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第4回「小説でもどうぞ」作品講評

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作文・エッセイ
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小説でもどうぞ
 今回もたくさんの応募、ありがとうございました。みなさんも慣れてきたみたいで、ぼくもうれしいです。どの回もおもしろいものが多いけれど、やっぱり、想像をかきたててくれるテーマだと、傑作が多いみたい。そんな気がします。ということは、出題者の責任も重大ですね。頑張ります!

 稲尾れいさんの「あぶく立った、消えてった」は、「私」がシャワーで髪を洗っているシーンから始まる。ところが、おかしい。よく覚えていないのだ。「たった今シャワーで洗い流したのは、シャンプーの泡だったのか、それともその後のコンディショナーだったか。あるいは、まだ髪を濡らし始めただけで、これから洗い始めるところだった?」。もしかして、「私」は、記憶障害なんだろうか。それとも、突如、認知症を発症してしまった? ぼくもそう思って読んでました。そしたら、なんと! ホラーだった。ドッキリしました。でも、ちょっとテーマから外れたかも。惜しかった。

 瀬島純樹さんの「記憶が呼吸をしはじめる」は、最初から最後まで、ある記憶について書かれている。でも、それが何なのかを、教えてくれないのだ。ヒントはたくさん出てくる。「まさに歴史的事件」、「物と物、人と人がぶつかり合う音にかこまれ」、「こんな騒動」、「TVや新聞で事件について報道されない日はなかった」「現場の息遣いや息苦しいほどの匂い」……。いったい何だろう。主人公は、蘇ってくる記憶の苦しみから逃れるため、最後に、その場所にやって来る。なるほど、あの事件だったのか。でも、読んでもわからない読者もいるかもしれないなあ。

 広末守正さんの「今後のご活躍を」は、退職の日を迎えた二人の会社員の、その一日の物語。正社員の「千田」の周りには、人が集まるのに、非正規出身で契約社員の「広石」のところに来る社員はひとりもいない。寒々とした気持ちの「広石」は、最後にちょっとした悪意のプレゼントを残して去ろうとする。誰だってわかるよね、その気持ち。だが……意外な結末が、彼の前に待っていた。しみじみとした短編を読んだという感じがしたが、これも少し、「記憶」というテーマからは遠かった気がする。

 木村翔さんの「彼女は何を忘れたの」は、直球のお話だ。場所は京都、「彼女と顔を合わせたのは二時間ほど前、あるサークルの新入生歓迎イベントでだった」。ところが、その「彼女=弓岡さん」の乗ってきた自転車がないのである。さあ、たいへん。いったい、どこ? と思っていたら、鍵もないのだ。えええっ? もしかしたら、鍵を付けっぱなしにしていて、盗まれたのか。でも、最後に、その謎は解かれます。意外な理由で。なんと、そうだったのか! でも、その後、最後の最後に、またオチが……。楽しかったです。テーマは「記憶力」ですね。

 穂乃香さんの「バナナ」は、介護施設にいるひいじいちゃんの「嘉平さん」のところへ見舞いに行くふたりの曾孫たちのお話。施設で三人は、いつの間にか「最後の晩餐」の話になる。死ぬ前に最後に食べたいものは何? すると、「嘉平さん」は「バナナ」と答える。ただのバナナ? 他にはないの? いくら訊いても、答えは「バナナ」。呆れる曾孫たち。でも、それには理由があったのです。ぼくはホロっとしました! こういうシンプルなお話も素敵ですね。

 高橋徹さんの「大切なもの」は「私は、思い出そうとしていた」という文章で始まる。では、何を? 困ったことに、それがわからない。だから、「私」は、妻に訊ねるし(わかるわけないですよね)、ウォーキング中に思いついたことだったので(それは覚えていた)、外出してもみる。それでもダメ。最後の手段として「アイウエオ順」に口に出してみることにするのだ。そして……確かに、最後に、「私」は思い出すのだ、「大切なもの」を。その「大切なもの」って何だと思います? それが予想できたら、たいしたものです。わたしはダメでした!

 フサノユメコさんの「結露」は、なんといっても、タイトルがいいですね。中身とぴったりマッチして、最高です。もちろん、中身もグッド。伯母が美容院を営んでいる母の実家での、年上のいとこや姉との楽しいエピソード。大人への憧れ、おふざけ、でも、子ども時代にしかない、なんともいえない純粋な感情が、全編に溢れていた。「結露」は、温度差で風呂場の窓に雫ができる現象。そして、その雫はゆっくり垂れてゆく。大人と子どもの温度差がテーマ。それは記憶の中の物語でもあるんですね。

 というわけで、「結露」もすごく良かったのだが、もっと良かったのが、ササキカズトさんの「想い出の写真」。これにはまいりました。妻が「私」に一枚の写真を見せる。「ねえ見て、この写真。懐かしいなあ」。あっ、困った。覚えてない。大切そうな写真なのに。これ、よくあることなんだよね。なんとか、思い出さなきゃ。心の中で焦りながら、「私」は、一歩ずつ正解に近づいてゆく。そして、最後は……この結末は予想外だった。っていうか、この関係いいですね。ほんと。覚えておきます、こういうやりとり。