公募/コンテスト/コンペ情報なら「Koubo」

5.16更新 VOL.25 小説新潮新人賞、ほか 文芸公募百年史

タグ
小説・シナリオ
小説
文学賞ガイド
文芸公募百年史

VOL.25 小説新潮新人賞、ほか 


今回は、昭和40年代後半に創設された文学賞ーー小説新潮新人賞、NET「二千万円テレビ懸賞小説」、週刊小説新人賞を紹介する。
プロの登竜門の新人賞、放送局の懸賞小説、週刊小説誌の新人賞と、昭和40年代後半は主催者もバラエティーに富んでくる。

なぜかうまくいかない小説新潮新人賞

昭和47年(1972年)、小説新潮新人賞が創設される。
「小説新潮」と言えば、昭和22年(1947年)に創刊され、中間小説ブームを牽引した雑誌だけに、創刊から25年も新人賞を持っていなかったことが不思議だが、とにもかくにも小説新潮新人賞は文芸新人賞の後発組としてスタートする。

ただ、今で言うエンタメ小説の新人賞を持っていなかったわけではなく、昭和29年(1954年)には小説新潮賞を創設している。石川達三、石坂洋次郎、舟橋聖一、丹羽文雄、尾崎士郎、井上友一郎、広津和郎、獅子文六らを選考委員とし、新人を対象に中間小説を募集した。原稿枚数は400字詰原稿用紙50枚以内、賞金は10万円だった。
応募総数は650編超。で、結果はというと……。

これがなぜかうまくいかなかった。7年は継続したが、有意な新人を発掘できず、第8回のときに大きく募集内容を変える。未発表原稿ではなく、単行本や雑誌に掲載された中間小説を対象に受賞作を選ぶようになったのだ。つまり、一般公募をやめたのだ。
第8回以降の受賞者には藤原審爾、有吉佐和子、青山光二といった著名人の名があるが、受賞者は無名の新人ではなく、この賞をきっかけにデビューしたというわけでもない。

ちなみに中間小説というのは、純文学作家にエンタメ小説を書かせたもので、文学の領域にありながら、エンターテイン(楽しませる)もしているという小説を言う。
中間小説雑誌は、新潮社の雑誌「日の出」にいた編集長、和田芳恵さんが大地書房から昭和22年に創刊させた「日本小説」が初と言われ、同じ年に創刊された「小説新潮」とともに中間小説ブームを作った。

なぜ純文学作家にエンタメ小説を書かせたのかというと、エンタメ小説人気によって食いつめた純文学作家の救済という面もあるが、出版社側も有能な人材を求めていた。
「小説新潮」の「創刊の言葉」には「通俗に堕せず、高踏に流れず、娯楽としての小説に新生面を開く」と書かれている。では、どのようにそれを実現したのかというと、すでに名を成している純文学作家に大衆向けの小説の執筆を求めたのだ。

横光利一は「純文学にして大衆小説」という純粋小説を提唱したが、純文学のように硬くもなく、低俗な小説でもなく、深い感銘もあれば娯楽性もあるなんて最強だ。しかも、当時はあまり娯楽がなく、家に帰れば小説を読むという層も多かったから、これが大うけする。あまりの人気に、それまで大衆小説誌だった文藝春秋の「オール讀物」も中間小説誌になり、講談社は「講談倶楽部」を休刊にし、代わりに中間小説誌「小説現代」を創刊する。結果、昭和30年代には中間小説の市場は100万部以上となるのだ。

昭和の終わり頃には中間小説という言い方はされなくなる。理由はよくわからないが、世の中の大半の小説が中間小説であれば、もうそう言う必要がなくなったのかもしれない。ほとんどのコーヒーはブレンドコーヒーだから、そう言わなくても単にコーヒーで通じるのと同じだろう。

選考委員は井上ひさし、筒井康隆なのに

話を小説新潮新人賞に戻そう。同賞は、昭和43年(1968年)で終了した小説新潮賞を受け、改めて新人に文壇進出の機会を与えるために創設された。選考委員は吉行淳之介、田村泰次郎、「小説新潮」編集長で、原稿枚数は50~100枚、賞金は20万円だった。
応募総数はというと、なんと23編。そんなバカなと思ったが、これには理由がある。応募できるのは、「小説新潮」の読者コーナー「小説新潮サロン」(原稿用紙7枚の短編小説募集)で佳作以上となった人のみだったのだ。

よく考えると、このシステムは画期的で合理的だ。佳作以上になったということは一定の実力があるということで、これで箸にも棒にもかからない作品を排除できる。審査もかなり楽になり、予算の削減にもなる。
しかし、これがうまくいかなかった。文学賞にはなぜか大量の駄作がないと秀作も集まらないという七不思議があり、小説新潮新人賞も第2回のときに海老沢泰久(受賞作は「乱」)を発掘したが、それ以外は大きな成果をだせず、第10回で刷新を余儀なくする。

小説新潮新人賞(第2期)は、通算では第11回となる昭和59年(1984年)にリニューアルされ、第1回としてスタート。応募資格は新人であれば不問とし、賞金は一気に100万円に増額した。選考委員は井上ひさし、筒井康隆である。日本の文壇の2トップと言っていい。これでうまくいかないはずがない。事実、応募総数1365編を集めた。
ところが、なぜか新人が育たない。不思議としか言いようがない。

