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第7回「小説でもどうぞ」作品講評

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作文・エッセイ
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小説でもどうぞ
 今回の課題は「写真」。いろんな「写真」が送られてきました。そこには、どんな風景が映っていたのか。それでは、どうぞ。

 齊藤想さんの「味のある写真」は、ある有名写真家の弟子である「私」のお話。師匠であるその写真家は「味のある写真」を撮ることで有名。師匠が撮った写真は、舐めるとほんとに味がするんです! ええっ? まあ、いいでしょう。そういうことってあるのだから。でも、「私」は、いくら写真を撮っても、なかなか味がしない。やがて艱難辛苦の果て、やっと「酸味」の味がする写真が撮れた。思いきって、その写真を師匠に見てもらうと、師匠は、こういうのだ……って、最後はちょっとダジャレっぽいんです。わかりますよね、なんとなく。

 高橋徹さんの「キャパの遺言」は、とある写真店を、少女が訪れるところから始まる。その少女は「店主」にフィルムを渡し、それは預かったもので、写真が写っていて、この店に来ればなんとかしてもらえるらしいと聞いたのだと告げる。実は、そのフィルムは、半年前事故にあった旅客用宇宙船に乗っていた少女が、我が身を犠牲にして脱出用ポッドに乗せてくれた男から最後に預かったものだった。それは男が戦場写真家キャパが持っていたのと同じカメラで撮影した、最後の写真だったのだ。最後のオチは泣けました。

 猪又琉司さんの「ハイエナ」。なぜ「ハイエナ」なのか。主人公の「オレ」は、「遺品整理屋」だったが、死人が遺した「金目のもの」を漁ることを本業としていたからだ。 そんな、ある日、遺品整理の最中に、一枚の写真を見つけて、「オレ」は驚く。その写真には「小学生の頃、運動会で走っているオレ」が写っていたからだ。ショックを受けた「オレ」が部屋を探し回ると、望遠で撮った無数の「オレ」の写真が出てくるのである。そこは、「オレ」を産んですぐに家を出た母の家だったのだ。これも泣けたなあ。

 小玉朝子さんの「サルベージ」は、一回読んだ後、もう一度、読み返した。「私」は「復興を遂げた故郷」に戻って来るけれど、「その町並みは、すっかり変わって」いる。不意に写真を撮りたくなった「私」は、大事なカメラを置いてきたことに気づく。そして、「約束の場所」に行くと、「写真部の仲間」だった「植田くん」が待っているのである。
 それから「私」と「植田くん」の、なんだか淋しい会話が続く。そして、「私」の正体が明かされるのである。読んでいると、なんとも言えない不思議な気持ちになってくる。

 七積ナツミさんの「自分撮り」は、「私」が集中治療室の「おじい」のところに駆けつけるところから始まる。でもすぐに、「おじい」は「私」の前で亡くなってしまうのだ。そして、「私」は、亡くなったばかりの「おじい」の横に並んで、いつものように「自撮り」をする。それは、「私」と「おじい」の大切な儀式だったんだ。すると、どうだろう。驚くようなことが……。もしかしたら、写真には、ぼくたちが知らない力があるのかも。そう思わせてくれる作品だった。

 そして、ここから先の3本は、どれも甲乙つけがたい作品で、選ぶのが大変。
 朝田優子さんの「離婚写真」は、なんだか不穏な感じで始まる。だって、夫がいきなり「離婚したい」と言い出すのだ。しかも、理由を訊ねても教えてくれない。理由を知りたくて、夫の部屋を探して、結婚式のアルバムを見つける。写真といえばそのときのものくらいしかない。夫は「根っからの写真嫌い」だったからだ。考えた末、「私」は離婚を承諾する。すると、夫は「最後に記念写真でも撮ろう」というのである。そして、撮影した写真には夫が写っていなかった。理由は……。なんだか、すごく泣けるんだよね。

 木沢俊二さんの「パラレル写真」。これはもうものすごくうまくできた短編だ。「この写真の中に入れば、もう一つの世界に行ける」写真を「俺」は手に入れる。そりゃもう、嬉しいに決まってる。そして、「一部上場企業で安定した暮らしを送っていた俺」は、スリルを求めて、写真の中のもう一つの世界に入りこみ、万引きした包丁で、男をメッタ刺しにする。そして、元の世界に戻ろうとすると……。いや、怖いです。ブラックです。ぼくは、最近亡くなられた、藤子不二雄Ⓐさんの『笑ゥせぇるすまん』を思い出しました。

 でも、今回の最優秀作品は、猫壁バリさんの「同窓会フリマ」。久しぶりに同窓会に出席することになった「僕」。ただの同窓会ではなく、同級生で集まってフリーマーケットをするというではないか。そこに、高校時代、憧れていた「宮地さん」が出現。「宮地さん」は、なんと、「僕」がフリマで売った本の中から、宮地さんと「僕」が映った写真を発見していたのである。照れる「僕」。すると、どうだ、彼女が「連絡先交換しない?」のお誘い。やったあ! けれども、この後、衝撃の展開が。いや、そんな結末はまったく予想もしませんでした。