『魔天使マテリアル』藤咲あゆな先生に学ぶ|ファンタジーの設定病に要注意! 読者が感情移入するのは人物の性格


藤咲あゆな先生に秘訣を聞く キャラクター創作術
公募スクール講師で、『魔天使マテリアル』の作者・藤咲先生に、一般文芸にも通じる人物造形のコツについて聞いた。
人物の性格を考える、弱点を作る
——藤咲先生は先にキャラクターを作るそうですね。
ストーリーはかっちり決まっていなくても、自分が書きたい人物はどういう人なのかというイメージはあるじゃないですか。なんとなくこんな話が書きたい、こんなキャラクターを作りたいというのは先にあります。
——漠然と方向性のようなものは決まっているわけですね。キャラクターや世界観の設定は、文字量としてはどれくらい書くのですか。
箇条書きに近いので、それほどの分量ではないと思いますが、設定ばかりやっていてもね。
——設定ばかりで書かないのでは本末転倒ですね。
私は設定病と呼んでいるのですが、舞台となる世界のお金の単位なんてあとで考えればいいんだよと思います。ファンタジーを書きたい方に見られる傾向です。
——人物造形で重要なのはやはり人物の性格ですか。
基本は性格ですね。読者が感情移入するところはそこですから。
——ポイントはありますか。
ウィークポイントは作っておいたほうがいいですね。人は弱点を見せられると惹きつけられますし、「その気持ち、わかるわかる」と物語に入っていけたりしますから。でも、弱いだけでは、それはそれで難しいところがあります。
——強さもないといけない?
そうですね。応援したくなるような強さですね。
——前向きということですか。
必ずしも最初から前向きということではないです。「ドラえもん」ののび太は基本的にヘタレじゃないですか。のび太がいないと話が回らず、でも、ドラえもんがいないと話が成立しない。のび太のドジがあるから、ドラえもんが活躍する。トホホな結果になることも多いけど、のび太はドラえもんのおかげで大切なことに気づいたり、頑張ろうと努力したりします。のび太の成長を見ているうちに、受け手側は自然と応援したくなるんです。
——お互いの存在があってこそ、キャラクターが立つんですね。
互いの個性がぶつかり合って、話が面白くなる〝おいしい関係〞を作ることができたら、かなりの強みになると思いますよ。
たとえば、テレビドラマ「相棒」を見ていると、いくつかの組み合わせがあります。特命係の右京と冠城、捜査一課の伊丹と芹沢など。これが時に入れ替わり、ふだんは右京を煙たがっている伊丹が右京に協力せざるを得なくなったりする。そうすると話が一段と面白くなるわけです。
巻き込まれ型だから、性格はおとなしめに
——藤咲先生が人物を設定するとき、気をつけていることは?
『魔天使マテリアル』の主人公、紗綾はおとなしめの女の子なんですね。でも、芯が強いんです。私、『魔天使マテリアル』を書くまでは明るく元気な女の子ばっかり書いていたので、小学生にウケるのかなあと心配だったのですが、すごい人気で。「私、こういう女の子になりたい」という手紙がいっぱい来るんです。
——その設定は、どんなふうに思いついたのですか。
編集部から「次は魔法ものをやりませんか」と言われたんですが、単純に魔法使いだと既存の作品によくある設定になってしまうので、「超能力バトルをやりたい」と言ったんです。それで、超能力を持った子たちが悪魔と戦うというシンプルな話にして、その主人公にすえるとしたらどういう子がいいんだろうと思ったとき、「悪魔と人間のハーフ」という設定を思いついたんです。その時点ですでにすごい運命を背負っているじゃないですか。でも、主人公は最初から自分の出生を知っているわけではなく、過酷な運命に巻き込まれる展開にしようと思ったんです。おとなしい子がだんだん強くなるパターンですね。よくある設定ですが、そこに私なりの味付けをほどこすのが腕の見せどころです。
——「芯が強い」という設定を加えたわけは?
