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『黒魔女さんが通る!!』石崎洋司先生に聞く!児童文庫で「読まれる小説」の書き方

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児童文庫小説賞攻略法 PART2 子ども向けに書く技術

子ども向けにわかりやすく書くのは、簡単そうに見えて実は難しい。その勘所を、『黒魔女さんが通る!!』が大人気の石崎洋司先生に伺った。

ミステリーと恋愛ものが柱

——児童文庫でもミステリーは男女問わず人気のようですね。

ミステリーは謎を仕掛けますので、物語として引きがあります。次のページをめくりたくなる効果があります。

——ミステリー以外だと、男の子は冒険ものも好きそうですが、女の子は圧倒的に恋愛ものですね。

前に聞いた話では、読者層は女子が8、男子が2だそうです。するとどうしても恋愛ものが多くなります。とくに後発のレーベルでは少女漫画の恋愛ものを読みやすく小説にしたものがヒットしましたので、今は各社ともミステリーと恋愛は大きな柱となっています。

——後発のレーベルはライトノベルが強い版元ですが、小説賞を創設する前は自社で抱えているライトノベル作家に書かせたりしたのでしょうか。

そういう例もありますね。ただ、あくまで私見ですが、宮下恵茉さん、秋木真さん、緑川聖司さんなど、児童書での経験豊富な作家さんのほうが安定した実力を発揮しているように思えますし、お手本になるでしょう。

——児童文庫とライトノベルは大人から見ると似ていますが、違うんですね。

児童文庫って、やはり独特なんですよ。外から見ると「どこが違うの?」と思えるようですが、書き手からすると完全に違います。

——どのへんが違うのでしょう?

一つ具体的に言うと、描写の方向性が違います。児童文庫では、ライトノベルや一般文芸のように行間を読むということをさせません。また、人気のジャンルにしても、児童文庫ではハイファンタジーのような異世界ものはほとんどありません。

子ども向けで、エンタメである

——なるほど、児童文庫ならではの特徴ってあるんですね。

児童文庫は「読書の入り口」。長々とした描写やかたい言葉で、読書初心者の子どもを「本ってつまらないんだ」と思わせてはなりません。やわらかく短い言葉で目の前に絵が浮かぶように書くのが大前提。このあたりがライトノベルや一般文芸との違いでもあり、初めて書く人が失敗する点でもありますよね。

——子ども向けという意味では、児童文学を書いている人は児童文庫向きですか。

児童文学も児童文庫も子ども向けに書く技術という意味では同じですが、中身は違います。

——中身と言いますと?

以前、選考に携わっていた児童文庫小説賞で最終選考に残ったある作品は、テクニック的には児童文庫として通用するレベルでした。ですが、中身がいかにも児童文学然としていました。

——内容が硬かった?

一言で言えば、エンタメ性に欠けるということです。謎解きがあるわけでもなし、ギャグでもなし、恋愛の要素があるわけでもなし、キャラクターも地味でした。児童文庫は子ども向けに書く技術があるかどうかと、エンタメのネタが思いつけるかどうか、この二つがそろわないとだめなんですね。

——子ども向けに書く技術というのは、具体的には?

先ほど言ったように、まず絵が浮かぶように書くこと。それからキャラクターを立てること。短く書けることも大事で、そんなに行数を使わず、情景描写も心理描写もできるということ。

——センテンスも短いほうがいいですよね。

そうです。ページを開いたとき、文字のない白い部分を作る。このパラパラ感が大事なんです。

——下半分が真っ白になっているページもあったりしますよね。

ぼく自身も、本になったときの字詰めと行数を聞いて、その設定にして原稿を書いています。

自分と子どもの興味がシンクロ

——児童文庫は、一人称小説が多い気がします。

一人称小説ばかりではないですが、読者に共感してもらわなければいけないという度合いは大人の小説よりは強いので、そういう意味では一人称は適しています。

ただ、一人称は主人公の視界にあるものしか書けませんので、情景描写やキャラの説明などが意外と難しい。そこは考えどころ。

——どの人称にするかは、物語の大きさによりますね。読者が子どもということで、ほかに気をつけるところは?

子どもは我慢しないということ。青い鳥文庫は1行が40字で、1ページ14行。タイトルが4行取りなので、最初の見開きで本文24行になります。この24行で、この話はどんな内容で、どんなキャラが出てきてということを伝えながら、読者を引き込み、すべての魅力を伝えなければならない。だから、冒頭はすごく気を使います。読みやすく書いてあるので簡単そうですが、そういうものほど難しいという典型です。

——児童文庫で人気作となるためには何が必要ですか。

やはり、キャラクターの魅力が圧倒的に大きいです。

——石崎先生の場合、キャラクターはどう作りますか。

二つの方向性があると思います。一つは共感。「自分と似ている」と思わせるとか、「こういう子、いるいる」と思わせる。

もう一つは、「日常ではここまでやらないよね」というような突飛なキャラクター。その両方を兼ね備えているか、あるいは、主人公が突飛なキャラクターであれば、サブキャラは共感を得やすい人物にするとか、その逆とか。

——石崎先生は今の子どもについてリサーチしますか。

正直言って、ぼくはしないですね。それより自分が面白いと思えるかどうか。それが子どもの興味とシンクロしたときに売れるのだと思います。

——児童文庫の作家として成功するカギはなんでしょうか。

子どもだからこれくらいで喜ぶだろうという気持ちで書くと絶対痛い目に遭います。そうではなく、言葉もたくさんは知らない子どもに言葉だけで世界を提示し、引き込まれるキャラクターとストーリーを用意するということにどれくらい真剣に取り組めるかではないですかね。

子ども向けに書く三つの技術

目に見えるように、絵が浮かぶように書く

抽象的な表現は避け、情景が浮かぶように書く。頑張らなくてもぱっと絵が浮かぶように書く。それには作者自身、頭に絵を浮かべて書くことが必須。

やわらかい表現で、短く簡潔に書くこと

大人向けなら漢語で「制作」と書くところも、和語で「作る」と書くなどわかりやすさを優先する。文章はシンプルにし、説明も端的に短くまとめる。

人物のキャラクターが立っていること

欠点を持たせながら、読者にはない能力を持たせる。性格や嗜好は単に「電車が好き」ではなく、「好きすぎる」のように強調するとキャラクターが立つ。

 

石崎洋司さん
慶應義塾大学卒。ベストセラー『黒魔女さんが通る!! 』などの児童文庫の小説のほか、YAも多数執筆。福島正実記念SF童話賞選考委員。

※本記事は2021年4月号に掲載した記事を再掲載したものです。