という気になれない

の、いずれかだった。アベノミクスが目立った成果を挙げていなくて大多数の一般庶民は不景気感が強い。こういう経済情勢においては、読者は「読後感が明るくて、ほのぼのした気持ちになれるもの」を求める傾向が強い。それは如実に売り上げ部数に直結するので、新人賞を授賞する版元もその路線を追求し、選考委員にも多かれ少なかれ求めることになる。

私の手元には生徒の予選突破者の一覧が来ているが、日本ミステリー文学大賞新人賞、『このミステリーがすごい!』大賞、福山ミステリー文学賞など、いずれも「ストーリーと同等以上にキャラにウェートを置いた作品」が通過している。いくらストーリーが秀逸でも、キャラに難点がある作品は全滅した。

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

 あなたの欠点を添削しつつ、応募すべき文学賞を教えます。

 文学賞指南 添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。