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ダメ応募作7つのパターン

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作文・エッセイ
作家デビュー

新人賞の裏側5選

   新人賞は「他の人には思いつかないような物語を書ける新人を発掘する」ことに主眼を置いて、選考が行われる。したがって、似たような設定の物語は、束にして落とされる。

  それは、何度となく繰り返し言って(書いて)いる新人賞応募のキーポイントなので、この連載を読んでいるアマチュアは「百も承知」のはずである。

  ところが、どうやら、それは「理解したつもり」のアマチュアが大多数で、誤解のほうが格段に多い。

  例によって「ダメ応募作」の典型を箇条書きにしていく。

①普通の学校が舞台

「受賞作なし」にするか、編集長が「それでは、営業的に困ります」と強硬に主張し、選考委員が折れて、「多少はマシ」な応募作に授賞して、選評を粉飾する。

  高校が舞台なら、スポーツの超エリート校とか、通信制高校、定時制高校、実業高校とか、選考委員が経験していないだろうと思われる学校でなければならない。防衛大学校、防衛医大なども良い。

②病院が舞台

  なぜか、看護師、介護士など、病院で働く人で(元職も含む)小説を書く人は意外に多い。そうすると、どうしても似通った物語になる。

  私が珍しいと思ったのは聖路加国際大を出た看護師で、海外青年協力隊に参加してアフリカや中南米で働いた経歴を持つアマチュアの原稿だった。

  日本が舞台だと、まず、ダメである。

③老人ホームが舞台

  これも②と同様の理由である。死を間近に控えた老人、痴呆老人など、おそらく誰が書いても大同小異の物語になる。

  ほぼ不可能で、そんなプロ作家の作品に出会ったことが、ほとんどない。

④精神障害系統の物語

  統合失調症、鬱病、認知症、アルツハイマーなど、精神障害系は、応募落選作に山ほどあって意外性がゼロ。一次選考の下読み選者が「また来た」で真面目に読まない。

  私も十数本を読んだが、途中で読む気を喪失するほどオリジナリティがない。どれもこれも、似たような物語にしか、ならない。

⑤クローン

  今は、さほどでなかったが、一時は、ミステリーの種明かしに「実は、誰それが、こういう人物のクローン」で、という手を使う作品が実に多かった。

  「まさか、クローンだ、などという安直な解決策じゃないだろうな?」と半信半疑で読んでいって、そのとおりにクローンが解決案になっていると、読まされた身としては「こんなヘボ作品を読まされて時間を無駄にした」と落胆も甚だしい。

⑥ドローン

  代わってミステリーのトリックに使われるようになったのがドローンである。

  「お? こんな奇抜なドローンの使い方があるのか」と驚かさせてくれれば良いのだが、誰でも思い付くレベルの使用法で、捻りが何もない。

  横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作『虹を待つ彼女』(逸木裕)ぐらい捻られていないと、予選突破は厳しい。

⑦新型コロナ・ウィルス

  コロナ・ウィルス騒動が勃発して以来、これを物語のテーマ、あるいは時代背景にして書いてくる作品も、実に多い。

  これまた「またぞろ、似たような話が来た」で容赦なく落とされる。

  コロナ・ウィルスを取り上げた新人賞受賞作には日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作の『馬疫』(茜灯里)がある。

  コロナ・ウィルスが大騒動となりはじめたのが2020年の3月中旬。日本ミステリー文学大賞新人賞の締切は、5月のゴールデン・ウィーク明け。

  これが、どれだけタイトな執筆スケジュールかは、容易に想像がつくだろう。しかもコロナ・ウィルスを、真っ向から取り上げるのではなく、「馬の新型ウィルス」と捻りを加えている。

  その後に書かれた応募落選作は全て、何の捻りもなくコロナ・ウィルス騒動を取り上げた同工異曲の物語ばかり。

  ここまで書けば、どういう作品を書けば良いのかは、賢明な読者なら、わかるはず。

プロフィール

若桜木虔(わかさき・けん) 昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センターで小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

 

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