伏線とは何か?:5つの伏線|伏線の魅力#01


最近では日常会話の中でも「伏線・回収」という言葉をよく耳にする。
「昨日のドラマで主人公は花粉症だったけど、最後まで伏線が回収されなかったよね」とか。
それは単なる設定のような気がしなくもないが、では、伏線とはいったいなんだろうか。
今回、事前に伏線についてアンケートをとってみたが、「伏線とはどんなものだと思いますか?」という質問に、79.1%の人が「結末を盛り上げるためのもの」と回答している。
この結果からするとさきの「花粉症」は伏線ではないということになるが、この例からもわかるように世間一般では「伏線」の意味が広がってきているようなのだ。
そこで本特集では、「伏線とは何か」について深く掘り下げてみたい。
Chapter 1
伏線と呼ばれているものには5つある
伏線の定義
「伏線」を辞書で調べると、以下のように書かれている。
小説・戯曲・詩などで、後のほうで述べる事柄をあらかじめ前のほうでほのめかしておくこと。
(岩波書店『広辞苑』第五版)
これを読むと、「なるほど、前もってそれとなく書いておいたものなのね」とうことがわかるが、それなら、前のほうでほのめかせれば伏線なのかという疑問がでる。
たとえば、ある妻が出掛けに夫に言う。
「今日は早く帰ってきてね」
それで帰宅してみると、「豪華な料理が待っていた」。
これは伏線と回収なんだろうか。
前もって書いているし、におわせてもいるから伏線と言えば伏線と言えるのだと思うが、「結末を盛り上げるためのもの」というアンケート結果とは乖離がある。
では、伏線と、伏線ではあるが伏線的なものとはどう違うのか。
次の章ではここを探っていこうと思う。
伏線と伏線的なもの
「伏線」という言葉はさまざまな局面で使われているが、実際には伏線とは言えないような概念が混同されていることがある。
そこでここでは、世の中で「伏線」として語られているものを収集、分析してみた。
すると、今現在、伏線と言われているものには以下の5つがあることがわかった。
それが、前フリ、フラグ、暗示、布石、そして伏線である。
では、順に解説していこう。
〔前フリ〕
小説やドラマの中で、いきなり話題にするのは唐突だなと思うときに、前もって話のきっかけを作ること。
一例
「そう言えば、気になる女性がいるって言っていたけど、その後、どうした?」
「よくぞ聞いてくれた。それがひょんなことから付き合うことになってさ」
前フリはだいたい速攻で回収されるので、これを回収と言う人はあまりいない。
ただ、少しページを(時間を)おいて話題にした場合は回収と言える。
〔フラグ〕
小説なら読んでいて、映像なら観ていて、「あれ、もしかして?」とすぐにわかるほのめかし。
伏線と言えば伏線だが、10人中10人がわかるので、「意外!」とは思わず、「やはりね」と思う。
一例
「化け物なんかいるわけがないだろ、何をおじけづいているんだ」
(↑こういうセリフを言った人物はだいたい真っ先に死ぬ)
いわゆるフラグが立つという状態。そんなことを言うということは、逆の展開になるんだろうという予測が立つ。
「この事業が成功したら結婚しよう」
この場合も結婚できないか、できてもその前にトラブルが起きるという展開が予想でき、読むほうはワクワクする。
このフラグは前フリ同様、比較的早い段階で回収されるという特徴がある。
〔暗示〕
「雰囲気の伏線」という言い方をされることがある。
あまり直截な表現をしないのでストーリーと関連するとは思わないことも多いが、「なるほど、あれはこうなることを暗示していたのか」となる。
一例
今日は朝からどんよりとした雲が立ち込めていた。
ここまであからさまに書くことはあまりないが、さりげなく情景描写を書いて、このあと、主人公の人生に暗雲が立ち込めることを暗示したりする。
あるいは、これを逆手に使い、「朝曇りは快晴の兆候だった」とひっくり返すこともある。
〔布石〕
先の展開のためにあらかじめ書いておく。「なるほど、だからあんなことを言ったのか」と読者が思うという意味では伏線と言ってよい。
しかし、結末に結びつくとは限らず、また、意外性より納得感のほうが強い。
一例
「最近、やたら肩が凝って。寄る年波には勝てないね」
(↑疲労と思わせて、実は心筋梗塞の前兆)
病気で倒れてから心筋梗塞であることが判明してもいいが、前もってそれとなく書いておくと、ストーリーに自然さがでる。
以上、前フリ、フラグ、暗示、布石は展開のための伏線であり、さらに布石は納得感のための伏線と言える。
〔伏線〕
ここで言う伏線は、いわゆる伏線。結末を知ったとき、読者は「やられた」と思う。納得感に加え、意外性があり、「よくぞ騙してくれた」と称賛、感心する。
時には「納得いかない」と思う伏線回収もあるが、それは設定か、説明か、展開か、理屈に不備があるのであって、伏線であるかどうかとはまた別の問題だ。
ネタバレ!
映画「シックス・センス」
・小児精神科医マルコムは元患者のヴィンセントに銃撃されるが、翌年秋、ヴィンセントに似た症状のコールを知り、彼を救うことができればヴィンセントの供養になると考える。
・マルコムは結婚記念日に遅刻し、レストランで妻のアンナに話しかけるが無視される。
・マルコムはコールに「昔救えなかった子とそっくりな子がいて、救いたい」と告白する。コールのほうも「幽霊が見える」という秘密を打ち明け、「死んだ人が見える。自分が死んだと思っていない」と言う。コールの息が白くなる。
・マルコムが帰宅すると、アンナは結婚式のビデオを再生しながら酔いつぶれている。結婚指輪が転がり落ちるが、アンナの指には結婚指輪がある。
結末を知り、ここまでに感じていた違和感の理由がわかり、「なるほど、そうだったのか」と思う。
「ヴィンセントに似た症状のコールを知り、彼を救うことができればヴィンセントの供養になる」と考え、奮闘する小児精神科医という設定が、そして何よりストーリーが面白く感動的ということが絶大なミスリードになっている。
結末がわかってから観ても面白いので、詳細は映画「シックス・センス」をご覧ください。