【強引な設定にならないように要注意】『健康で文化的な最低限度の生活』の巻き込まれ展開とリアルな葛藤の描き方


エンタメは楽しんで観て、自分の創作に生かす!
ドラマ&原作から学ぼう!
あらゆるものが創作のお手本になるが、なかでも、映像の世界は優れたエンタメ作品が多い。今回はテレビドラマに絞り、その原作の設定、展開など、盗んで生かしたいエンタメの技法を紹介する。
「誰かのために汗をかくのも悪くない」と思わせてくれる
『健康で文化的な最低限度の生活』
放送 カンテレ・フジテレビ系
キャスト 吉岡里帆 井浦新 川栄李奈 山田裕貴 田中圭 遠藤憲一
原作 柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』(小学館)
STORY
義経えみるは、安定を求めて公務員になる。しかし、配属されたのは「生活課」。そこには生活保護現場の壮絶な現実がある。えみるの仕事は110世帯の生活保護受給者を担当し、ケースワーカーとして、歯車の狂ってしまった彼らの人生に寄り添い、向き合い、そして自立への道筋を見つけ出していくこと。しかし、「私は誰かの人生に影響を及ぼすような大それた人間じゃない」と、壁にぶつかり、喜び、悲しみ、時には怒り、そしていつしか、誰かの希望の光になっていく!
生活保護の問題を深く掘り下げた作品
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(日本国憲法第二十五条)
なんらかの事情で「健康で文化的な最低限度の生活」ができなくなった場合は生活保護が受けられるが、一部には不正受給をする人、健康にもかかわらず就労を拒む受給者、扶養を拒否する家族などさまざまな問題があり、それを解決しようと主人公は悩む。
生活保護のリアルな実態に切り込み、そこにひそむ奥深い問題点をさまざまな角度から描き出しているため、主人公と一緒に深く考えてしまう。
原作小説のここを盗め! その1
主人公は巻き込まれる! これが一番自然な始まり
過去の経験を行動の理由にしないこと
主人公の行動のきっかけとして、「ケースワーカーの人に恩があるから」のように過去の経験やトラウマを動機にすると、強引な設定のように思われかねない。
一番いいのは、いやおうなしに出来事や運命に巻き込まれてしまうこと。『健康で文化的な最低限度の生活』の場合も、公務員になって配属された先がたまたま生活課だったという、自分の意思ではないことが発端となっている。
しかし、その後は自発的にならざるを得ないことが起きるようにする。左記の場面は、受給者から「死にます」と電話があり、家にかけ直すと、家族は「いつものこと」と言う。周囲も「1コ1コ真剣にやってたら身がもたない」と言うのでそのままにするが、結果、受給者は自殺してしまい、こんなことをしていたら「何か大切なものを失う」と目が覚める前の場面。自然な導入部の1つ。
切実な話を書くなら
切実な物語を書く場合、それだけでは楽しめない。知られざる現実を世に知らせるのはいいが、希望がない話は読んでいてつらい。
今回紹介した『健康で文化的な最低限度の生活』にも、経済的に困窮した人や精神的に病んだ人が出てくるが、主人公はそうした人と向き合い、悩み、最後には明るい光を見出す。つらい話ほど主人公の成長物語である必要がある。
原作小説のここを盗め! その2
登場人物を悩ませろ! 徹底的に葛藤させろ!
どちらも真実というのが葛藤
「葛藤」とは葛と藤が絡み合ってもつれるという意味だが、単にもつれるだけでなく、どちらも選びようがない、どちらも真実というようにするのがコツ。
下記の場面は、えみるの同期、七条がやけ酒を飲んでいるところ。
岩佐という女性に就労を勧め、彼女はダブルワークで働き始める。その後、七条は岩佐の職場の前で岩佐を見かけるが、彼女は逃げてしまう。
結局、七条の熱心さが裏目に出て、つきまとっていると勘違いされ、精神科医には「就労を熱心に勧めたことが岩佐のプレシャーになった。配慮するように」と注意される。
正誤や善悪が設定され、どちらかを選ぶだけなら話は簡単だが、どちらも正解だと登場人物たちは迷うし、悩む。
それを読んでいる人は人物に感情移入するから、なりゆきが気になる。また、自分でも「正解はなんだろうか」と考えてしまう。
あなたが書く場合も登場人物を葛藤させよう。
※本記事は2018年8月号に掲載した記事を再掲載したものです。