絵本を作ろう!③本画を描き、表紙を作る


原寸ラフを元に本画制作に入る。画材を用意して、絵を描いて色を塗る。慣れていないと緊張してしまうが、ぜひ楽しんで完成させてほしい。
本描きしよう
大切なのはのびのび描くこと
原寸ラフが完成したら、それを元に実際の絵本制作に入っていく。とはいえ、ラフを忠実になぞる必要はないと筒井さん。「ラフにとらわれて、絵が窮屈にならないように!」とのこと。
ふだん描きなれていない人は絵を描いて色を塗る作業に緊張するかもしれないが、絵本の絵はうまいことだけがすべてではない。のびのびと描いてみよう。画材もいろいろあるので、お気に入りを見つけるつもりで探すと楽しい。
下描き
まずは下描きからスタートする。そのあとに必要であればペンで輪郭をとり、色塗りへと移っていく。下描きと色塗りをくり返していくと、キャラの顔や背景の色味などが気づかないうちに変わってしまうことがある。それを防ぐために、下描きは32枚通しで一気に進めるなど、工夫をするのも手だ。方法はそれぞれで構わないが、キャラの表情や小物は一貫しているか気をつけながら描き進めよう。
色塗り
色についての基本知識は、P10にカラーで記載してあるので確認してほしい。描きたいイメージを固めてから色を選ぶようにしよう。単純に「太陽だから赤」とするより、絵本のイメージに合わせて「黄色の混ざった明るい赤」や「黒の入った暗い赤」など、色を作るのがおすすめ。その際、ページが変わっても同じ色になるように、同じタイミングで塗ったりパレットに作っておいたりなど、工夫して進めるとよい。
POINT
● 同じ色で塗るべき部分がわからなくならないよう工夫しよう。
● お話の雰囲気と色味が合っているか確認しながら進めよう。書き直す勇気も大切。
おすすめの画材
画用紙
入手のしやすさも親しみもいちばん。大きさは、A3やB4を見開きで使うのが一般的。水彩がほどよくにじみ、消しゴムの摩擦にも強いので初心者さんにぴったり。
絵本用台紙
最初から本の形をした台紙も売られている。中央が綴じられているため描きやすさは画用紙ほど高くないが、自分用やプレゼント用に気軽に作るにはおすすめ。
アクリル絵の具
現在もっとも一般的な画材の1つ。油彩のように厚塗りすることも、水に溶かして水彩のようなタッチを作ることもどちらも可能なため使いやすくて便利。
色鉛筆
家にある方も多いであろう色鉛筆。気軽だが色鉛筆だけで鮮やかな絵にするのは少しむずかしいため描きたいタッチによって使い分けたい。絵の具との併用もアリ。
表紙を作ろう
魅力の伝わる表紙を作ろう
絵本の表紙は主に2つの要素で成り立っている。1つ目が絵、2つ目がタイトルだ。どちらもストーリーを的確に表現しつつ、かつ、魅力が最大限に伝わるものが望ましい。
タイトルは簡潔でわかりやすいものが多いが、近年は、ネタバレギリギリを狙った文章のようなタイトルで読者の興味を引くものもある。人気の絵本を参考に考えるのもおすすめだ。ストーリーのうちのどこを切り取って、タイトルはどんな印象を与えているか、味わいながら確認してみよう。
筒井さんからは、「絵本は何度も読まれることを想定して作るので、ネタバレに神経質になりすぎず、読者の興味を引く表紙にするという考え方もアリです」とのアドバイス。
パターン1 表と裏で分ける
表と裏で分けた場合はそれぞれ違う内容を載せられるため、そこで1つストーリーを作ったり、絵本のラストの続きを描いたりできるのが魅力だ。
パターン2 表と裏で一枚絵
表と裏の両方を使って一枚絵を載せれば、ダイナミックな絵も描くことができる。背景も描き込み、世界観を細部まで表現することも可能だ。
名作に学ぶ タイトル& 表紙
表紙が秀逸な絵本はたくさんある。工夫のこらされたタイトルや絵は、読者を一瞬で物語世界に連れて行ってくれる。
『ねずみくんのチョッキ』 なかえよしを 作/ 上野紀子 絵 (ポプラ社)
おかあさんがあんでくれた赤いチョッキをき
たねずみくん。そこへ動物たちがやってきて、
「ちょっときせてよ」とつぎつぎにチョッキを
きていきます。チョッキはどんどんのびて……。
『おしいれのぼうけん』 ふるたたるひ/ たばたせいいち 著 (童心社)
けんかをしたさとしとあきらは、先生に叱られておしいれに入れられます。そこで出会ったのは、地下の世界に住む恐ろしいねずみばあさんでした。大冒険のはじまりです。
『それしかないわけないでしょう』 ヨシタケシンスケ 作・絵 (白泉社)
大人になったときに待っているのは、大変なことばかり。おにいちゃんはそう言うけど、それって本当!? それしかないわけないでしょう! 楽しい未来がたくさん見えてくるはず。
絵本編集者 筒井大介さんへ4つの質問
——絵本塾で教えていて、「これは微妙だな」と思うラフに共通していることは?
