【病気や死別の経験もエッセイに】村井理子さん流!重くなりすぎないエッセイのコツは「自分を突き放す」


村井理子さんに秘訣を聞く 心が震えるエッセイの書き方
日常生活のほか、病気や死別などの重いテーマでもエッセイを書いている村野理子さんに、心が震えるエッセイの書き方について聞いた。
普遍性でいくか、特殊性でいくか
エッセイには、普遍性と特殊性という二つの面がある。
村井理子さんの著作でいうと、『村井さんちの生活』は普遍性に軸足がある。翻訳家、双子の息子はやや特殊だが、日常エッセイというところに普遍性があり、「本当にそうだ」と共感して心が動く。これはしみじみとした心の揺れ。
一方、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』『兄の終い』のほうは特殊性に軸足がある。特殊性にはインパクトがあり、これは心が揺さぶられる感じ。
心を動かすエッセイを書くには、普遍性と特殊性、どっちも必要だ。
『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)
40代後半女性が体調不良に抱くイメージは更年期障害一択。すべて年齢のせいだと思っていたが、犯人は心臓だった。人気WEB連載、待望の書籍化。
『兄の終しまい』(CCCメディアハウス)
突然の電話に出ると、兄の訃報だった。兄とは距離を置いていたが、なるべく早く遺体を引き取りに来いと言う。怒り、泣き、ちょっと笑った5日間の実話。
村井理子さんの著書にみる 重くなりがちな話をいかに書くか
──エッセイで病気を書く際、どう書けばいいですか。
読者の気持ちに立ち、何が読みたいかを考えます。具体的にどんな痛さか、何をされるのか、トイレはどうするのか、人に言いにくい本音を書きます。
──重くなりすぎないよう書くには?
作者がのめり込みすぎると重くなります。自分を突き放し、距離を置く。通勤電車一駅二駅で読め、今日も頑張ろうと思えるくらいの軽さがいいです。
──『更年期障害だと思ってたら重病だった話』の想定読者は?
同じ病気の経験者や、同年代の男性、女性にあてた作品です。より伝わるよう共感1200%で書きました。
──「僧帽弁閉鎖不全症」について書かれていますが、気をつけた点は?
手術や医師とのやり取り、闘病中のことをたくさん書いていますが、読者が怖くなりすぎない、痛く感じすぎないように気をつけました。
心をかき乱してやろうというつもりで書いている
さらっと読めて印象に残る村井さんのエッセイ。その創作手法について聞いた。
細かいところにネタは必ず隠れている
——エッセイを書くとき、一番気をつけていることは?
自分の生活を書くとなるとすべて明らかにするわけにはいきませんので、一面だけを書いて、すべて書いていると思わせることです。
——家族の反応は?
ないですね。興味がないので、きっと読んでないと思います。夫の同僚のほうが読んでいますね。それと息子の友達のお母さんが読んでいることが多いので、友達経由で何か言われないように配慮はしています。
——翻訳とエッセイを比べるとどうですか。
翻訳はノンフィクションが多いのですが、楽しいですね。エッセイのほうは苦しいだけですよ。
——意外です。
読む人は日々経験したことを軽くつづっていると思うかもしれませんが、書けることと書けないことがありますし、難しいことをわかりやすく書いて最後まで読ませる緩さと面白さが必要です。その工夫に時間がかかり、めちゃくちゃ苦しい。
——水面下の苦労は見せないんですね。アイデアはどうやってストックされるのですか。
グーグルドキュメントにメモしています。エッセイに書けそうだという何かを思いつくと、すぐに
メモします。もうものすごい量になっていますが、エッセイを書くとき、それを見直しているとアイデアが出てくるんです。アイデアだけでなく、散歩や移動中にネタになりそうなものがあったら、すぐにスマホで写真を撮ります。人に引かれるくらい撮ります。もう癖になっているんでしょうね。自分でもこれは撮ってはいけないと思うときも、結局、撮ってしまいます(笑)。
——写真に残しておくと、あとで書くときに便利ですね。
そうなんですよ。エッセイでは細かい描写をしないといけないときがあるじゃないですか。車の前に誰がいて表情はどうで、そこに夕陽が差していたとか、情景を書く必要があるとき、写真に残っているとすごく便利なんですね。失礼がない程度に(笑)。
——行き詰まって書けないときはどうされていますか。
書くスイッチが入る場所を見つけておくといいですね。私は車を運転しているとすごくアイデアを思いつくんです。だから行き詰まると、犬を乗せて遠くのコンビニエンスストアまで行くんです。そして、ソフトクリームを食べて、よし!と言って帰ってくる。座っていて筆が動かなくなったら、動いたほうがいいですね。
——『村井さんちの生活』を読むと、双子の息子さんの話や犬の話など、とても心温まるエッセイが多いですが、そうしたエッセイを書くコツはありますか。
私は心が温まる感じというよりは、心をちぎってやろうと思って書いているんです。「くぅ、つらい」と思わせるというか、心をかき乱してやろうと、そういうつもりで書いています。常に、切なくて、苦しくてたまらないというものを書きたいと思っています。そのほうが記憶に残るからです。ほっこりはあまり狙っていませんね。読むときも、激しめというか、キレ味鋭いものが好きです。
——最後に読者にメッセージを!
細かいところにネタは必ず隠れています。どこにでもあります。スーパーでも病院でも、どこかに必ずあるちょっとしたことが、どうしようもなく人の心を震わせたり、泣かせたりするものであることが多いと思います。何か書いてやろうと力むのではなく、目の前にある細かいところから題材を拾う練習をされると、いいんじゃないでしょうか。
村井理子
1970年静岡県生まれ。翻訳家。訳書に『ブッシュ妄言録』など。エッセイも手がけ、『村井さんちの生活』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』『兄の終い』ほか著書多数。ぎゅうぎゅう焼きの考案者。
※本記事は2021年11月号に掲載した記事を再掲載したものです。