【感覚では書けないと悩む人必見】物語の人物像を論理的に立てる! 脳科学的アプローチを徹底解剖


篠原菊紀教授に人物設定について聞く
脳科学的キャラクター造形
キャラクターの作り方、ストーリー展開のさせ方を、脳科学、性格心理学を応用して検証してみた。
性格心理学的に見た、人間の性格の因子
——脳科学から見た性格とは?
脳科学と遺伝学と心理学からの話になりますが、性格や行動特性について研究に用いられる標準的なものは2種類しかありません。1つはTCI、もう1つはNEO-PI。
——TCIとはなんでしょうか。
もともと生まれながらに持っている〈気質〉と、のちに後天的に作られる〈性格〉があります。

——〈気質〉から教えてください。
新奇探索傾向は、新しいものや刺激を求めたがる傾向。物語にも、やたらチャレンジャーで、旅に出たがったり冒険したがったりする人物がいますよね。
損害回避傾向は、リスクは背負いたくないとか、同じことを安定してやりたがるとか、ちょっと引っ込み思案な性格。
報酬依存傾向は、周りに認められたいとか、ちやほやされたいとか、承認欲求が強い性格。
固執傾向は、こだわりが強く、オタク性に近いような性格。
——この4つがキャラですか。
新奇探索傾向、損害回避傾向などを因子と言いますが、性格はこれらの因子の組み合わせでできている。とはいえ、読者にわかりやすくするためには、どこかを強くしたほうがいい。
実際、人気のある物語では、だいたい主人公はチャレンジャーだし、そこにリスクヘッジャーがくっついている。脇役に甘えっ子がいて、認められないとやってられないキャラがいる。かと思うと研究家みたいなこだわりが強くてやたら完成度を求めるキャラがいる。これが基礎になっている。
そのうえで、後天的に作られる〈性格〉がある。
自己志向性は、物事は環境のせいではなくて、自分にも責任の一端がある。自分が変わっていくことが大事なんだという傾向。
協調性は、自分一人で何かできるわけじゃなくて、やっぱり仲間と一緒に協調してやっていくことが必要だという考えです。
自己超越性は、神だとか自然だとか、人間にはどうしようもない超越的なものがあって、その前では無力なんだという感覚。
——ビッグ・ファイブもだいたい似たような感じでしょうか。
ビッグ・ファイブも2つに分けられ、神経質かどうか、外向的か内向的か、好奇心があるかどうかの組み合わせで性格の基礎を作り、展開の中で調和性と誠実性が育っていくというのが、非常にシンプルな成長モデルになります。
——まるでキャラクターのマニュアルのようですね。
TCIやビッグ・ファイブの因子は、どの国でも、どの地域でも、どの時代にも出てくる普遍的な話ですので、これをベースに自分の物語に足りないのはどういう性格か、足りないなら足りないで物語が展開していいんだけど、物語の展開の中でどういう性格が強調されていけばいいか、何を獲得していくのがいいか、分析してみるといいと思います。
感覚で書けない人は論理で補おう
——読者からすると、自分にない傾向に惹かれる?
