古沢良太の伏線術 「エンジェルフライト」全シーン解剖|伏線は「裏」から生まれる


古沢良太の伏線術――「エンジェルフライト」全シーン解剖
一話完結のドラマでありながら、冒頭のワンカットから結末まで伏線で緻密に編み上げられている、そんな作品に出会うと、物語の設計そのものに感動する。
『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』で知られる脚本家・古沢良太さんの作品は、まさにその典型だ。
今回は、2025年にNHKにてドラマ化された「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」(原作:佐々涼子、脚本:古沢良太、香坂隆史)の「社葬vs食堂おかめ」(2025.5.17放送)をお手本に、一本のエピソードに伏線がどう仕込まれ、どう回収されるのかを解剖してみたい。
7つの伏線
伏線にも大小さまざまなものがあるが、ここでは下記の7つに分類してみた。
倒叙
厳密には伏線ではないが、時系列を入れ替えたため、「なぜ?」という疑問が生まれ、それが伏線のような役割をする。
たとえば、「あらゆる状況に対応するため、快晴だったが傘を持って家を出た」という順番を入れ替えてみる。すると、「快晴だったが傘を持って家を出た」が先になり、「え? なぜ?」となる。
これに答え、「あらゆる状況に対応するためだ」と書くと回収のようになる。
謎かけ
倒叙同様に謎が生まれるが、時系列の叙述の中に謎(疑問)が生まれ、それがのちの解かれる。
フラグ
いわゆる「フラグが立つ」という状態。「こんなことを言ったということは、逆にきっとこうなるのではないか」と予想が立ち、実際にそのような展開をすることを言う。
暗示
その後の展開を暗示するようなもの。登場人物のちょっと違和感のあるセリフ、深刻そうな表情などで暗示する。
リフレイン
これも厳密には伏線ではないが、同じシーンを何度も繰り返して強調し、観る人(読む人)に印象づける。「やけに強調するなあ」と思ったら、「そこにつながるわけね」となり、伏線と回収に近い展開をする。
布石
あらかじめ設定しておき、「なるほど、こうなることを自然に運ぶための出来事だったのか」となる。伏線の一種だが、納得感はあるが、驚き、意外性はない。
逆転
俗に言う伏線。観ているとき(読んでいるとき)は気づかないが、回収されたときに、「あ、そうだったのか」とか意外な感じがするとともに感心する。
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」の「社葬vs食堂おかめ」には、上記のような伏線的なものがたくさん仕込まれている。次の章では、それらを具体的に解説していこう。
〔「社葬vs食堂おかめ」あらすじ〕
国際霊柩送還士のエンジェルハース社の社長、那美と部下の凛子は、韓国で亡くなった吉崎めぐみの遺体を日本に送還しようとしている。同時に、紳士服の「大波」の社長も韓国で亡くなり、めぐみのあとに大波社長の遺体送還の依頼がエンジェルハース社にある。
しかし、飛行機には追加で棺を格納するスペースはなく、やむなくエンジェルハース社は、先に決まっていためぐみの遺体の送還を先延ばしにし、大波社長の遺体を先に送還することにする。田舎の大衆食堂の女将の遺体より、大企業の社長の遺体を優先したのだ。
ここで思いがけないことが起きる。羽田空港に着いたのは、なんとめぐみの棺だったのだ。総理大臣も列席する葬儀を予定している大企業、紳士服の「大波」の総務部長、井村は激怒し、「このままでは済まさんぞ」とエンジェルハース社に迫る。
めぐみの遺族は無事、葬儀を行い、その中で、「最後にお母さんに韓流アイドルのコンサートをプレゼントできてよかった」と遺族は語る。
一方、井村部長は遺体なしで葬儀を行うことを決意するが、そこになぜか大波の遺体が搬送されてくる。
すべて一件落着となるが、最後にめぐみの家にある老婆が訪ねてきて、意外なことを言う。