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【実体験がなくても小説は書ける】芥川賞作家・高橋弘希さんが明かす!シーンから発想する創作プロセス

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新人賞受賞から4年。『送り火』で芥川賞を受賞した高橋弘希さんに小説を書く秘訣やデビューまでの道のりを聞いた。

必ずしも実体験をもとに小説を書いているわけではない

——『送り火』の舞台は青森県で、主人公は中学3年の転校生です。高橋さんも青森出身ですが、ご自身の体験が生きていますか。

青森県で生まれ、東京に引っ越しましたが、転校らしい転校の経験があるわけではないんです。

——それは驚きです。お祭りのことも想像で書かれたのですか。

子どもの頃に青森で見た「大川原の火流し」がベースにありますが、小説的な脚色をしているので、実際のお祭りとはだいぶ別のものになっていますね。

——暴力に巻き込まれていく後半の描写が凄まじいです。

もともと最初に思いついて書き始めたのは、後半のこの場面なんです。終わり方も、この作品にはああいう形がいちばんふさわしいかなと。

——一方、老婆が焼くマシュマロや母親が作るそうめんなど、食べ物の描写は幸せな印象です。

おいしそうなほうがいいかなと思って。マシュマロを焼いて食べたことはありませんが、焼くのは知っていたので。まわりは砂糖だから、たぶん焼くと香ばしくなるんじゃないかと。母親が生まれ育った町の郷土料理として少年たちにふるまう「茄子と油揚げのそうめん」も、実際にはないのかもしれないですが、似たようなものを食べたことがあるんで。

——老婆のモデルは?

とくに誰というわけではなく。子どもの頃にテレビで観ていた『まんが日本昔ばなし』的なおばあさんのイメージ……。

大学生のとき、ラノベみたいな青春ものを書き始めた

——アニメの記憶なんですね。本の記憶は何かありますか。

子どもの頃、本を読んでいないので……。教科書は読みましたが、あとは読書感想文の課題を読まされたくらいですよ。書くのは割と好きで、学校で書かされていた生活の記録みたいなものは、書いていて楽しかったです。

——小説家というと子どもの頃、本の虫だったという人が多いですが、意外ですね。本格的に小説を読んだり書いたりし始めたのはいつ頃ですか。

大学生のときですね。当時、はやっていたのが『インストール』など綿矢りささんの小説。自分でも遊びで小説をいろいろ書きました。ラノベみたいな青春ものです。2、3作書いて文芸誌に応募しました。

——その後、『指の骨』で新潮新人賞を受賞されました。ラノベ的な青春ものでなくなった理由はなんでしょうか。

卒業してだいぶ経っていたので、単純に学生気分が抜けたんじゃないでしょうか。『指の骨』を書いたのは30歳くらいで、予備校教師を辞めてほぼ無職だった頃。締め切りがちょうどよかったこともあり、新潮新人賞に応募しました。

書きたい題材はフォルダーにどんどん貯まっていく

——小説家になろうと決めたのはいつですか。

学生時代もその後も、小説家になろうとは思っていなかったのですが、『指の骨』を書いているときは、何というか、割とよく書けたという実感がありました。

——『指の骨』は戦争について詳しく調べる必要があったのでは?

意外とそうでもないです。ドキュメンタリー番組を観たぐらいで。銃の形などは、歩兵銃がデザートイーグルだったらまずいので、兵器図鑑を見たりはしましたが。

——一度見た風景は忘れない?

記憶力はいいかも。暗記的な記憶能力はほぼないですが、出来事や風景をよく覚えているというのはあります。

——母親の立場から子どもを見た『スイミングスクール』のような作品は、想像力で書いた?

男だし、子どももいないので、確かに主人公とは何も共通点がないですね。どういうつもりで書いていたのかな……。父親が娘を見守る『短冊流し』という小説については、川を短冊が流れていく最後の場面が最初に思い浮かんだ。きっとこのお父さんは、何か理由があってこれを眺めているんじゃないかと。

——1つのシーンから物語が生まれるんですね。アイデアのストックがあるのでしょうか。

とりあえず題材はたくさんあります。パソコンにフォルダーがあって、小説の題名とちょこっと本文を書いたものをストックしているので。作品を1つ書き上げるより、題材を思いつくほうが早いから、必然的にどんどん貯まっていく。今、10〜20個くらいあると思います。

——最初の読者である編集者の反応は気になりますか。

反応はいいほうがいいですけど、気にはならないかな。高橋満足度は気になりますが。

——ご自身の満足度ですね。

高橋が満足していれば、編集者がダメだといっても、いや、ダメじゃないと。

——ご両親や友人の反応は?

「漢字が多すぎる」とか、「言葉が難しい」とか言われますね。古風なのは作品の雰囲気のせいで、それほど難しい言葉は使っていないと思うんですが。

——多くの人に読んでほしい?

そういう気持ちはあるといえばありますけど、友達とかにはあまり薦められないですね。純文学はろくなもんじゃないですから(笑)。

——ロックバンドをやっていたそうですが、今も楽器を?

最近は触っていないですね。やりだすとそればっかりになってしまう性格なので、小説を書かなくなってしまうかも。

——その性格に、小説家になれた理由の一端があるのかもしれませんね。ありがとうございました。

高橋弘希さんへのQ & A

——受賞して変わったことは?
特に変わらないですね。受賞直後は取材やら新聞エッセイやらわりとあったけど、それも一過性のものなんで。

——1日の過ごし方は?
スマホでYouTubeを見たり、基本的にはぐうたらして終わります(笑)。締め切りがあるときは一応そこに向かってやりますが。

——1日にどのくらい書く?
決まってないです。起きてすぐ書くか、寝る前に書くことが多いですね。書いている時間は2、3時間くらいだと思います。

高橋弘希
1979年青森県生まれ。2014年『指の骨』で新潮新人賞受賞。2017年『日曜日の人々(サンデー・ピープル)』で野間文芸新人賞受賞。2018年『送り火』で芥川賞受賞。

※本記事は2018年10月号に掲載した記事を再掲載したものです。