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『作家になりたい!』の小林深雪先生が語る! 児童文庫を書くコツと創作の極意

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作家を目指す未央と一緒にあなたも書こう!

青い鳥文庫『泣いちゃいそうだよ』シリーズは累計140万部の大ヒット作。同作の作者で、現在、『作家になりたい!』シリーズを刊行中の小林深雪さんに、児童文庫の作家になる秘訣を聞いた!

今の時代の感覚に合うようにアップデート

——『作家になりたい!』を書いたきっかけはなんでしょうか。

青い鳥文庫のアンケートで「なりたい職業」の第1位が「青い鳥文庫の作家になりたい」だったんです。それで、中学生の主人公、宮永未央が新人賞を目指し、小説の書き方や心構えを学んでいくというストーリーにしました。

——小学生ですでに小説を書いている子もいるんですね。

多いですね。公式サイトの質問でも、「固有名詞は使ってもいいですか」「カギカッコと二重カギカッコはどう使い分けますか」など、大人顔負けの質問が来ます。

——青い鳥文庫小説賞にも「U-15部門」があり、書きたい子どもの受け皿になっていますね。

昨年は中学生がデビューしましたし、応募も多いですね。でも、プロにならなくても、小説を書くという体験は有意義だと思います。小説を書くときは人の心を想像しますよね。そうすると想像力が養えますし、人に対する思いやりが生まれると思います。

——デビューされた講談社X文庫ティーンズハートは青い鳥文庫より読者の年齢層が上ですが、書き方について差を感じたことは?

書き方は基本的には同じですが、児童文庫は編集さんのチェックが厳しいかもしれません。「子どもたちだけでカフェに入るのはいかがなものだろうか」とか。やはり、大人が読んでも安心できるようにする配慮が必要になってきます。

——児童文庫ならではですね。

ただ、そうしたことも時代とともに変わってきます。15年前はだめでも今は問題ないとか。今の時代の感覚に合うようアップデートしていかなければいけません。

——性差別やジェンダーの問題など、昔はよかったけど今はだめとか、その逆とかありますよね。

たとえば「男のくせに」は今は配慮が必要ですね。「お母さんは料理を作って」という設定もなるべく平等にします。

——児童文庫は恋愛ものが多いですが、ラブシーンはOK?

キスシーンまではぎりぎりOKの文庫もありますが、それもリアルな生々しいものではなく、憧れの恋愛ですね。

——一方で、今の小学生は現実も知っています。

もっと過激なものを読みたい子は別のレーベルの小説などを読むでしょうね。児童文庫には子どもたちが安心して読めるという独特の世界観があり、読む子もそれを求めているのだと思います。

——児童文庫のカバーイラストはかわいくて、いわゆる名作の児童書とは雰囲気が違いますね。
 
15年前に比べるとかなり変わりました。私は『泣いちゃいそうだよ』のときから牧村久実さんに絵を描いてもらっていますが、青い鳥文庫から最初に出したときは、もっと児童画風の絵のほうがいいんじゃないかと言われましたから。

——児童画もいいですが、子どもにはちょっと古くさいかも。

児童文庫の世界も子どもの好みも日々変わっていますし、変わるのは仕方ないのかなと思います。

児童文庫の枠組みに入っていて、今はない作品を

——ファンレターはたくさん来ると思いますが、どれくらい来るものなんですか。

ティーンズハート時代は感想が書かれた手紙が毎月3000通ぐらい来ていました。

——3000通? すごい!

今はメールでも感想を送れるようになっていますが、それでも読者カードは何百通も来ます。

——冒頭で公式サイトの話がでてきましたが、そこにはどんなお悩みが書かれているのですか。

やはり、多いのは「何を書いたらいいのかわからない」ですね。

——それはどうしたら?

自分の体験を書くことです。実体験が一番書きやすいし、気持ちも込めやすいですから。

——ほかにはどんなお悩みが寄せられますか。

やはり、「最後まで書けない」という質問が多いですね。書けない原因は、大傑作を書こうとして、自分のハードルを高くしてしまっているから。8割ぐらいの出来でいいので、最後まで書いて、終わらせる力を養ってほしいです。

——書きかけの作品では応募できませんしね。

完成度は高いに越したことはないのですが、受賞後に改稿しますし、応募段階では選考委員もそこまでは期待していません。それより伸びしろを見ますよね。

——伸びしろと言うと?

