第41回 高橋源一郎「小説でもどうぞ」 課題「ときめき」結果と講評
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1951年、広島県生まれ。81年『さようなら、ギャングたち』でデビュー。
小説、翻訳、評論など著書多数。日本のポストモダン文学を代表する作家。
■第44回 [ 習慣 ]
3/1~3/31(消印有効)
■第45回 [ 隣人 ]
4/1~4/30(消印有効)
※募集期間外の応募は無効になります。
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ときめき
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「ときめき」そのものは純粋で新鮮なもの。けれども、それを掌編小説にするには、技巧もこらす必要がある。二律背反する要素をうまくどちらも活かした作品をご賞味あれ。
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最優秀賞は志賀廣弥さんの「と□め□」。なぜタイトルに□が入っているのか。それは「文字」がなくなる世界の物語だから。最初になくなったのは「ん」だった。みんな焦ったがすぐに「ん」は帰ってきた。次に「ぬ」が姿を消した。大変だったが五日で帰ってきた。中には気づかない人もいた。「き」がなくなったときには大騒ぎだった。「き」がないときわめて不便だった。なにしろ「ときめき」という言葉がないだから。でも、お話の最後に「き」が戻り、「ときめき」も戻る。しかもときめくオチで。最高です。
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齊藤想さんの「子熊のぬいぐるみのベアリ」の冒頭、「ぬいぐるみのベアリ」は「車椅子の少女の手」で「空港の待合席」に置かれる。首には小さな日記帳。両手には「私を旅行に連れて行ってください」という看板。病気で旅に行けない少女の代わりに「ぬいぐるみのベアリ」に行ってもらおうと連れてきたのだ。かくして、たくさんの旅人たちの手で「ぬいぐるみのベアリ」は世界を回り、日記帳には旅の様子が詳しく書かれる。そして、最後に「ぬいぐるみのベアリ」は少女のもとに戻ってくるのだが……泣きますよ、これ。
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いのさんの「ときめきの一週間」は、月曜日から日曜日まで毎日、「私」がなにに「ときめいて」いるかのレポート。たとえば、月曜日は「就労支援施設へボランティアに出掛ける」。いろいろなことがある。そして「ボランティアとして若い彼らと過ごすことは私の月曜日のときめきである」。こんなふうに「私」のレポートは一週間続くのだ。最後の日曜日はお休み。「寝室からやっと出てきた定年すぎのひきこもりおやじ」に朝食を作ることから。この日だけは「ときめき」がない? いやあるんです、実は……なるほど!
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のぞみさんの「僕の思い出のセーターは」は、可愛いお話。「僕」は洋服ダンスを整理するためにしまっていた収納ケースを確認する。そして、四十年も放置していたケースから「二十代のときの衣服」を見つける。一世一代の告白をして付き合うようになった「彼女」からのプレゼントの「紺色のセーター」だった。 なんて懐かしいんだ。折角だから洗濯して乾燥させていると目ざとい妻が見つけて「誰かからもらったの?」と追及してくる。なんとなく誤魔化す「僕」。実は……いや、オチは予想できたけど、キュンとしますね。
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白浜釘之さんの「ときめきを感じると」は、「人生の最晩年」に「機械」に「ときめき」を感じる「私」の物語。かつて子ども向きのジュブナイル小説を書いていた「私」は、いまは年老いて病院に入っている。そして、そんな「私」を世話してくれるアンドロイドに「ときめき」を感じているのである。いまは召使いのように思う人間も多いかもしれないが、いつかアンドロイドに対しても「人間に対するように感情を持って接してくれる」ようになるだろう。そう思うのだ。そして……いいお話ですが、予想できたオチだったか。
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永瀬櫻子さんの「濃紺の夜に包む」は、半休をとって新幹線に乗り「夕暮れの京都駅に下りた」「香織」のお話。「香織」は、若くして管理職に抜擢されたが、他の男性社員や結婚・産休を経験した女性社員からの嫉妬の対象になる。管理職なんて「自分の身の丈にあっていないこと」くらいわかっているのだ。そういう時、「香織」は昔付き合っていた「修ちゃん」のいた京都に立ち寄るのである。「あの頃のときめき」に触れ、夢を見るために。 そして「香織」は、その京都で……ちょっと、後半部分が単純すぎたかもしれません。