その作品ならではの視点、アイデアが提示されていないまま、器用に絵本の形にはなっているものです。そうしたものは、どこかで見た、既視感のあるものになっています。形にはなっていなくても、独自の視点、アイデアが提示されているものに可能性を感じます。
——絵が下手だと絵本作家にはなれないのでしょうか?
うまい絵=よい絵ではないので、うまさは絶対必要なことではないです。自分の絵の特徴、強みを生かした絵本が作れたら大丈夫。大切なのはうまさよりも、絵を描く体力、そして絵の力かなと思います。絵本作家志望の人の絵を見ると、多くの場合「描き足りてない」と感じます。そういう絵は見る人にどこかひ弱な印象を与えます。できるだけ毎日手を動かして絵を描く体力をつけ、読者を絵本の世界に引き込む強さと説得力のある絵を描けるようになりましょう。
——2021年、いま「キテる」絵本を教えてください!
2冊ご紹介します。どちらもおすすめです!
『デリバリーぶた』 加藤休ミ 作(偕成社)
作家が得意とする食べ物を「どう見せるか」から逆算して考えられたであろうアイデア。シンプルなくり返しの構成に乗って見ていたら、突然ふわっと時空を超えるその飛躍も素晴らしい。唯一無二の世界。
『てがみがきたなきしししし』 網代幸介 作(ミシマ社)
とにかく網代さんの絵が圧巻。闇に潜む、見ても見ても見きれない無数のおばけたち。郵便屋さんが進んでいくだけのシンプルな展開に引き込まれ、読者もいつしか郵便屋さんと一緒に無数のおばけに翻弄される。
——絵本作家になるために必要な素質ってありますか?
たくさんありますが、たとえば、さまざまな角度で物事を見て、考えられることでしょうか。絵本は最終的に「気づくか気づかないか」なのではないかと考えていて、誰もが経験しうる状況の中に何を見いだせるか、それが絵本のタネになるのだと思います。そのためには、絵本以外の物事に興味を持ち、経験することも大切。本や映画にたくさん触れるもよし、旅行に行くもよし、いろんな職業についてみるもよし、そこで感じたすべてがあなたの絵本を、ほかの絵本とは違うものにするはずです。
公募スクール講師に聞く! 絵本づくり上達のヒント
文と絵の役割を考える
形、色、表情などは絵のほうが伝えやすい。時間の流れ、登場人物の関係、気持ち、状況は文章のほうが伝えやすい。
構図にメリハリを
見どころやクライマックスでは見開きの大きな絵にするなど、メリハリをつける。また、いつも同じパターンにしない。
話の骨格をしっかりと
話がずれて最初と最後が関係なくなっては×。始まりがあり、展開があり、結びがあるという話の骨格をしっかり作る。
気持ちが伝わる絵はうまい下手ではない
——「はじめての絵本講座」では、どんなことを学びますか。
絵本の基礎知識とストーリーづくり、絵づくりを段階的に学び、最終的に世界で1冊のあなただけの絵本を作ってもらいます。
——絵づくりというのは、どのようなことをするのですか。
ストーリーが決まったら台割を作り、そのあと、ダミー本を作ります。本の体裁にしてみて、絵の構図やメリハリを確認します。
——絵がうまい人でないと絵本づくりは難しいですか。
絵本は思いです。気持ちがこもった絵はうまい下手ではないと思います。読者に喜んで読んでもらえることをイメージして、これからの絵本づくりの第一歩として挑戦してほしいですね。
公募スクール「はじめての絵本講座」講師 野崎麻理
武蔵野美術大学卒。同大学非常勤講師「絵本」担当。ブックデザイナー。こどものアトリエ「かいどりやまアートスタジオ」主宰。
※本記事は2021年9月号に掲載した記事を再掲載したものです。