【物語にリアリティを出そう】『この世界の片隅に』から読み解く! 細部の描写が物語のクオリティに与える効果


戦前の広島を舞台に、少女すずが明るく生き抜こうとする
『この世界の片隅に』
放送 TBS
キャスト 松本穂香 松坂桃李 村上虹郎 新井美羽 稲垣来泉 二階堂ふみ 尾野真千子 伊藤蘭 田口トモロヲ
原作 こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社)
STORY
昭和9年、広島市江波に住む浦野すずは人さらいに捕まってしまう。しかし、先に捕まっていた周作の機転で逃げ出すことに成功する。時は経ち昭和18年秋。すずを嫁に欲しい人が来ていると連絡が。自宅へと急ぐ道すがら、すずは海軍兵学校に進んだ幼なじみ・水原哲と出会う。哲が結婚相手だと思ったすずは混乱するが、その頃、浦野家では北條周作とその父がすずの帰宅を待っていた。周作は以前にすずを見初めたというが、すずにはまったく見覚えがなく……。
呉に嫁いだ日々と戦争の物語
こうの史代原作で、130万部を突破したベストセラー漫画がドラマ化。主役のすずを演じるのは松本穂香。
今、売れっ子で、auのCMでは神木隆之介と共演しているが、NHK朝の連続テレビ小説『ひよっこ』で青天目澄子役を演じた子と言ったほうがわかりやすいか。
舞台は戦前の呉。戦局が悪くなるなか、海軍文官の夫とともに明るく生き抜く少女の姿を描く。
TBSの「日曜劇場」と言えば、『陸王』『ブラックペアン』と立て続けに話題作を送り出している枠。今作も期待できる。
原作小説のここを盗め! その1
戦前の資料が豊富で、リアリティーがある
物語の背景をしっかり書く
戦前を舞台とした物語で、
〈昭和二十年、都心の国道を一台の軍用車が走っていった。〉
とだけ書き、あとは読む人の想像力に任せることも、小説であればできなくはない。
しかし、実際には細部は書かないとしても、物語を書く人の頭にはなんらかの具体的な映像が浮かんでいるもので、そうであればこそ雰囲気がにじみ出る。
細部を書くには、資料にあたる必要がある。
『この世界の片隅に』にも、戦前の暮らしがたくさん出てくる。また、玄米を3倍の水に一晩漬け、その後、普通に炊く楠公飯や、米をとがずに2倍の水で炊く国策炊きなども出てくる。
ストーリーには影響しなくても、こうしたディテールがリアリティーを支えている。
時代ものを書くなら
時代小説や異世界ものなど、現在とは違う舞台の小説を書く場合に不可欠なのが、その舞台が頭に浮かぶかどうか。
浮かぶ人は場面を絵にすることができる。一度、場面を絵にしてみよう。それが試金石となる。
原作小説のここを盗め! その2
シリアスからの笑い、そのギャップが面白い
シリアスから笑い、そしてまたシリアス
原作では、すずが海岸線をスケッチしていたことから、憲兵にスパイ行為だと言われる。
憲兵がすずの自宅まで来て、「この女の夫は軍法会議の下っぱ録事じゃげなの。情報を盗み見とる気配はないか」と怒られる場面。家族は驚きつつも、微妙な表情をしている。悲しんでいるのか、あきれているのか。
そのあとの場面。「笑うに笑えんし」「こらえたら余計可笑しうなるし」「こ、この人あ六時に帰るけえロクジじゃと思うとった人で! どんな機密をねらうんか…」と大笑いしている。
周作は録事(書記官)で、すずは六時に帰るから録事だと思っていた。それぐらいぼんやりしているすずにスパイなどと笑っている。
しかし、このあと、「みんなが笑うて暮らせりゃええのにねえ」とある。「シリアス↓笑い↓シリアス」という急変が効果的。
※本記事は2018年8月号に掲載した記事を再掲載したものです。