テーマが新しいとか、きらりと光る一文があるとか。下手でも、これだけは言いたいという思いが伝わってくるとか。

——もちろん、「これだけは言いたい」が悪いほうに作用して、変に理屈っぽいのもだめですよね。

青い鳥文庫小説賞なら、青い鳥文庫で出版できる小説であることが前提ですので、大人向けの作品や、子どもが楽しめない作品では受賞できません。いい意味で、青い鳥文庫の枠組みに入っている作品でないとだめですね。

——青い鳥文庫の枠組みに入っていて、なおかつ、既存の作品にないものがいいわけですね。

将棋を題材とした漫画がヒットしましたが、漫画の世界でも「絶対に当たらない」と言われた分野が当たったりします。そういうものを探せて、熱く語れるだけの経験と熱量がある題材だといいですね。ただ、書きたい熱意も大切ですが、子どもの本では、伝える工夫も大切です。

どうしたら楽しんでくれるかという愛が必要

——書き方で、これはだめと実感されていることはありますか。

昨年まで講談社児童文学新人賞の選考委員をしていましたが、前置きが長いのはだめですね。朝起きて、学校に行って、「昨日、すてきなことがあったの」だったら、すてきなことを頭に持ってこないと。子どもって3行読んで面白くなかったら読みませんから。

——つかみが大事?

だから最初の1章が大事だし、1ページ目が大事だし、1行目が大事。小説を読みなれていない子どもの身になって書くことですね。余分なことを削り、簡潔に書く。1行目は、それこそ電報を打つように。

——なるほど、電報ですか。

文豪の作品の書き出しって、だいたい簡潔ですよ。〈吾輩は猫である。〉〈山椒魚は悲しんだ。〉〈メロスは激怒した。〉

——簡潔だからこそ「なぜ激怒したの?」という引きになります。

「それでどうなったの?」と思わせないと読者を引っ張れません。漫画ではよくありますが、見開きのページの最後に続きが気になるシーンを入れる。〈このあと、あんなすごいことになるなんて、このときは思っていなかった。〉など、ページをめくりたくなる一文を入れるんですね。

——引きを入れるのも、子どもの読者への配慮ですね。

実際に小学生の読者に会って話を聞くと、まだ童話や絵本を読んでいる子どももいます。だから、読みやすいように、わかりやすいように書きます。

ただ、子どもだましにだけはしないようにしています。「子どもならこれくらいでいいだろう」ではなく、どうしたら子どもが楽しんでくれるかという愛が必要です。

——配慮の根本は愛なんですね。

それと謙虚さです。私は最初に出版した2冊が全く売れなかった苦い経験があり、「私の本なんか誰も読みたがらない。誰も興味がないんだ」と思いながら書いているんです。そうした気持ちがあれば、「では、どうしたら読んでもらえるだろう」という工夫が生まれますし、愛情の交換もできます。上からの目線で子どもを啓蒙してやろうと思ってもできません。

——これからどんな小説の誕生に期待しますか。

昨年からコロナ禍にあり、世の中の気分がガラッと変わりました。コロナを直接書かなくていいですが、コロナ禍の気分というか、そこで感じた違和感や、大事にするものが変わったということを子どもたちも読みたいと思いますし、私も書きたいと思っています。

——これから書こうという人に、最後にメッセージを。

人生に一度ぐらい、小説を書いてみるのもいいと思います。書くことは単純に楽しいですし。『作家になりたい!』で擬人法を扱った回があったのですが、そのときのファンレターに、「『風がささやく』と表現すればいいんだと思い、この本を読んで人生がカラフルになりました」と書いてあったことがありました。何かを発見できる小説と出会えることは子どもたちにとってもいいですし、自分も創作の楽しさが実感できると思います。

 

小林深雪
埼玉県生まれ。武蔵野美術大学卒。青い鳥文庫『泣いちゃいそうだよ』『作家になりたい!』シリーズ、エッセイ集『児童文学キッチン』、最新刊『おはなしSDGs つくる責任 つかう責任/未来を変えるレストラン』など著書多数。

※本記事は2021年4月号に掲載した記事を再掲載したものです。