岸本葉子選 1000字エッセイ「おい・おい」 第5回募集&第4回結果発表


「老い」は老いる人にも老いられる人にも無関心ではいられない問題です。
「老い」について、切実なもの、ユーモアのあるものなど、バラエティーに富んだエッセイを期待します。
「老い」をテーマに、毎回の課題に沿ったエッセイをお送りください。
1961年、神奈川県生まれ。東京大学卒。エッセイスト。俳句、介護、老いに関するエッセイ多数。淑徳大学客員教授。
募集中の課題
第5回 [ 気になる言葉 ] 締切 5/20(必着)
※「老い」をテーマに、今回は「気になる言葉」に関するエッセイを募集します。
< 第4回 >
課題 /
ついにとうとう
総評
前号と今号の入選作に、こう感じるかたはいるでしょう。「要するに軽いのがよくて重いのはダメなのか。それって選者の好みでは?」
好みがあるとは思うけど、釈明……ではなかった、説明させていただくと、楽しく読めるだけでなく、切実な何かが伝わってくる作品が、選考のプロセスでは残ります。その中でこの二作となったわけは。
(岸本葉子)
最優秀賞
こっちの棚の住人
すなお(埼玉県・52歳)
岸本講評
最優秀作は文章が巧みです。「こんな爽やかに漏れる人、いるのだろうか」「不安まで吸い取ってくれる勢いで吸う」など、あざとさギリギリで寸止めといいたい上手さです。笑いをとりながらも下の話に終始はしません。締まっているはずだった自分のあちこちが緩んでいく不安と悲哀。重い、深い。でも結びには救いを持たせています。
優秀賞
白いぬいぐるみ
しんきちの母(東京都・68歳)
岸本講評
優秀作は、文章をさらに磨くことはできそうですが、言い過ぎない上手さがあります。さらりと終わって、読んだ後に「でもアンケートにも子の名として書くって、40年も育て続けたって凄くないか」。夫婦の決断と共に歩んだ歳月の重みが、胸に来ます。説明の主旨をまとめれば、シリアスなことをふわりと伝えるって難しい、でもめざしたい。私も日々模索中です。
佳作
あぁやっと
かおりんご(兵庫県・54歳)
編集部コメント
父親が病に倒れ、その介護に追われた母親が体調を崩し、やむなく父親を施設に入れたというところまではよくある話でしたが、「気晴らしに旅行にでも行ってきたら」と言ったところ、母親が激昂し、それから1年以上も母親との関係がギクシャクしたというところに、家族がいなくなることへの不安と人間関係の難しさが見えました。タイトルに作者の実感が窺えます。
越えてしまった一線
小澤和夫(兵庫県・66歳)
編集部コメント
「越えてしまった一線」というタイトルは「え?」と思わせ、「でも、違う一線だよね」と予想させる趣向があります。子どもの頃の怖い体験はなかなか乗り越えられないもので、犬が怖いというのもおいそれとはいかない。その壁が、定年退職後に柴犬によって崩される。かわいいもの、ひたむきなものを見て、それがトラウマを越えさせる。老化のプラスの面かもしれませんね。
泣き虫おばちゃん
土井いくみ(京都府・37歳)
編集部コメント
親戚が結婚することになり、「ふーん、よかったね」くらいの感想しかなかったのに、いざ結婚式会場に入ると涙が溢れてきて、親より早く泣きだしてしまったと。泣いているほうも、泣かれているほうも「なんで?」と思っているところが、なんだか妙におかしいですね。もともと泣き虫であった女性が年齢を重ねると、「あれ、私、なんで泣いているんだろう」の毎日になるかもしれませんね。
父のルーティン
手塚由紀(東京都・57歳)
編集部コメント
ルーティンワークの庭掃除をしているうちに、自宅から百メートルも先の公園まで行ってしまったという認知症の出来事を、愚痴ではなく、日常の面白いこととして記しているのが爽やかです。確かに、落ち葉に境界線はないから、どこでやめていいか線引きが難しいですが、図らずも、このことが認知症と認知症でない境界がわからないことのメタファーになっているところがいいですね。
同じ線の上