結局、第2期小説新潮新人賞も平成4年(1992年)の第10回をもって終了してしまう。「小説新潮」関連の文学賞は、日本ファンタジーノベル大賞と新潮ミステリー大賞、それと女による女のためのR-18文学賞があるから、もう復活する必要はないかもしれない。なんとも寂しいが、世の中には絶対にうまくいかないはずがないのにうまくいかないことがある。

こうなるともう創設した年が編集長の天中殺だったか、「小説新潮新人賞」の画数が悪いかしか理由が思いつかない。
余談ながら、「小説新潮新人賞」の名称は社内公募で決めたらしい。にしては王道すぎるかな。いいのがなくて、コンセプトをそのまま採用作としたのかもしれない。

NETが破格の賞金で「二千万円テレビ懸賞小説」開催

これまでは新聞社、出版社主催の文学賞ばかりだったが、昭和40年代はテレビが躍進した時代であり、テレビ局も公募をするようになる。既存の小説をドラマ化するだけでなく、新しい素材を求め、テレビドラマ化を前提に懸賞小説を募集するようになるのだ。

昭和49年(1974年)、開局50周年を記念して、NETテレビ(日本教育テレビ、現朝日放送)が「二千万円テレビ懸賞小説」を実施する。
賞タイトルにあるように賞金は破格の2000万円だ。これ以外では2005年に創設されたポプラ社小説大賞ぐらいしか例がないが、同じ2000万円でも今の物価は昭和49年の2.5倍だ。当時の2000万円は現在の5000万円ぐらいの価値があった。

原稿枚数は400字詰原稿用紙500~600枚。選考委員は松本清張、瀬戸内晴美(寂聴)、池波正太郎、平野謙、高橋玄洋、「週刊朝日」編集長、テレビ朝日専務取締役の7氏だった。しかも、副賞は賞金2000万円のほか、世界一周旅行に学芸百科事典まである。
これだけ大々的にやれば歴史的名作でも発掘しただろうと思ってしまうが、受賞作は特に有名という作品ではなく、しかも、文学賞自体、第1回をもって終わってしまった。応募総数は962編あったからまずまずだが、やはり視聴率をとれる原作を発掘できないことにはこの手の文学賞は長続きしない。

小説人気から週刊小説誌まで登場、新人賞を創設

年度が前後するが、昭和47年(1972年)に実業之日本社が「週刊小説」を発刊し、創刊記念として懸賞小説を募集している。原稿枚数は500枚~700枚と長編で、こちらも賞金も破格の1000万円。選考委員は尾崎秀樹、柴田錬三郎、丹羽文雄、水上勉、吉行淳之介の5氏だった。

残念ながら該当作はなしだったが、一般公募することにはメリットを感じたようで、昭和49年から「週刊小説新人賞」としてレギュラー化し、第5回まで実施している。
ただし、募集内容はかなり変えていて、新人賞のほうは短編賞で、原稿枚数は50枚~80枚、賞金は30万円とこぢんまりとしている。しかし、選考委員は生島治郎、尾崎秀樹、黒岩重吾、早乙女貢、曾野綾子、三浦哲郎の6氏という錚々たるメンバーだった。

結果のほうはあまり芳しくなく、応募数も毎回200~300編止まり。第2回~第4回まで3年連続で該当作なしが続き、第5回をもって終了した。受賞者の中にもその後、大化けしたような人もいなかったが、最終候補までいった応募者の中に、パスティーシュの清水義範と『銀河英雄伝説』の田中芳樹がいた。もうちょっと頑張って10年やっていたら、すごい大物を発掘できたのにと思わないでもない。

新人賞からは離れるが、週刊の小説誌というのは珍しく、需要はあったのかなと思う。しかし、週刊漫画誌があるのだから週刊小説誌があってもよく、連載を読むなら月刊より週刊のほうがサイクルが早くていい。ということで小説好きに支持され、同誌は2001年12月28日号まで続き、2002年3月からは「ジェイ・ノベル」として月刊化、2017年で紙媒体は終わるが、現在も「Webジェイ・ノベル」として存続している。

Webジェイ・ノベル新人賞とかやらないんですかね。選考委員を清水義範と田中芳樹として!

文芸公募百年史バックナンバー
VOL.25  小説新潮新人賞、ほか、
VOL.24  文藝賞、新潮新人賞、太宰治賞
VOL.23  オール讀物新人賞、小説現代新人賞
VOL.22  江戸川乱歩賞、女流新人賞、群像新人文学賞
VOL.21  中央公論新人賞
VOL.20  文學界新人賞
VOL.19  同人雑誌賞、学生小説コンクール
VOL.18  講談倶楽部賞、オール新人杯
VOL.17  続「サンデー毎日」懸賞小説
VOL.16 「宝石」懸賞小説
VOL.15 「夏目漱石賞」「人間新人小説」
VOL.14 「文藝」「中央公論」「文学報告会」
VOL.13 「改造」懸賞創作
VOL.12 「サンデー毎日」大衆文芸
VOL.11 「文藝春秋」懸賞小説
VOL.10 「時事新報」懸賞短編小説
VOL.09 「新青年」懸賞探偵小説
VOL.08  大朝創刊40周年記念文芸(大正年間の朝日新聞の懸賞小説)
VOL.07 「帝国文学」「太陽」「文章世界」の懸賞小説
VOL.06 「萬朝報」懸賞小説
VOL.05 「文章倶楽部」懸賞小説
VOL.04 「新小説」懸賞小説
VOL.03  大朝1万号記念文芸
VOL.02  大阪朝日創刊25周年記念懸賞長編小説
VOL.01  歴史小説歴史脚本