おとなしいだけではだめで、芯が強くないと、まわりが協力してくれないんですよ。あんなに頑張っているんだからと、つい助けたくなるというか。
——脇役もバラエティーに富んでいますね。
博識な女の子がいて、食いしん坊で明るい男の子がいて、主人公を助ける双子の弟はクールで。
——双子なのに対照的ですね。
生いたちからしてクールにならざるを得ないところもあって、魔界で育ち、父親も信じられずに生きてきたので、自然と人とかかわれない性格になったんです。
こんな環境にいる人はどんな性格かと考える
——キャラクターを作るときは、特定の用紙がありますか。
デビュー前にシナリオ学校に通っていて、そのとき、先輩からキャラクターシートをもらったのですが、それをアレンジしたものがあります。
——キャラクターシートというのは履歴書のようなものですか。
市販の履歴書に書いてあるようなことも書きますが、人物の性格に関することが多いですね。
「優しい」とか「きつい」といった項目を何十種類も用意しておいて、それにマルしていく感じ。
——マルは何個ぐらいつきますか。
少なくとも5、6個はつきますね。ただ、人間は多面性がありますので、同じ「優しい」でも、気を許している相手にはこんな面を見せるとか、年下にはきついとか、年上は立てるとか、少しずつ違います。
——書き始めたあと、登場人物に設定と矛盾する行動をさせたいときはどうしたらいいですか。
その場合は最初の設定を変えればいい。人は成長するものだから、変わることに問題ありません。
——行きあたりばったりではだめですよね。いつもおとなしい人が、都合よく急に怒ったりして。
おとなしい人でも怒ることはあるわけで、こんなにおとなしい人が怒るなんて何があったんだろうと考え、それを読者が納得できるように書けばいいんです。でも、「この展開にしたいがためのセリフ」だと思われたらだめです。浮きますし、簡単に読者に見透かされます。
——環境から性格を考えることはありますか。
今、上杉謙信のお姉さんの綾姫の物語を書いているんですが、謙信は信心深く、父親は「越後の梟雄」と呼ばれ、二度も上司を殺した男です。そこから、このような家族の中で暮らした綾姫はどんなお姫様だったのかと考え、「弟が生まれたときからずっと、弟を支えていく人生でした」とイメージし、優しいけれど、いざというときは気の強さが垣間見えるという性格にしました。
——キャラクターは環境やストーリーと連動しているんですね。ありがとうございました。
キャラクター表現のヒント
性格は口調に出る
口調に性格が表れる。頭のいい子の話し方、やんちゃな子の話し方などパターンを踏襲し、セリフを読んだだけで誰が言ったのかわかるようにする。
名前の語感や印象も考慮しよう
明るい子ならアから始まる名前にしたり、紗綾はおとなしめの女の子なのでサ行の「サーヤ」になった。語感、名前の印象、字面もそれでいいか考えよう。
セリフだけ浮かないように
「俺は俺だ、それ以上でもそれ以下でもない」といういいセリフも、使いどころを間違うと陳腐なセリフになる。そのキャラクターならではのセリフを。
『魔天使マテリアル』キャラ分け
小学5年生の紗サーヤ綾と双子の弟、黎レイヤ夜が、悪魔が多く出現する神こうまちょう舞町を守るため、マテリアル(能力者)同士協力して悪魔を倒していく。既刊26巻のヒット小説。
日守紗綾
破魔のマテリアル。悪魔がいると首筋に刺すような痛みを覚える。父親は魔王。外見は母親そっくりだが、対照的におとなしい。が、芯の強さや頑固なところは似ている。趣味は編み物・裁縫。
日守黎夜
光のマテリアル。紗綾の双子の弟。無愛想。姉ラブ。身体能力が高く、女子に人気。光のマテリアルは攻守ともに最強クラス。黎夜は魔界にいたが、ある事情から単身人間界にやってきた。趣味は読書。
風見志穂
風のマテリアル。クール系美少女。頭がよく、身体能力も高い。料理は下手、編み物も苦手。趣味は知識を増やすこと。
稲城徹平
土のマテリアル。食いしん坊でやんちゃ。小学校卒業まで怪奇探偵団のリーダー。得意科目は体育、趣味は食べること。
灰神翔・翼
火のマテリアル(二人の力を合わせると炎のマテリアルに)。双子。たびたび新技を開発。趣味は翔が写真、翼がピアノ。
鳴神京一郎
雷のマテリアル。母親が病死、父親と折り合いが悪い。覚醒して日が浅く、自分の異能に怯える。趣味は星を眺めること。
夕夜
闇のマテリアル。紗綾と黎夜の2つ年上の兄。魔王に身体を滅ぼされ、魂だけの存在。いつも誰かを乗っ取っている。
藤咲あゆな
小説家(児童書、ノベライズ)。漫画原作、アニメ脚本も手掛ける。『魔天使マテリアル』、『戦国姫』、『天国の犬ものがたり』などシリーズ作品多数。
※本記事は2019年5月号に掲載した記事を再掲載したものです。