W選考委員版「小説でもどうぞ」第1回「出会い」結果発表&選考会の裏側
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小説家。すばる文学賞、日本ファンタジーノベル大賞、群像新人文学賞、文藝賞などの選考委員を歴任。
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歌人・エッセイスト。歌集、評論、エッセイ、対談集など幅広く活躍。小説では文藝賞の選考委員を務める。
実際に書かれたことが違う
高橋早速、選考に入っていきましょう。1編ずつ交代であらすじを話し、〇2点、△1点、×0点に、△プラス、△マイナスを加え、5段階評価で採点していきます。
では、ナンバー1の「涙が出るほど、空は青」から。主人公(美和)の母親は認知症が進んでいて、主人公のこともわからなくなっていますが、母親の死後、亡くなる直前に「美和」と呼んでいたと、スタッフの真下さんから聞かされるという話です。
よくある話ですが、ぼくは泣ける話に弱いので(笑)、嫌いではないです。ただ、これは真下さんと出会ったという話ですね。何と出会うんだろうと期待したのですが、やや強引で、これが微妙。ということで△。1点です。
穂村ぼくも最後が気になりました。お母さんとの関係でしみじみしたかったのに、お母さんのおかげで男性と出会ったと。われわれが心の底でこうだったらいいと願っていることが書かれている感じがして、それだと本当には救われないんじゃないかという気持ちがあり、△マイナス、0・5点です。
次はぼくからですね。「真っ暗な箱」は日常で疲れ果てた主人公がエレベーターに乗ると、幻覚のようなアクシデントが起き、最後まで現実と妄想が交ざったような感じで終わります。
〈横には美人な女性が立っていた。〉とか、言語化のきめがやや粗いように感じます。内容の面白さに加えて、言葉そのものの感触も大事にしてほしいですね。これも△マイナス、0・5点ですね。
高橋この話、よくわからないんですよ。原野を見たといって、また家に戻ると原野でしょ。これはどういうこと?(笑)。小説は筋が通っていなくてもいいし、解釈が不可能でもいいんだけど、ぼくはこの話には納得できなかったなあ。×ではないけど、△マイナスでもないので、0・25点という感じです。
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/相葉ライカ