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上田薪ノ助さんの「ロマンスを洗い流して」は、気がつけば結婚もせず仕事をしつつ同居している姉妹のお話。年齢は五十歳から五十代前半の二人。「老後は楽しく暮らそうね」がふたりの合い言葉(?)。なのに、姉がいきなり、メールで知り合った米軍パイロットに会いに行くために家を出た。その男の父の手術費を払うために。怪しい。「詐欺に決まっている」と止めたのに。仕方なく、「わたし」は二人で行く予定だった温泉に一人で出かける。そして着いた温泉で……あまり「ときめき」がないような気がしたんですが。
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村木志乃介さんの「ひとめぼれ」、主人公の「わたし」が「ひとめぼれ」したのはポプラの「ミニ盆栽」。「手のひらサイズの小さな鉢」だった。ポップには「成長が早く、あなたの愛を求めています」と書かれている。買った「わたし」は、その「ミニ盆栽」を育てる。そして少しずつ成長してゆく「ミニ盆栽」。そのこととは裏腹に、一緒に暮らしていた若い彼「大樹」はいつの間にか去っている。やがて大きな樹になったそれを「わたし」は……。「ひとめぼれ」のまま終わってしまった感じです。もう一工夫欲しかった。
■第44回 [ 習慣 ]
誰でも「習慣」はありますね。日々決まっているルーチンというか。ぼくは寝る時、枕もとの目覚まし時計の横に、寢た時間を書いたメモを置きます。寢た時間がわからないと、どのくらい寢たかわからないからですよ!
■第45回 [ 隣人 ]みなさんの「お隣」にはどんな人が住んでいますか? えっ? 知らないし、話したことがないって? つい最近引っ越してきた人だからわからない? そうですよね。「隣人」って、近いけど、実は遠いのかも。
■第44回 [ 習慣 ]
3/1~3/31(消印有効)
■第45回 [ 隣人 ]
4/1~4/30(消印有効)
・2000字程度。データ原稿可。
・空白を含めず、文字カウントが2000字程度。
(1割の増減まで許容)
・タイトル、作者名は文字数に含みません。
・手書きの場合は、400字詰原稿用紙5枚程度。
・書式は自由。用紙サイズはA4判。縦書き、横書きは自由。ただし、選考は縦書き、発表は横書きで行う。
・作品冒頭にタイトル、本名かペンネームのどちらかを明記。
・作品にはノンブル(ページ番号)をつけること。
wordで書かれる方は、40字×30行を推奨します。
ご自分で設定してもかまいませんが、こちらからもフォーマットがダウンロードできます。
Wordファイルの中にあらかじめ書かれてある文言はすべて消してご利用ください。
・応募の際にはメールアドレスを記入してください。
・入選作品は趣旨を変えない範囲で加筆修正することがあります。
・応募者には弊社から公募やイベントに関する情報をお知らせする場合があります。
〔WEB応募の場合〕
・所定の応募フォームから応募。作品にもタイトルと氏名(ペンネームの場合はペンネームのみ)を明記。
・未記入の場合は「タイトルなし」「名前なし」で選考されます。
〔郵送の場合〕
・必ず元原稿とコピー原稿を各1部、計2部提出。
・元原稿、コピー原稿ともタイトルと氏名(ペンネームの場合はペンネームのみ)を明記すること。
・コピー原稿には住所など個人情報を書かないこと。
・締切は当日消印有効(余裕をもって提出ください)。
・別紙に〒住所、氏名(ペンネームの場合は本名も)、電話番号、メールアドレスを明記し、作品末尾に並べ、ホッチキスで作品ごと右上を綴じる(ゼムクリップ不可)。
・作品は封筒に裸で入れる(過剰包装、クリアファイル等は不要)。
・作品は折らないこと。
・作品の返却は不可。
未発表オリジナル作品に限る。
応募点数1人3編以内(同工異曲は不可)。
AIを使用した作品は不可。
入選作品の著作権は公募ガイド社に帰属。
第44回 2025/6/1、Koubo上
第45回 2025/7/1、Koubo上
最優秀賞1編=Amazonギフト券1万円分
佳作7編=記念品
選外佳作=WEB掲載
※発表月の翌月初頃に記念品を発送いたします。
配送の遅れ等により時期が前後する場合がございます。
● WEB応募
上記応募フォームから応募。
● 郵送で応募
〒105-8475(住所不要) 公募ガイド編集部
「第〇回小説でもどうぞ」係
ten@koubo.co.jp
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受講料 5,500円
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