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山崎ナオコーラさんインタビュー「傑作が書けなくとも、こつこつ続ける行為に意味がある」

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山崎ナオコーラさんの小説の登場人物は、ステレオタイプではなく、実に個性的だ。新作のお話とともに、性別や年齢、性格が異なるキャラクターを書き分けるコツを聞いた。

いろんな人とかかわる中でその人の性格は浮かび上がる

——『趣味で腹いっぱい』は、仕事に生きる小太郎と趣味に生きる鞠子、対照的な夫婦の話ですが、この2人のモデルは?

強いていうなら自分。金が好きで、自立が好きで、働くのが好きな私は、断然小太郎っぽいんですよね。でも、大学で平安文学をやっていた鞠子も自分と重なるので、私の中から出てきているとは思います。

——登場人物の名前はどのように考えますか。

リズミカルに書いていけることのほか、鞠子が2文字ならもう一人は3文字にしたり、カタカナやひらがなを混ぜるなど、読みやすさを考えます。人物関係図なしに、さっと読めるようにしたいので。

——人物の見た目については?

外見はあまり考えないですね。小説のよさは言葉で引っ張っていくことだと思うので、ビジュアルに頼らず、テキストだけで完成させたい。私も小説を読むとき、言葉の面白さや文字面の美しさを楽しむので。ビジュアルが大事なら映画を撮ればいい。言葉だけで人間を作ることに挑戦したいです。

——人物の性格はどのように決まっていくのでしょう。

人間の性格って、明るかったり暗かったり、おしゃべりだったりおとなしかったり、時と場合によって変わっていく。こういう人だと最初から決めないほうが、より人間っぽく描けるんじゃないかと思っています。いろんな人とかかわり合うなかで、その人らしさが浮き立ってくるというか。ある関係性の中で魅力的な人も、別の人とかかわるシーンでは、嫌なやつに見えるかもしれません。

——確かに、多面性や意外性こそが人間の面白さですね。

私は大学で源氏物語を勉強し、卒論は「浮舟」でした。最後に登場するヒロインですが、噂話の中でぼんやりとした形だけでてきて、あまり性格が語られない。人間を描くとは、一人の人間がどういう性格かをきっちり書くというよりは、まわりの人たちによってどういう形ができあがっているかを示すことではないかと考えます。

——そう考えると、いろいろなタイプの人間が書けそうです。

自分と違う性別の人物を書くからといって、力む必要はないですよね。違う年齢の人物も、ターゲットを観察して自分と違う感じに書こうと思わずに、自分の引き出しから出したほうが、より人間っぽくなる気がします。人間関係も、夫婦ならでは、親子ならではの特色があると思われがちですが、実はそんなことはなく、どの人間関係も、だいたい同じなのではないかと私は思うんです。

他の分野に才能をとられるのは悔しいから皆、小説を書いて!

——鞠子は絵手紙や家庭菜園、小説の執筆など、貪欲に趣味に挑戦しますが、趣味は大切ですか。

私自身はずっと、自分で金を稼いで自立したいと思っていましたが、今の若い方の中には主婦志望の方もいると聞くし、金以外の価値がどんどん重要になってきて、「趣味を作っておかないと老後に大変なことになる」と言われていますよね。

——仕事一筋の生き方は、やめたほうがいい?

どうでしょう? 私も趣味はいろいろありますが、子どもが3歳なので、がっつり取り組めてはいません。

——散歩も趣味だとか?

