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第13回W選考委員版「小説でもどうぞ」発表 高橋源一郎&夢枕獏 公開選考会

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小説
小説でもどうぞ
結果発表

選考会では両先生が交互に感想を言い合い、採点しています。作品の内容にも触れていますので、ネタ割れを避けたい方は下記のリンクで事前に作品をお読みください。

1951年、広島県生まれ。1981年『さようなら、ギャングたち』でデビュー。すばる文学賞、日本ファンタジーノベル大賞、文藝賞などの選考委員を歴任。

1951年、神奈川県生まれ。東海大学文学部卒。98年「神々の山嶺いただき」で柴田錬三郎賞受賞。ほか、『陰陽師おんみょうじ』『餓狼がろう伝』など著書多数。

無理やりな理屈でも
いいから、読む人を
驚かせたい
作者は女性だろうと
うっかり思ったほど
―― 最初は「エンドロールはまだか」(神谷健太)です。

高橋主人公は社会人2年目のアヤカです。湯船に入ってサブスクで映画を観ていますが、夜の十二時を過ぎると月額料金が千円弱かかる。映画を観てから解約しようとしますが、時間ぎりぎりで事件が起きます。後輩からメールが来て、メッセージを弾いたらスマホが倒れ、野菜スティックのニンジンを湯船に落としてしまう。それで解約を諦めて映画を観たら没入感があって感動し、後輩からのメールにお礼のギフトコード千円分がついていて、ほっこりして終わります。
 悪魔との契約や結婚が多かった中で、サブスクの契約をテーマにしました。お話にしにくいものを選びましたが、そつがなく、かわいくて好きですね。△プラスです。

夢枕この作品を最初に読み、基準点にいたしました。ほかの作品と比較し、私は○です。なにげない話をうまく書いたなという印象で、文章もきちんと書かれている。作者は女性だろうとうっかり思ってしまったくらいです。ごく普通の日常のことを上手に書いていて、実際にありそうです。ショートショートと言うとシャレた話に気の利いたオチという印象ですが、こういう話でもよく、ニンジンで落としたところもよかったです。

―― 2番目は「ハラロボ」(ナラネコ)です。

夢枕ハラロボは、ハラスメント対策のために開発されたヒト型ロボットで、ハラスメントをしたくなったらロボットにぶつけるというものです。序盤はよかったのですが、ハラロボが犯したミスでないことでいちゃもんをつけられています。これは違うんじゃないかなと。それなら定年退職したおやじが「はいはい」と聞いていても成立してしまいます。設定はよかったのですが、これは×です。

高橋男性ロボットはおどおどしていて、女性ロボットはセクシーで、これはハラスメント誘発ロボットですね(笑)。鬱憤をぶつければハラスメントはなくなるという発想です。解決になっていません。余計ひどくなる。これだとあと味が悪いかな。△マイナスです。

―― 3番目は「実りある人生とは」(村木志乃介)です。

高橋死神が現れ、「あなたの寿命は百年、健康寿命は六十年で、四十年は寝たきり」と言われます。六十歳までは実りある人生が送れるよう願いを叶えてくれないかと聞くと、寿命と引き換えにならできると。しかし、主人公は納得せず、契約しません。最後は「健康寿命を延ばすために不摂生をやめた」という終わりですが、死神は未来のことを言ったのだから、不摂生をやめても変わらないはず。これはオチていないのではないかということで、△マイナスです。

夢枕「残業したくないときに定時で帰れる」で寿命五年と引き換えなどと出てきますが、これに面白い理由づけをしたらよかった。それでこの年数なんだと、無理やりな理屈でもいいから読む人を驚かす。「上司と会いたくない日は、絶対に会わなくて済むようにしてあげます」も、会いたくなければ、死神に頼まなくても会わない方法はいっぱいあります。もっとひねってほしい。あとはオチですね。このオチは、死神が言ってることには大穴があって、健康寿命を延ばせることがバレてしまったということでないと成立しないですよね。△マイナスにしたいですが、前の作品とのバランスを取るために×にします。

高橋途中があらすじになってしまっていますよね。短くても話の肉になる部分が欲しいです。

夢枕「おっ」という部分をちょこちょこっと入れるだけでかなり違ってくると思いますね。

この手のパターンは
星新一さんがもう
いっぱい書いている
いい話は難しいが、
文章も相まって成功
―― 4番目は「セールスマンの星」(かすみけいこ)です。

夢枕松尾さんという人のところにセールスマンが行くと、逆に宇宙船が迎えに来たら新星に移住するという契約書にサインをしてくれと言われます。最後に本当に宇宙船が来てしまうというオチもありかなと思いますが、さらっと終わったところに好感が持てます。このさらっとした流し方がいいなと思います。△プラスです。

高橋孤独な老人が契約という形でセールスマンたちと親交を結び、孤独を慰めます。セールスマンたちもそれをうすうす知りつつ話に乗っかるのですね。

夢枕いい話じゃありませんか。

高橋いい話を書くのは難しいのですが、この作品は文章も相まって成功しています。あとで出てくる女の人も生活の向こうに孤独を抱えていそうで、書かれてはいませんが、そういうものが垣間見えて好意的にみました。僕も△プラスです。

