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公募Q&A「著作権」 小説で歌詞の一部を引用するのは著作権侵害? ワンフレーズならOK?

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公募Q&A

小説の登場人物に既存の歌を歌わせるのは著作権侵害でしょうか。

ワンフレーズなら問題ありません。

著作権者の許諾なしに著作物を使える場合

著作物の定義についてはすでに何度か本コーナーの中で説明していますが、改めて記しますと、以下のようになります。

著作物とは「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)。

歌詞も著作物です。著作物であれば無断で使うことはできません。
しかし、条件次第では使うこともできます。

【1.著作権が切れている場合】
著作権の保護期間は作者の死後70年です。作者が亡くなって70年以上経っている歌詞であれば、断りなく使えます(著作者人格権を侵害しない使い方であることが前提です)。

【2.引用の場合】
引用は著作権法で認められた権利で、著作権者に断りなく使えます。
ただし、引用と認められるためには、「明瞭区別性」「出典明記」「作品が主で引用が従」「引用する必然性がある」などの条件を満たしている必要があります。

【3.プライベートユース】
他人の著作物を使っても、その作品を公表しないのであれば問題ありません。応募中の作品も同様です。
ただし、受賞して発表する場合は、歌詞の使い方によっては問題になり得ますので、JASRACに申請するなど状況に応じた適切な処理が必要です。

フィクションの場合、引用は不自然

引用ならいいと書きましたが、論文の中で歌詞を引用し、「この歌詞からもわかるように、当時はこれが普遍的な考え方だった」のように使うのはなんの問題もありません。
しかし、小説の中で引用するのはどうでしょうか。

小説の中に歌詞があり、そこに、
(ザ・ビートルズ「ノルウェーの森」、「ラバー・ソウル」所収)
とかあったら違和感がありますし、なんだか冷めますね。

小説を読むときは作品世界にトリップしているもので、そこに引用という現実的なものがあると、思わず我に返ってしまいそうです。

それ以前に、引用は自分の論を説明するために、他人の文章や事例を引いてくる行為を言い、報道や批評、研究では用いますが、フィクションは別に持論を示すようなものではありませんから、必然性があるとは言えないでしょう。

作品の背景となる世相を説明するために、当時の流行歌を引用するということもないではないですが、そもそも架空の設定なのですから現実にあった曲である必要もなく、実際にあったふうの曲を作ってしまえば済みます。
小説の場合は、歌詞の引用という概念はないと思ってください。

ありふれた歌詞、ごく短い歌詞は著作権保護の対象外

では、小説の中で歌詞を使うことはできないのでしょうか。
今、問題となっているのは他人の著作物を使うことですが、著作物でなければ問題ありません。
既存の歌詞の一節でも、ありふれた表現は著作権保護の対象にはなりません。

たとえば、小説の主人公に、
「歌の歌詞じゃないけど、確かなことは『君は綺麗だ』ということだ」
と言わせても問題ありません。

元歌を知っている人は、「あの歌か」とわかるでしょうけれど、「君は綺麗だ」なんて誰でも言いそうなセリフですし、こんなことでいちいち著作権者の許諾を得なければならないなら文化は衰退してしまいますから、著作権の趣旨に照らし合わせても許容されるべきです。
また、凝った言い方だとしても、ごく短い歌詞ならば問題ないとされています。

なお、タイトルは著作物ではありません。設定や世界観も個人が独占できる権利ではありません。
歌詞そのものを使わないなら、これらを生かして小説を書いても問題ありません。

ワンフレーズなら問題にはならない

ただ、「極めて短い」「ありふれている」という条件には明確な線引きがあるわけではありませんので、何文字まではOKといったことは言えないのが難ですね。
そこで、ちょっと実例を探してみました。

村上春樹に「イエスタデイ」という小説がありますが、雑誌に掲載したときは、ビートルズの「イエスタデイ」の歌詞を翻訳し、関西弁で16行書いています。
これには著作権者からクレームがあったようで、その後、単行本にする際に3行にしています。
3行だからいいということではありませんが、ワンフレーズなら問題にはならないという実例です。

吉本ばななの『キッチン』にも、菊池桃子「Futari No Night Dive」という曲の歌詞の一節が出てきます。
中田永一(乙一)の『くちびるに歌を』には、アンジェラ・アキの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」の歌詞が出てきます。

著作権侵害というと、ものすごくびくびくしてしまいがちです。
もちろん、悪用はいけませんし、歌詞の全部(あるブロックをごっそりも)載せたらだめですが、ほんの一部であれば問題にはなりませんし、実際、載せている小説もたくさんあります。
今、映画化されている『月の満ち欠け』の原作本にもこうあります。

ねえ三角くん、これ、ア、でいいんだよね? ええ、ア、ですよ、エイ、とはあんまり言わないですよ。アイアム・ア・ロックってサイモンとガーファンクルも歌ってますから。
(佐藤正午『月の満ち欠け』)

「アイアム・ア・ロック」は歌詞でもあり、曲名でもありますが、流れといい、長さといい、この程度は全然問題ありません。

一部で済まない場合はJASRACに申請する

朝井リョウの『桐島、部活やめるってよ』にはJポップの歌詞がいくつか出てきます。

私は一瞬だけ外した右耳のイヤホンを元に戻し、二人ぼっちに慣れようか、と歌うチャットモンチーのかわいくてロックな世界に戻る。
(朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』)

二人よがりになりたいな、当たりくじだけのくじ引きがしたい――えっちゃんの声って、なんでこんなにかわいいんだろう。胸の奥をきゅんと突かれる感じがする。
(朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』)

伊坂幸太郎の『ゴールデンスランバー』にも、ビートルズの「Golden Slumbers」の歌詞が出てきます。

「Golden Slumbers fill your eyes」「Smiles awake you when you rise」とポール・マッカートニーは歌い、「Once there was a way to get back homeward」と言って、そして、ばらばらになったメンバーをどうにかひとつにしようとしていた。
(伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』)

「ゴールデン・スランバー」カズは歌をやめると、言った。「Once there was a way to get back homeward」というフレーズを繰り返した。〉
(伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』)

複数箇所ということもあるのでしょうか、両作については、文庫本の巻末にJASRACの許諾番号が印刷されていました。そんなに高額というわけではありませんので、妥当な判断でしょう。
書籍の場合、1000部まで1200円、5000部でも2600円……50万部を超える場合は1万3650円です。ベストセラー小説の売り上げを考えたらなんでもない額です。
なお、商業出版の場合、著作権使用料は出版社が支払うのが一般です。

ところで、WEBサイトの場合はどうでしょうか。
非商用サイト(個人)の場合、月額150円とのこと。
詳しくはJASRACの使用料早見表(https://www.jasrac.or.jp/info/network/side/hayami.html)をご覧ください。

なお、以下のブログはあらかじめJASRACに著作権使用料を支払っていますので、著作権者の許諾なしに歌詞を書いて大丈夫です。
・アメーバブログ
・はてなブログ
・Yahoo!知恵袋
・ライブドアブログ
・楽天ブログ

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