子どもが生まれたり、お金がなくなったりして世界が狭くなる中、近場をうろうろして地元のご高齢の方々がやっているサークルの写真展などを覗いたりするようになったんですね。それがけっこう、面白くて。

——小説の世界とつながりますね。「鞠子はどうやら人生をかけて趣味を行うことを考え始めている」という一文が象徴的です。

過剰に趣味を求めるキャラクターを書こうと思っていました。私はお金を稼ぐのが好きですが、大学で平安文学をやっていたときから、仕事に結びつくことだけが学問じゃないということは、ずっと思っていたので。

——畑を貸してくれた金氏さんの家を訪ねるシーンは、玄関に貝殻で作った犬の置物があったり、見どころいっぱいで面白いです。

私もうまく書けたと思うシーンで、これでいい小説になると思いました。

——趣味を甘く見てはいけないという気迫が伝わってきます。

私の母は、父の死後、落ち込んでしまいましたが、趣味のおかげで元気になってきたと思います。趣味って余裕があるからやるのではなく、生きるよりどころとしてやるものなんだなと思ったんです。お金にならなくても必死で趣味をやっている人が世の中にはいっぱいいると思う。

——鞠子と小太郎は、すんなりと小説を書き始めますね。

小説はそれほど難しくないし、みんな、どんどん書いてほしいです。ユーチューブやゲームに才能を取られるのは悔しいから(笑)。

毎日こつこつやればいいそれが生きるということ

——山崎さんは、小太郎のように親の影響で「お金を稼ぐべき」と思うようになった?

うちの親は一切、私に意見を言わない人でした。女性らしくしなさいということもなかったし、進学、就職、結婚についても一切何も言われなかったです。

——小説家としてデビューされたときの反応は?

作家になりたいというのは何となくわかっていたと思いますが、ペンネームがナオコーラで、『人のセックスを笑うな』というタイトルだったから、もう、そこには触れてはいけないという感じでしたね(笑)。私は地味なキャラクターで普通の会社員だったので。

——ダイエットコーラが好きだからこのペンネームにしたとか?

コーラが好きだからとしか言いようがないからそう言っていますが、すごく後悔しています。

——新しすぎた?

新しすぎたというより、ヤバすぎました。本名だと地味すぎて、出版したときに手に取ってもらえないと思ったので、タイトルと著者名でフックを作ろうと思ったんです。

——デビューから 年になりますが、今後はどんな小説を書いていきたいですか?

鞠子みたいに、売れなくても本当に書きたいことを書いていかなくてはと思っています。社会派小説を書きたいという思いがありますが、小太郎が低い視点から『百円ショップの魔術師』という経済小説を書いたように、大きな社会ではなく、小さな社会をすくっていきたい。大作家にならなくても、いい仕事をしたいなと思います。

——小説家を目指す人に向けて、何かアドバイスはありますか。

自分に才能があるとかないとかいちいち考えずに、とにかく続けていくことが大切かなと。私も3度目の投稿でデビューしました。

数年前、死ぬ寸前の父親に、「私は賞ももらってないし、評価されていないけれど、金はあるから入院費払うね」って言ったら、「評価はいらない。こつこつやるだけでいい」と父が言いました。父は死ぬ直前まで、新聞に知らない言葉があったらノートに書き写すということをやっていて、死ぬこともわかっていて、何かに役立つわけでもないのにずっと続けている。意味がなくてもこつこつ文字を書き写すっていうのが生きるってことなのかなと。傑作が書けなくとも、こつこつ続ける行為に意味がある。

——けだし名言ですね。

山崎ナオコーラ流 小説作法

題材はどのようにして思いつくのですか。

題材は、ふだん、「これはなんだろう」とか、「これはどういうことだろう」と思ったり、悩んだりしたことがきっかけになり、書くと出てくるのだろうと思います。

プロットを固めてから書き出しますか。

固めません。今作は、「働いているほうに趣味の人がついていくのではなく、趣味の人に働いているほうがついていく話にする」ということだけ決めていました。

ナオコーラ以外のペンネームの案は?

「山崎ナオコーラ」にしたのは作者名でフックを作りたかったからですが、最初に投稿したときのペンネームは「山崎ロック」でした。ウィスキーの「山崎」(笑)。

山崎ナオコーラ
1978年福岡県生まれ。2004年『人のセックスを笑うな』で文藝賞を受賞しデビュー。後に映画化。2017年『美しい距離』で島清恋愛文学賞受賞。ほか『浮世でランチ』『文豪お墓まいり記』など著書多数。

※本記事は2019年5月号に掲載した記事を再掲載したものです。