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絵本を作ろう!⑥筒井大介さん、きくちちきさんインタビュー

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「子どもの頃から絵本が好きで」というタイプではなかったという絵本編集者、筒井大介さんと、
絵本作家、きくちちきさんとの対談を通じ、二人三脚でよりよい絵本を作ろうとする過程に迫る!

誰に見せるわけでもなく描き続けた

——筒井さんが絵本編集者になったきっかけは?

筒井 大学卒業後、絵本と紙芝居を出している出版社をなんとなく受けたら受かってしまい……。この業界は「昔から絵本が好きで」という人が多いのですが、自分はそんなこともなく、入社後に自社で発行している絵本を読んでも、絵本のいい話が全然響いてこないんです。そんなとき、長新太さんと出会うんです。長新太さんの絵本を読んで、「今まで読んだ絵本とは全く別ものだ。絵本ってこんなこともできるのか、これがOKということは何をやってもいいってことじゃないか」と思い、そこで初めて自分でも絵本を作ってみたいと思ったんです。

——ちきさんは何をきっかけに絵本を描くようになったのですか。

きくち 古いものが好きで、よく骨董市などに行っていたのですが、そこでモンベルが描いた百年前の絵本と出会いました。装丁や絵の衝撃と感動がすごくて、自分でも作ってみたいという衝動に駆られました。

——急に思い立って、うまく描けましたか。

きくち モンベルの絵が素敵だったので、まねして描いてみたんですけど、うまくいくはずもなく。自分だったらどういうふうに描けるのかなと、そこからひたすら何千枚も描きましたね。その中で、「あ、ちょっといいかな」というのが少しずつ見えてきて、そこに言葉や物語などを添えていく作業を、誰に見せるわけでもなくひたすら描き続けていったという感じです。

ぶっ飛んだものを描いて、と言い続けていた

——筒井さんが絵本の編集を担当した『みんな』はどのようなきっかけで制作されたのですか。

筒井 以前から、猫やその他の動物ではないなんだかわからないものを描いてみたらいいんじゃないかと話していたんです。その頃、ぼくがやっている本と器のギャラリーショップnowakiでちきさんの展覧会があったのですが、並べてみたら作品の点数が足りなかったんですよ。それでちきさんが「すかすかですよね。明日までに描いてきます」と。そのときに「じゃあ、あれを描けばいいんじゃないですか」となったわけです。

きくち 描いたことのない変な生き物を描かないといけないから、とにかく悩んでいる暇はなく、宿に帰り、床に紙を広げて、ひたすら描くという状態でした。

筒井 そういうときって楽しいと感じる余裕はあるんですか。

きくち 最初は時間がないという感覚しかなかったですが、描いてみたら、「なんでこんなに描けるんだろう」っていうぐらいに筆が進み、すごく楽しくなりました。この頃は動物以外のものは描けないような見られ方をしていた時期で、ほかのものも描いてみたいという願望もあって、それで何十枚も描けたのかなと思います。

筒井 このときに展示した絵はストーリーも何もない、モチーフだけいっぱい描いたものだったけれど、それを絵本にするのは意外と難しかったよね。

きくち 意外と難しく、内容がころころと変わりましたね。

筒井 完成した『みんな』は一瞬で子どもの世界に入り、ただただハイテンションで帰ってくるという絵本です。ストーリーはそれだけで、主人公のセリフ以外はほぼ擬音という感覚的なものになっているけど、最初はストーリーを作ろうとしていましたよね。庭で何かに出会って、どこかに連れていってもらって、みんなと交流して、「またね」って言って帰ってくるというような。その中にももう少しお話が盛り込まれているというか、より複雑でした。

きくち それがうまくいかず、最終的には超シンプルなストーリーになりました。ちょうど息子が1歳か2歳で、息子の遊び方を見ていても、どこを見ているのか、何をしているのか、何を想像しているのかもわからないような遊び方をしているときがあって、それをモチーフにしました。息子は何を見ているんだろうなと想像しながら、余分なところを削っていったらシンプルになったような気がします。

筒井 子どもって、なんにもないところを見て笑っていたりとか、何が見えているんだろう、大人には見えない何かが見えているんだろうなっていうときがありますからね。

きくち 息子と一緒に生活していて、そういうことをよく目の当たりにしていたので、「いや、すごいな。きっとヤバいものが見えているんだろうな」とよく想像していました。とにかく筒井さんは「ぶっ飛んだものを描いてください」とずっと言い続けていたので、これは生半可なものは描けないなと思っていましたね。「最初は抑えぎみのほうがいいですかね」と言ったのですが、筒井さんに「最初から最後までぶっ飛んでいて、常にぶっ飛ばしたい」みたいなことを言われた記憶があります。