愛媛バリコ(東京都・47歳)
編集部コメント
小学校の頃から、四人の祖父母の介護をしていたというのがまたすごい。便秘がちの祖母の下の世話をするとき、尾てい骨のあたりをさするとするりと便が落ちるというのは経験がない人には書けない一文だったと思います。便の臭いに老いを感じるというのも。記憶と嗅覚を司る脳の部位は近いそうで、臭いを嗅ぐと思い出したり、思い出とともに臭いまで蘇ってきたりしますね。
千円札と孤独
深田観(埼玉県・34歳)
編集部コメント
子どもの頃に面倒を見てもらった近所の「おばあ」が入院し、お見舞いに行ったが、行くたびに千円札を握らせようとする。見舞いには五回ほど行き、そのうちに行かなくなったが、あれは話し相手をつなぎ止めるための呼びかけだったのではないかと。おそらくそうでしょうし、お金はあの世には持っていけないから感謝の印にということもあったでしょう。死期を悟るというのは切ないですね。
<選外佳作>
怪しい電話
千葉静子(栃木県・72歳)
編集部コメント
詐欺のような電話がかかってくるが、それは施設に入っている夫からの電話で、妻が詐欺にかからないか心配で、そのシミュレーションをしていたのだと。夫にすれば「監督・脚本・出演」というわけですね。相手を思い、相手を喜ばせようとすることは最高の脳トレと言います。ほのぼのとして、仲のよい夫婦であることがよくわかる作品でした。
ついに、とうとうと言い出した人
岡昌子(三重県・42歳)
編集部コメント
52歳の夫が「老けたと思う。昔はこんな顔じゃなかった」と言うので、顔マッサージをしてあげると、会社の顔認証が通らなくなったというのが面白い。整形手術並みに見違えてしまったのか、はたまた単なる誤作動か。日々の老化はわからなくても、5年前と比べると「こんな顔じゃなかった」となりますね。それにしても、マッサージでもとに戻るなんて、50代はまだまだ若い?
「そいつ」は深夜にやってきた
関谷信之(東京都・60歳)
編集部コメント
深夜に激痛で目覚め、しかも、ノコギリで足を切られているような痛みというのが怖い。翌朝、病院に向かい、これが内臓なら救急車を呼ぶが、足というのが微妙なところで、激痛を押して三百五十メートル先の病院までケンケンで(姿を想像するとおかしい)。正体は痛風。風が吹くだけでも痛いと言われますが、風なんか吹かなくても相当痛いというのは実感ですね。
フェイクな老後
高橋菜穂子(大阪府・61歳)
編集部コメント
ずっと歯科通いをしていた夫が一度に歯を3本も抜くことになった。そのことから作者は父親が総入れ歯で、介護をしていたときは父親の総入れ歯をブラシで洗っていたことを思い出す。ところが、夫はインプラントを選んだ。1本100万円、3本で300万円……。確かにけっこうな車が1台買えてしまいます。「今なら3本セットで10%オフキャンペーン」とかないんでしょうかね。
ついに来た、失明の危機
吉村史年(埼玉県・53歳)
編集部コメント
家族の留守に一日中テレビゲームに興じていたら、視界が変になる。作者は内科医だったから、強度近眼の人は網膜剥離のリスクが高いと知っており、すぐさま眼科へ。失明は免れます。網膜剥離なんてボクサーしかならないと思っていましたが、強度近視の方もなることがあるんですね。嗅覚、聴覚、触覚、味覚も失いたくないですが、やはり視覚を失うのが一番怖いかもしれませんね。
幸せを忘れないで
白里りこ(神奈川県・29歳)
編集部コメント
孫である作者のことを認識できない祖母に喜んでもらおうとフルートを持参すると、施設の人がほかの人にも聴かせてほしいと即席の演奏会を開く。ところが、肝心の祖母に反応はない。作者は無力感に苛まれつつ片付けを始めるが、そのとき、祖母の口角上がっていることに気づく。音楽療法というのがあるそうですが、音楽というものは人の心の中に入って感情を共鳴させるんでしょうね。
私の「雨月物語」
辻 基倫子(山梨県・52歳)
編集部コメント
