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【完璧主義を捨てよ】1冊も売れなかった経験を経て累計170万部突破へ!柳本光晴さん流・創作術「60点でいいから、完成させること」

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累計で170万部を突破した大ヒットコミック『響〜小説家になる方法〜』が実写映画化!原作者の柳本光晴さんに、小説を題材にした理由や漫画家になるまでの道のりを伺った。

まだ漫画の題材になっていない、かつ、メジャーなジャンルを探した

——15歳の天才小説家・響の物語は、何を取っかかりとして生まれたのでしょうか。

まず、「圧倒的な天才」を描きたいというのがありました。同人誌時代に、天才の女の子のラブコメを描いたことがあって。誰にも影を踏ませないような、ドーンとそびえ立つ存在感が格好よかったし、描いていて楽しかったんです。

——小説を漫画の題材に選んだ理由はなんでしょうか。

まだ漫画の題材として扱われておらず、かつ世の中ではメジャーなジャンルのものを、当時の担当編集者と探していきました。

彼は『医龍』を担当していて、「医者ならすぐ取材できますけど」「医者の漫画なんて世の中に死ぬほどありますよ!」とやりとりしていく中で、残ったのが文芸だったんです。マイナーなジャンルだと、こちらがいくら「天才だ」と言っても読者に伝わりにくいのですが、小説なら誰もが知っていますからね。

——でも、小説は絵で表現できませんよね。

文章は見せられませんが、ぶっ飛んだところのある天才小説家のキャラクターは見せられるので、成立するなと思いました。

ものを作る人間は現実を超えるエピソードを生み出すのが使命

——取材はされましたか。

小説の世界にうとかったので、連載の1話目ができたときに、純文学の文芸誌に取材に行きました。

嘘があってはいけないので、本が作られる仕組みやスケジュール、新人賞の選考方法、授賞式の様子などは取材しましたが、面白いエピソードなどのたぐいは聞いていません。ものを作る人間は、実際のエピソードを超えるものを作らなくてはいけないので。エピソードをそのまま書くと、職業紹介漫画になってしまいます。

——響は暴力をふるうことも辞さない強烈なキャラクターですね。

暴力をふるう相手が女性や小柄な人だと読んでいていい気がしませんよね。だから、暴力をふるう相手は響より体の大きな大人の男性だったり、彼女なりの理屈がきちんとあったり。そういったことは気をつけています。

——小説が好きでたまらない人や、人生を懸けて打ち込んでもうまくいかない小説家など、響を取り巻く人物たちの姿も印象的です。

『響』の中で描きたいことの1つに「才能」というのがあって、うまくいっていない人たちの人生も描いてみたいというのがありました。15歳でうまくいってばかりの響を、彼らが見たらどう思うのか興味があったんです。

——響のように魅力的なキャラクターを作るコツを教えてください。

このキャラクターが好きだからと、よそから借りてくることはしないほうがいい。自分の作品の中のキャラクターは、自分の中の一面を切り取ったものでないと、うまく動いてくれません。

初めて出した同人誌は1冊も売れなかった

——漫画を描いたきっかけは?

漫画が好きで、中学生くらいから漫画家になろう、そのために東京に行こうと思っていました。ただ、当時は描いても最後まで完成させられませんでした。

——本格的に描き始めたのは?

大学で漫研に入ってから。1年は全員同人誌を出さなければいけないという決まりがあったんですよ。ただ、周りの友だちはちょこちょこ売れているのに、僕だけ1冊も売れなくて。今でも鮮明に覚えています。結局、絵が下手だわ、完成させられないわで、売れない時期が4年も続いたんです。

——そこで諦めなかったんですね。

毎回、「違う違う、自分はもっとすごいはずだ」と思っていたので、コンスタントに描いて常時イベントには出ていました。そのうちどうにか完結させられるようになり、100部、1000部、2万部と徐々に売れるようになったんです。そこで、オリジナルの創作漫画専門のコミケで、もともと描きたかったラブコメ漫画を出したら、出版社から声がかかって商業誌デビューすることになりました。

——持ち込みはしなかった?

「担当編集者がいなければこの作品はできなかった」と漫画家さんが書いているのを見て、「この人、担当編集者がいなければ埋もれていたんだ」と怖くなっちゃったんです。編集者頼みになるのは嫌だったので、同人誌で力をつけてからデビューしたいと思っていました。ただ、これはまねしてほしくないですね。デビューまで10年かかったし、編集さんに言われて気づけたこともたくさんあるので。

作品を最後まで完成させるコツは完璧を目指さないこと

——作品を完成させられるようになったのは、何かコツをつかんだからですか。

何度も描くうちに脱け出せた感じですね。ただ、繰り返し描いても〝完成させられない病〞のまま、現在に至る友人もいます……。

——〝完成させられない病〞の人にはどうアドバイスしますか。

小説でも同じだと思いますが、完璧を目指さないこと。60点でいいから、完成させることです。完成させて、良いところ悪いところが浮き彫りになって初めて成長することができるんです。

——表現者に必要な資質とは?

極端に言えば、世の中の人すべてが間違っていて、自分だけが正しいということを「愚かな世の凡人どもに、しょうがないから正解を見せてやる」というつもりで描くくらいでちょうどいいと思います。そうでなければ、何のために表現する側にいるかわかりません。

——表現の世界でプロを目指す読者にメッセージをお願いします。

表現の世界には確実に向き不向きがあります。『響』の中に「センスには明確な上下がある」というセリフがありますけど、本当にそうだなと。途中で見切りをつけるのも大事。プロになるだけが幸せな生き方とも思いません。

——『響』に出てくる中原愛佳は小説家をやめますが、そこにも幸せがあるということですね。ありがとうございます。

『響』で解説 物語設定の面白さ

1.圧倒的天才小説家

芥川賞と直木賞をW受賞するというまず不可能なことをやってのける。現実的にはできないことを実現するというのが創作された物語の面白さ。読者はそこに自分をあてはめ、爽快感を得る。

2.信念を曲げない痛快さ

我の張り合いなら絶対に負けない。友達がねちねちと嫌味を言われていたら、相手の顔に蹴りを入れてしまう。そんな衝動を抑えている読者にとっては、まねができないがゆえに痛快。

3.怖くてかわいい

ヤンキー相手に一歩も引かない、ケンカも負けないと怖いところもあるが、幼なじみの涼太郎といるとかわいい女の子になる。容姿とやることのギャップがいい。

柳本光晴
徳島県出身。2011年商業誌デビュー。現在『ビッグコミックスペリオール』(小学館)で『響 小説家になる方法』連載中。ほか、『きっと可愛い女の子だから』『女の子が死ぬ話』(ともに双葉社)がある。

※本記事は2018年10月号に掲載した記事を再掲載したものです。