筒井 子どもが見ているヤバいものをきちんと表現しようと思うと、最初はゆっくりで、途中盛り上げ
て、最後にクライマックスというのはなじみやすいかもしれないけど、そこにリアリティーはあまりないかもしれないと。子どもの感覚と地続きとなると、その時点で夢中になっているわけですから、最初からテンションが高くないと。

——ストーリーを作ろうとしたが、うまくいかなかったというのは、それが理由なんですね。

筒井 そう言ってたきつけておきながら、描かれた絵を見たときは、めっちゃ驚きましたけどね。すごいなと。いや、すごいのを描くだろうとは思っていましたが、ここまでよくやってくれたなと。

枚数を重ねれば無心になって、いい絵が描ける

筒井 ちきさんは一枚の絵で何百枚も描いたりしますよね。そのときに、しっくり来たと思う瞬間って、どういうときなのかな。

きくち すごい枚数を描いている中で、どっと疲れて、それで力が抜けていい線が描けるのかわからないんですが、描けたときはほかのものとは明らかにトーンが違い、明るく見えるんですよ。

筒井 自分のコントロール下に置いて何かを進めるとつまらないということですよね。

きくち 邪念を振り払うじゃないですけど、枚数を重ねていくうちに無心になって、いい絵が描ける。

筒井 絵本の難しいところは、一枚絵じゃないから、さっき偶然描けた線を、次の場面でも描かないといけないじゃないですか。それを苦しいと思ったことは?

きくち 苦しさしかない。ぼくは絵を描くとき、ご飯とかも食べないし、睡眠もとらないので、きっとものすごい顔をして描いているんだと思うんですけど、うまくいった一枚のときのためだけに、ひたすら我慢して描いている感じ。ご飯や睡眠をとらないのは、満足してしまうと、さっきの追い詰められていたときの線が描けなくなるからです。

筒井 なかなか自分を追い込んだ作り方ですね。

きくち すんなり描けるときもあるので、毎回じゃないですが(笑)。

筒井 本画を描くときに、ラフを横に置いておいたりする?

きくち 一応ラフはすぐ横に置いてあります。それを見て描くことはないですけど、物語がどういうふうに進んでいくのか、ちらちら見ながらやっていますね。

筒井 ラフのほうがよかったということはないですか。

きくち ありますよ。ラフはそんなに一生懸命描かないけど、逆にそのことで自由ないい線が描けたときは本画のときに苦労しますね。そういうときは構図も全く変えるし、一回ゼロにして違うものを描くこともあります。

——うまく描くコツは?

きくち コツをつかんだら面白いものは描けない。常に新しい気持ちで描くと、いい線が描け、いい色が生まれるのだと思います。

きくちちきさんの既刊

『やまねこのおはなし』 (作どいかや・絵きくちちき・イーストプレス・1760 円)

やまねこは一人気ままに山奥にすんでいる。あるとき、町に出かける。半日歩くと、前のほうに子猫がいて、このままでは死んでしまうと、山に連れて帰る。それから2匹の楽しい暮らしが始まるのだが……。

同じ絵本作家のどいかやさんが原作を書き、その文章にきくちちきさんが絵をつけた。文章だけを担当した絵本も時折出されるどいかやさんに「この人の絵を見てもし気に入ったらお話を書いてください」と筒井大介さんが依頼した。編集も筒井大介さん。

筒井大介さんオススメ絵本

『ちへいせんのみえるところ』 (長新太著・ビリケン出版・1760 円)

曇り空、草原と地平線が見える。男の子が出てきて、文は「でました」だけ。出てくるものは、エイ、飛行船、ペンギン……何が出てくるかドキドキしながらページをめくる。ナンセンス絵本。

きくちちきさんオススメ絵本

『ぼく、お月さまとはなしたよ』 (フランク・アッシュ著・評論社・1320 円)

「クマくん」シリーズの一つ。クマくんはお月さまに誕生日のプレゼントをしようと話しかけるが、お月さまはクマくんが言ったとおりに答える。純粋で一生懸命なクマくんに魅了される絵本。

※本記事は2021年9月号に掲載した記事を再掲載したものです。