四十代半ばを過ぎた頃、真冬の戸外に二時間立っていて、コートに染みができるほどの失禁をしてしまったというのは、教師という人前に出なければいけない職業ではその不安は計り知れません。教壇に立っているとき、生徒や保護者と対応しているとき、会議の最中、ひどい尿漏れが起きたとしても、次の日から職場にいけないとは思わないような世の中であってほしいですね。
白髪抜き一本五円で受け付けます
せんひろし(長崎県・22歳)
編集部コメント
作者は、父親専属、一本五円の白髪抜き職人だったと。しかし、白髪は抜かないほうがいいという情報が入り、職人の仕事は終わる。あれから十年、父親の髪には白髪がわんさかあるが、今はもう抜いてはいけない毛量になっている。白髪は若い頃なら、もしくは一本や二本なら抜くが、年々、白髪でもあるだけいいとなってきます。子どもの仕事というより、親子のコミュニケーションだったのでしょうね。
クラリネットと
さこたゆう(千葉県・80歳)
編集部コメント
六十歳で仕事を辞めたタイミングでクラリネットを始めたが、それが若さを保つ秘訣になっているという。吹く楽器ゆえ肺活量が増え、そのせいか風邪をひかない。楽譜を読み、指を動かすから脳トレにもなる。背筋を伸ばして演奏するので姿勢がよくなる。確かにいいことずくめです。ちなみに渡辺貞夫、九十三歳、いまだ現役なのも吹く楽器ゆえでしょうね。
消えた私と、消えない記憶
さらまる(東京都・23歳)
編集部コメント
高校二年のとき、祖父の家に行き、「どちらさんですかねぇ」と言われる。孫のことを通行人としか認識しない祖父に「お茶でも飲んでいくかい」と言われますが、作者は恐怖と喪失感から「大丈夫です」と言って逃げてしまう。その後、受験の三日前に祖父は亡くなる。亡くなったことより、生きている間に何もできなかったことが後悔として残る。その思いがよくわかるエッセイでした。
第4回もご応募、ありがとうございます。
今回は応募数がこれまでの倍近くありました。年末年始を挟んだせいでしょうかね。
最初に読むときは、1次通過かどうかだけ判断し、だいたい30編ぐらい選びます。
次に掲載作品18編に絞りますが、再読すると評価が変わる作品がけっこうあります。
最初はいいなと思ったのに、二度目はそうでもないと思ったり、最初はギリギリ選外佳作かと思ったのに、改めて読むとゆっくりじわじわ遅効性の薬のように効いてくる作品もあります。
エッセイにも賞味期限があるようですね。いい作品は日持ちしますね。
第5回の課題は、「気になる言葉です」です。
「老い」に直接つながる言葉、年々気になるようになった言葉、うれしい言葉などなど、「気になる言葉」に関する老いのエッセイを募集します。
あなたにしか書けないエピソードをお待ちしています。
<応募総数 313 編>
応募要項
課 題
第 5 回 [ 気になる言葉 ]
応募規定
1000字以内。Wordの方は文字数カウント1000字以内。
応募点数制限なし。
応募条件
作品は未発表オリジナル作品に限る。
AIの使用は不可。
入選作品の著作権は公募ガイド社に帰属。
賞
【 最優秀賞 】 1 編 = Amazon ギ フ ト 券 5000 円 分
【 優秀賞 】 1 編 = Amazon ギ フ ト 券 2000 円 分
【佳作】 6 編=記念品
【選外佳作】10 編=WEB 掲載
応募先
【WEB 応募】
【郵送】
A4 用紙に縦書き。40 字 ×30 行、または 20 字 ×20 行。
タイトル、〒住所、氏名(ペンネーム使用の場合は併記)、年齢、電話番号、 メールアドレスを明記。作品の返却は不可。
◾応募先 〒105-8475(住所不要)公募ガイド編集部「第5回おい・おい」係
締切
2026年5月20日(必着)
発表
季刊公募ガイド夏号(2026/7/9 発売)誌上、Koubo 上
入選作品は趣旨を変えない範囲で加筆修正することがあります。
応募者には弊社から公募やイベントに関する情報をお知らせする場合があります。