創作キット福袋⑤作詞


作詞
いきなり机に向かっても歌詞は書けない。今回は作詞の初心者を想定し、手順に従っていけば歌詞が書ける創作キットを作成した。
概要を固める
概要を固めることでイメージがわく
プロが作詞をする場合は、詞作に入る前に概要を固める。アマチュアの場合はそこまでしない人が多いが、プロに学ぶために、もりちよこさんにその実際を伺った。
「近作『君の声を抱きしめる』では、前面には出していませんが、コロナ禍にある人を慰めるというテーマがありました。想定歌手は山内惠介さんで、ターゲットは山内さんのファン層の40〜80代の女性です。ジャンルは歌謡曲です」
概要を固めることでイメージがわき、曲の方向も定まってくる。
思いが伝わる歌詞を作ろう!
テーマ
具体的な題材でもいいが、まだそこまで思いつかない人は、「どんな歌にしたいか」という広い意味のテーマでもよい。
想定歌手
アマチュアの場合は想定しても実現するわけではないが、具体的な歌手を想定することでイメージや場面がわいてくる。
ターゲット
アマチュアの場合はファン層ではなく、「どんな人に聴いてほしいか」という観点で想定する。ざっくりとでもよい。
曲調
曲調を決める。これにより歌詞が変わってくる。童謡ならわかりやすく文字量も少ないが、ラップなら言葉を詰め込む。
各ジャンルの歌詞を読んで感じをつかむ
実際に歌詞を書き出す前に、世の中にある歌詞がどんな感じなのか皮膚感覚で実感しておこう。
まず長さは、童謡であればごく短い。大人の歌はもっと長く、若い人の歌はかなり文字量が多い。
もりちよこさんによると……。「子どもは集中力がないので、2分程度の歌が多いです。大人の歌は4分〜4分半くらい。演歌は6行詞で、3番構成になります」
アマチュアが作詞する場合も各ジャンルの曲の歌詞を読んでみて、感じをつかんでおこう。
気になる言葉やフレーズ集を作ろう!
作詞をしようと思うなら、まずは手帳かスマホを用意して、「私のフレーズ集」というタイトルをつけ、日常の中に落ちている言葉や、気になった言葉、面白い言葉などをメモしよう。並んだ言葉の中に曲のキーフレーズを見つけたり、言葉をつなげて1曲の歌詞が完成することもある。こうした日々の積み重ねから、いい歌詞が生まれる。
題材を決める
妄想でストーリーや場面をイメージする
題材はどのように決めていくか、もりちよこさんに聞いた。
「失恋したときのことを書こうというように決めて書き出すこともありますが、題材が決まらないときはテーマから連想する言葉を書き出したり、テーマについて調べたりします。『君の声を抱きしめる』のときも、〈コロナ禍で会えない〉→〈遠距離恋愛〉のように連想していきました」
あとは、そこにある人間模様やストーリーを妄想し、具体的に場面をイメージしていく。
題材が決まっている人
頭の中にある場面を書いてみよう
まずはストーリー(「いつ、どこで、誰が」などの5W1H)を書き出し、その中から歌詞にする1場面を考えよう。
題材が決まってない人
テーマから連想してみよう
テーマから連想して言葉を書き出し、そこからストーリーを探す。スマホで「テーマ 恋愛」などで検索してみるのも手。
歌詞を書く
歌いやすいように作曲しやすいように
歌詞を書くとき、心がけることは? もりちよこさんは言う。
「歌いやすいように息継ぎをするところを意識し、同じメロディーの箇所は字脚(下記参照)をそろえ、言葉の切れ目もなるべく合わせるようにします」
また、リズムがいいとメロディーもつきやすくなる。
「私の歌詞はメロディーがつきやすいと言われます。即興で適当なメロディーを口ずさみながら詞を書くのですが、こうするとリズムがよくなるのかもしれません」
知っておこう! 作詞の基礎知識
詞先と曲先
詞を書いてから曲を付けるのを詞先、曲を作ってから詞をはめるのを曲先と言う。童謡、演歌は詞先が多く、それ以外は曲先が多い。
字脚
音数のこと。1番と2番以降の同じメロディーの箇所は音数をそろえる。原則1字1音だが、「ちゅ」 「パン」などは1音で数えてもいい。
リズムと強調のテクニック
「歌いやすくなる」「メロディーがつきやすくなる」4つのテクニックを紹介。
韻
頭韻は「君の声、霧の中」のように頭の音をそろえたもの。脚きゃく韻いんは「ヘブン、オーブン」のように終わりの音をそろえたもの。韻を踏むとリズムがよくなる。
倒置
普通の語順を変え、一部を前にする。「君の声が好きだ」というフレーズであれば、「声が好きだ、君の」のようにする。前に持ってきた語が強調される。
比喩
たとえること。「君の声を抱きしめる」も、「離れた場所にいる君を抱くかわりに声を聞く」を縮めた一種の比喩。比喩を使うと意味を凝縮できる。
リフレイン
くり返すこと。「来たよ、来た、来た、春が来た」「好きだ、好きだ、好きだ、君が」など、くり返すことでその部分が強調され、リズミカルになる。
歌詞にしてみよう!
歌詞の素案をもとに、適当なメロディーを口ずさみながら歌詞を整えよう。
Cサビを書こう
あなたが一番伝えたいことを短く書こう。CサビはAメロ、Bメロのあとにくる聴かせどころだが、先に書いてしまおう。
Aメロを書こう
Aメロは起、A´メロは承。ここでどんな曲かわからせる。「君の声を抱きしめる」だと「遠距離恋愛の曲」だとわかる。
Bメロを書こう
Bメロは起承転結で言えば転。劇的に展開し、歌い上げるところ。Aメロの場面を引き継ぎつつ、Cサビへとつなげる。
歌詞の構成
歌謡曲は、「1番、2番、Cサビのくり返し」が基本形。現代人は忙しく、聴かせどころのCサビを最初に持ってくるパターンも多い。演歌は6行詞の3番構成。
歌詞の推敲
もっといい言い方はないか、短く効果的な言葉はないか、響きやリズムがよくなる言葉に変えれられないかなど精査していく。字脚はそろっているかも確認する。
【作詞の先生】
もりちよこ
コピーライターから作詞家に。「おまめ戦隊ビビンビ~ン」(NHKおかあさんといっしょ) 、ケロロ軍曹等アニメ主題歌、堀内孝雄、平原綾香、ハロプロ等J-POP・歌謡曲、実写映画「アラジン」訳詞等、幅広い。インスニに韓国語詞も。近作は山内惠介「君の声を抱きしめる」、川野夏美「勿忘草」。NHKワンパコで「オハヨッシャ!」放送中。公式サイト www.morichiyo.com
※本記事は2021年2月号に掲載した記事を再掲載したものです。