2つあります。新奇探索傾向が足りない人は新奇探索傾向がある人物を見て憧れるという側面と、「チャレンジしようとするけど、つい引いてしまう」主人公に、自分と同じだなと思って共感する側面があります。
——新奇探索傾向のある主人公と損害回避傾向のある副主人公を配せば面白くなりそうです。
読者の性質が想定できれば、それに合った物語を作りますが、それはできないから、いろいろ用意しておくわけですね。
そして、ストーリー展開の中で、自己志向性がどういうふうに育っていくのか、もしくは崩壊していくのか、あるいは協調性がどう変われば面白くなるのかなどを確認してみるのもいいです。
うまく書けないのであれば、うまい小説を分析し、自分の小説でも同じように分析し、その違いを見つけ、じゃあどうしたよりよくなるんだろうというステップを踏んでいくと、もともと違いに気づけなかった、俗に言うセンスのない人たちのセンスが育つかもしれない。また、そこは案外、センスじゃないかもしれない。早く気づけばできたという話かもしれない。
センスのある小説家は人間観察なんかがしっかりしていて、学問的背景がなくてもTCIのようなものがなんとなく見えて、自己志向性が育っていけば人の心を惹くよねということが感覚で書ける。
感覚で書けない人は、論理的に分析するしかないわけですね。語学学習と似ていますね。
登場人物を絞り、性格を解釈させる
——小説でアニメ的なキャラクターを作るのは難しい気がします。
映像はアイコンがはっきりしているので、そこに性格を貼りつけて、いわゆるタイプ的な見方をする。絵面でキャラが分けられているので記憶しなくていい。
しかし、小説の場合、それぞれのキャラ立てをきちんとしても、6人も7人ものキャラクターを記憶しておくって無理ですよ。
——登場するたびにどんな性格か説明するわけにもいきません。
そうなると小説ではキャラクターを絞らないといけないという話になってきます。やたらと人物が登場したら記憶できなくなり、書き分けも困難になります。
——個性的なキャラクターはかなり誇張されていますよね。
ある人物の中に、新奇探索傾向だったら新奇探索傾向が突出しているというのは不自然なんです。虚構だからOKなんだけど、本当は1人の中に新奇探索性もあれば損害回避性もあり、葛藤しているというのが普通です。
これを忠実にやっているのは、アニメより小説です。特に私小説では心の中の変動をずっと書き続けている。では、なぜそれをやっているかというと、やはり顔が見えないからだと思います。
——キャラクターの人数についてはどうでしょうか。
まず、人の脳の短期的な記憶の容量は知っているほうがいいと思います。ワーキングメモリーと呼ばれているものがあって、われわれの脳は短期的に記憶するとき、ワーキングメモリーが扱えるチャンク(記憶のまとまり)は3つ、もしくは4つぐらいだと考えられています。
——けっこう少ないですね。
単純に言えば、われわれの脳は「あのこと、このこと、そのこと」ぐらいだったら同時並行処理できますが、それ以上になると、「その他」でくくってカッコにして展開するしかない。
そういう意味で言うと、物語を読ませながら、主要な登場人物としてイメージさせられるのは、せいぜい3人か4人。むしろ、2人ぐらいに絞ったほうがいい。
——確かに、小説の主要人物は2人が多いかもしれません。それでも、どんな性格なのか忘れてしまうこともあります。
人は出力依存性がないと記憶できない。文章で「この人は新奇探索傾向が強い」なんて書いても記憶に残らない。
——出力依存性とは?
論文をただ読んでも内容を記憶できないのに、その内容を人に話そうとか、問題として出そうと思って読むと記憶できる。解釈しようとすると覚えられるわけです。これを「出力依存的に読む」と言う。小説で言うと、何か出来事があって、それを通してこんな性格なんだろうと読者に解釈をさせる。そうすると覚えられるし、物語としても面白くなります。
脳科学的小説Q&A
なぜ小説が書ける?
言語野を持つから。言語野にはブローカ野、ウェルニッケ野、角回という中枢があり、これは人間しか持ってない。言葉で物語を紡げるのは人間だけ。
小説に必要な脳は?
角回を損傷すると比喩表現ができなくなり、裏の意味を読みとれなくなる。角回があるから、幻覚のようなものまで想像することができる。
小説家向きの脳は?
脳構造より、環境影響が大きい。体験を重ねると自分にとって適切な神経細胞の発火が出てきて、物語性の展開が見えてくるということはあり得る。
篠原菊紀
諏訪東京理科大学情報応用工学科教授。脳科学者。NHK「チコちゃんに叱られる」などテレビでもおなじみ。
※本記事は2019年5月号に掲載した記事を再掲載したものです。