高橋源一郎の小説指南「小説でもどうぞ」第14回「忘却」結果発表
1951年、広島県生まれ。81年『さようなら、ギャングたち』でデビュー。
小説、翻訳、評論など著書多数。日本のポストモダン文学を代表する作家。
■第17回 [ 家 ]
12/1~12/31(消印有効)
■第18回 [ 噂 ]
2023/1/1~1/31(消印有効)
※募集期間外の応募は無効になります。
忘却
今回のテーマは「忘却」、なかなか難しい素材だったせいか、不消化に終わった作品も多かった。それでも、小説としておもしろかったら、気にならないんだけれどね。
今回の受賞作、紅帽子さんの「ウロタ・マシラウ」。この作品がすごいのは、最初からテーマが「ウラシマタロウ」だと教えてくれているところ。「浦島太郎」物語の新解釈なのだ。「ウロタ」が「禁断の箱を開けた瞬間、白い煙がもうもうと立ち、彼はあっという間におじいさんになった」ところからスタート。「ウロタ」は海に出て、亀に出会う。二回目の物語が始まるのである。二回目なのでそうとう新しくなっている。なんとも超現代風に。でも、二回目でも終わりは一回目のようにちょっと寂しい。三回目もありかな。
小口佳月さんの「過去に捕まらないように」は、ある夫婦の物語。バイクを運転していた夫はトラックにはねられ、三十五年分の記憶を失う。退院して家に戻った夫は、涙を流す。なぜなら「記憶を失う前の僕は、あまりよくない人間だったようだ」と気づくからだ。記憶はなくとも、そのことだけはわかるのである。妻はすべてを知っているが、もちろん夫には話さない。そして、ある晩、夫はすべてを思い出す。あの夜、なぜバイクに乗ったのかも。そして、読者はこれが許しと救済の物語だったと気づくのだ。
柴田歩兵さんの「デジタルリザレクション」。「男は意を決してVRグラスを装着した」。なんのために? 仮想現実が作り出した母親と会うためだ。というのも、母を亡くしてから元気がないと妻にいわれたから。そんなAIが作る母になんか興味がない、といいながら、「男」はその「デジタルリザレクション」というサービスを利用してみることにしたのである。AIの作り出す「母さん」を困らそうと、答えられそうにない質問を繰り出すうちに、「男」の秘密が暴かれてゆく。意外性はなくても、胸に滲みる結末だった。
十六夜博士さんの「それだけは忘れない」は、ちょっと悲しいお話。「俺」は「タクシーで本社の表玄関に乗り付ける」。支払いは万札、お釣りなどいらない。豪華な「回転式の玄関」は、「一代で数兆円企業を立ち上げた自分」のようだ。本日はある企業と「大型連携」の打ち合わせだ。会議が始まって、「俺」は不思議なことに気づく。相手の社長の名前が思い出せない。いや部下の名前も思い出せない。年はとりたくないものだ。そして、最後に明かされる厳しい真実……なのだが、この結末はちょっとわかりやすすぎたかな。
優子さんの「ここは忘却の彼方」は、タイトル通り、忘却された記憶の集積地「忘却の彼方」の物語。「私」は、この「コンクリートで埋め立てられた広大な敷地」で淡々と作業している。空から飛んでくる「記憶」を拾って「棚」に並べるのである。「私」の名前は「橋」。そこへ、課長の「谷」が若い、新人の女性「森」を連れてくる。なんだかワクワクする展開じゃありませんか。「私」が「森」さんに仕事を教え、やがて休憩時間。そして、二人の会話が……えっ、それで終わりなの? 伏線が回収しきれてないと思うんだけど。
ライ麦さんの「本物」は、かなりホラー。仕事を終えて帰宅した「清」の前に「食べたことのない、青葉のサラダ」が。「妻のさおり」は「ヨモギ・サラダ」だという。ヨモギは薬草、でも、妻はわざと植物図鑑の表紙の「野草と毒草の見わけかた」と書かれた部分を見せ、食べるよう迫る。勘のいい「清」は、昨晩行ったキャバクラの件だと悟る。ヨモギ・サラダを食べずに離婚を選択するか、それとも浮気を認めて、サラダを食べるか。でも食べるとどうなるの? 究極の選択の結果や如何に。でもやはり結末の意味が……。
秋あきらさんの「推理してはいけない」。主人公の「浩一」は、図書館で「同年代の初老の男」に話しかけられる。男は「浩一」を知っているのに、こちらはその人物を知らないのだ。わかっているのは、二人とも推理小説マニアらしいこと。やがて話は「浩一」が隠す秘密に向かってゆく。実は、「浩一」は、かつてひきこもりだった息子を殺して、図書館近くの公園に埋めたままだったのである。その男は知っているのか。はたして、その男の正体は……。一応推理してみましたが、どうもその男が誰かはっきりしないんですよ。
ササキカズトさんの「同級生」の主人公「俺」は、仕事で出張中に立ち寄った居酒屋で「小学校時代の同級生」だという男と出会う。「俺」はそいつをまるで知らないのに、そいつは「俺」の小学校時代のことをなんでも覚えている。ということは、ほんとうに「同級生」? 「俺」は妻に頼んで、卒業アルバムの集合写真を写メで送ってもらう。そしたら、なんと。やはり、そいつは写真の中にもいないのである。その翌日、居酒屋を訪れた「俺」が見たものは……。うーん、この結末、ちょっと納得いかないんですが。
■第17回 [ 家 ]
生まれた家。帰るべき家。出てゆく家。昔住んでいた家。思い出の家。古い家。新しい家。未来の家。誰もいない家。どこにでもある家。壊れた家。ホーム。ハウス。これでも家? ここも家? 家ならなんでもどうぞ。
■第18回 [ 噂 ]昔、実家に戻ると親戚のおばちゃんたちがずっと噂話をしていました。「あの人、愛人がいるって」「あの人、隠し財産があるらしいよ」とか。でも、いまやあらゆる場所で(ネットでも)噂話。好きなんだなあみんな。
■第17回 [ 家 ]
12/1 ~ 12/31(消印有効)
■第18回 [ 噂 ]
2023/1/1~1/31(消印有効)
A4判400字詰換算5枚厳守。ワープロ原稿可。
用紙は横使い、文字は縦書き。
郵送の場合は、原稿のほか、コピー1部を同封。
作品には表紙をつけ(枚数外)、タイトル、氏名を明記。
別紙に〒住所、氏名(ペンネームの場合は本名も)、電話番号、メールアドレスを明記し、原稿末尾に並べ、ホッチキスで右上を綴じる(ゼムクリップ不可)。コピー原稿には別紙は不要。
作品にはノンブル(ページ番号)をふること。
作品は封筒に裸で入れ、折らないこと。作品の返却は不可。
※WEB応募の場合も作品には表紙をつけ、タイトルと氏名(ペンネームの場合はペンネームのみ)を記入すること。
未発表オリジナル作品とし、入選作品の著作権は公募ガイド社に帰属。
応募者には、弊社から公募やイベントに関する情報をお知らせする場合があります。
第17回 2023/3/15、公募ガイドONLINE上
第18回 2023/4/15、公募ガイドONLINE上
最優秀賞1編=Amazonギフト券1万円分
佳作7編=記念品
選外佳作=WEB掲載
※最優秀賞の商品券はAmazonギフト券に変更となりました。
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「第〇回小説でもどうぞ」係
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