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第5回「小説でもどうぞ」作品講評

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作文・エッセイ
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小説でもどうぞ
 今回のテーマは「賭け」。投稿された方の中に、ギャンブルが好きな方はどれくらいいたのだろう、なんて思いながら読みました。

 山本岬さんの「父の年末ジャンボ」は、とりあえずは直球の「ギャンブル小説」だ。まあ、宝くじをぎりぎりギャンブルと呼ぶとしてだが。「私」の「父」は、その親や祖父の振る舞いを見て育ったせいか、ギャンブルはやらない。そんな「父」が唯一するのが、年末ジャンボ宝くじを買うこと。毎年買うのは三十枚。もちろん一度も当たったことがない。ところがある年、当選番号発表の後、その宝くじを持って「父」は行方不明になるのである。いったい何があったのか。そもそも、宝くじが当たったのか。そして……。おもしろい設定だけれど、最後がなんだかスカッとしなかった。惜しい。

 月照円陽さんの「全裸の坂道」、まずタイトルでびっくり。ワクワクするではありませんか。さて読んでみると、お話はシンプルだった。「閉塞感」を「吹っ飛ばしたい」「あたし」は、渋谷スクランブル交差点で信号待ちをしているとき、いきなり着ているものを一つずつ脱いでゆく。そして、タイトルの通りに「全裸」になる。実は「あたし」は「女子サッカーの選手」なのである。心の中で、「あたし」は「賭け」てみる。目の前にある道玄坂を「登り切れば、きっと……」。単刀直入でわかりやすい。でも、もうちょっとひねりがきいていればよかったんだけど。

 SALoNさんの「熊印のベビーカステラ屋」は、いっぷう変わった作品だ。「私」は彼女と「酉の市」に出かける。目的が一つあった。それは「熊印の紙袋」のベビーカステラ屋でカステラを買うことだった。ところが、店のオヤジはいきなり、注文されたベビーカステラ40個に、お前のいちばん大切なものを賭けろというのである。いちばん大切なものは? 思わず、「私」は彼女との結婚、そして、ふたりの「子供」と答える。なぜ、そんな賭けが? そして、結果は? 夢中になって読みました。最後がちょっと弱かったか。おもしろかったのにね。

 高橋徹さん作品のタイトルは、「伊藤博文の肖像」。もちろん、最後に千円札が登場するが、その登場の仕方はとてもユニーク。還暦を迎えた「私」は、高校生の頃、友だちと撮った一枚の写真を見つける。そして、突然、その友だちと「賭け」をしていたことを思い出す。満六十歳を迎えたとき、賭けに負けた方が金を払うと決めたのだ。だが、何を賭けたのか、まるで覚えていない。その日、「私」が約束の場所へ向かうと、なんと「彼」が「四十二年前そのままの姿で」……。どうなったか気になるでしょう? 実は、泣ける「賭け」だったんです。いや、予想できなかったなあ。

 平野流さんの「私に還る朝」、朝目覚めた「私」は、そこがどこなのか、なぜそこにいるのか、自分が誰なのかもわからない。けれども、そのまま暮らしてゆくと、今度は、ものの「名前」まで忘れてゆく。いったい、なぜ? そして一年後、「私」から、すべての謎を解くDVDが送られてくる。それは、過去の「私」の「賭け」だったのだ。そして、その結果は……実は、それは書かれていない。読者の想像に任されているのである。そこがとてもよかったです。

 稲尾れいさんの「一人遊びのゆくえ」は、最初読み始めてびっくり。「私」は、電車の中で、何も掴まらずに危ういバランスで立っている。実は、これ、「賭け」なのである。もし、うまくいったら……。こんなふうに、いつも、「私」は「一人遊び」をしている。中身は、みんな同じ「賭け」だ。それがうまくいったら……。教えましょう。うまくいったら、大好きな「水沢君」に「告白」しても「脈あり」なのだ。いや、うまくいったら……。そして、その「賭け」が試される日がやって来る。告白、そして、失敗。でもこの小説はここでは終わらない。なぜなら……その胸に響く終わり方、「賭け」の悲しさですね。

 水谷まりもさんの「聖母の伴走」は、たぶん、全候補作の中でいちばんおもしろい。なにしろ、十五歳の「息子」がいきなり、「母さん。僕、ブンゴーになる」といいだすのだから。そして、その日から、「息子」のブンゴーを目指す、ハチャメチャ生活が始まるのである。まあ、ちょっと方向性が間違ってると思うけど。そのあたりのエピソードと文章の弾けっぷりは最高だった。最後に「私」は「息子」の書いた小説を読む。その中身は……というところでお終い。いや、めっちゃ盛り上がる短編だが、「賭け」の要素がちょっと少なかったのでは?

 そして、今回の最優秀賞は、吉田猫さんの「悪魔は見ている」。「賭け」を描いた超正統的な作品だ。あるバーで、「私」は「悪魔」と出会い「賭け」をする。最初は、そのバーの飲み代を。サイコロ賭博は「私」の勝ち。ではもう一回。「悪魔」に勧められるまま、「悪魔」は「家と土地」を「私」は「家族」を賭けるのである。今度は、「私」の負け。こんなの冗談に決まってますよね? いや、そうではなかった。「私」は「家族」を失うのだ。どんなふうにかというと……怖い、怖い、結末だった。拍手!