―― 5番目は「魂姻」(乱菊渚)です。

高橋この作品は〝魂姻〟ということで、悪魔と偽りの結婚をする女性の話です。主人公の女性は復讐のために魂と引き換えに婚姻をしてくれと言ったのですが、実は嘘で、悪魔のことが好きでした。理由をつけて悪魔と結婚しましたが、悪魔もいつしかその女性を愛するようになります。契約をしているから魂を取られるはずでしたが、悪魔はその契約を無視して自然のまま輪廻りんねに任すと。その女性としては魂を取られたかったが、最後、悪魔は魂にキスをする。いい話なんですが、これはきれいすぎるかな。悪魔が悪魔っぽくないんですよね。△です。

夢枕好きになったきっかけが欲しいですね。単に好きだったと書くだけではなく、この女性が本当に失恋していて、そのときに、悪魔のいかにも悪魔っぽい何かがたまらなかったという何かを考えつけば成功したと思うんですね。
 それとなぜこの悪魔を指名できたのかに触れておいてほしいですし、〈二百十七年も昔〉という細かい数字を出すなら、実はあの事件から数えて二百十七年なのかと、有名な事件とシンクロさせていたらよかった。私は×です。

―― 6番目は「偽装結婚」(我楽大)です。

夢枕男性には膨大な借金があり、自殺しようとするが、後輩の女性が現れ、結婚しようと言う。彼女は名家の令嬢で、偽装結婚すれば問題が解決すると。二人はそのまま偽装結婚を続けますが、女性が亡くなったあと、手紙を渡され、彼女にとってこの結婚は偽装ではなかったとわかります。契約者を好きになる、この手のパターンは、星新一さんがもういっぱい書いていますね。手塚治虫さんも書いています。星新一と手塚治虫のあとではペンペン草も生えていないような世界で、そこに挑戦した意欲は評価したいですが、少しきれいすぎるかな。もうちょっと何かブラックな要素が一滴でもあれば、様子も変わったのかなということで、△マイナスです。

高橋一カ所、わからないところがあるんですよ。最後、お墓を建ててそこに入ろうと決めたとき、主人公は胸に感じる寒さに震え、そのあと、〈私も嘘をついていたようだ。〉と書かれています。これってどんな嘘ですかね。最後に書いているということは、どこかで決定的な嘘をついているはずなのですが、それが書いてないんですよね。

夢枕そうですよね。結末は読者に預けますという優れた余韻を残す謎ならばいいですが、ショートショートでこういう謎を残してはいけないですね。

高橋読み落としたのかなと思って読み返しましたが、どんな嘘かわかりませんでした。書いたつもりで、実は書いてなかったのかもしれません。△マイナスです。

常套句は一カ所でも
書きたくないのに
二カ所ある
面白いと書かず、
どう面白いかを書く
―― 7番目は「天使の契約」(丹波らる)です。

高橋中年男性と悪魔の契約をしたが、一方的に解約を解除され、五十万円を踏み倒された。それで悪魔は中年男性はやめて高齢者の命を次々に奪ったところ、逆に感謝され、「あなたは悪魔じゃなくて天使だ」と言われるという話です。
 理に落ちたというか、途中の話があまり面白くないのかな。それと裁判長がなぜゼウスなのか。いろいろ疑問があり、あまり楽しめなかったです。△マイナスですね。

夢枕〈薬にも毒にもならない〉は〈毒にも薬にもならない〉と書いたほうが自然ですし、〈薬にも毒にもならない判決〉がどんな判決なのかを書いてほしい。この作品はすごく面白い話をしたと言っているだけで、どう面白いかを書いてほしいですね。これは×です。

―― 最後は「マクガフィンを追え」(ときのき)です。

夢枕主人公はスパイ映画のように逃亡しますが、実はそれこそが目的のない人生を歩んでいる息子を心配していた父親からのプレゼントだったという話です。
 これも星新一さんが書いていた気がしますが、冒頭の〈おれの人生はひどく退屈だった。〉の退屈さ加減を書いてほしいのと、父親との関係性が今一つわからず、主人公も学生なのか、サラリーマンなのかもわかりせん。〈目を白黒させている〉という常套句じょうとうくは一カ所でも書きたくないのに二カ所ある。〈怒号の飛び交う鉄火場に〉は鉄火場の意味が違います。
 それと狙撃してきたのは母親か兄弟だったとか、実は家族全員でスパイ映画のようなことをやっていたとかといった設定にしたほうが面白かった。これは×です。

高橋タイトルでタネ明かしをしてはいけないです。このタイトルで行くならもう一工夫したい。

夢枕タイトルで騙すぐらいのね。

高橋タイトルどおりですよね。実は「え? そうだったの?」というふうにしないと成り立たないかな。それとね、やっぱり僕も星新一だと思ってしまいました。でも、星新一かなと思わせてしまう星新一がすごい(笑)。
 どこでどうひねるかが課題みたいなものなので、この話をもとに何かひねった話を作ってほしいですね。△マイナスです。

―― 総得点では「エンドロールはまだか」が一番です。

高橋ほかの作品は「契約」というテーマに縛られて、悪魔とか結婚とかいかにもの契約で話を作っていますが、「エンドロールはまだか」だけはちょっと考えつかないような方向からアプローチして、しかも契約そのものでした。ということで、「エンドロールはまだか」を最優秀賞とします。